第6話

葬儀会場で、真夜は椅子に座っていた。


真夜は今、樫木中学校の制服を身に着けていた。


学生にとっての制服は礼服として葬儀の場に着ることになる。


中学生になった時、父は自分の制服姿を見て喜んでくれた。


「真夜もすっかり立派な中学生のお姉さんだね」と娘の成長を嬉しそうにしていた。

 今はその制服が父の葬儀の喪服になるだなんて皮肉だ。


 父が喜んでくれた制服を、今は父の死の見届けの礼服にしている。


 葬儀は静かに行いたいということで小さい会場を借りた。

人数も約二十人ほどが参列できる規模だ。


あまり大勢で来るとその分会場を借りる費用もかかるし、父は静かに過ごすことが好きだったからきっとこの方がいいという意向もあってだ


母と父は一人っ子同士の結婚なので真夜には叔父と叔母といった親戚がいない。

そうなると当然ながら従兄弟もいない。


父方の祖母祖父はすでに亡くなっており、母方の祖母は存命だが身体の自由がきかず、遠方の老人ホームに入っていてここに来ることはできなかった。


親戚が少ないからこそ、その分葬儀はスムーズに進んだと言える。


棺の中の父は白い死に装束を着て、花に囲まれていた。


「ほら、真夜。ちゃんとお父さんにお別れしなさい。よくお顔を見るのよ」

「うん」


 これで最後だからと顔をじっくり見なくてはならない。後で写真で見る方がいいのに、というが母は意固地にちゃんと最後に顔を見てお別れしろと言った。火葬すると、もう二度とこの肉のある身体が見れなくなるからだ。


死に顔が苦しそうな表情ではなく、安らかな顔だったことが救いか。


まるで眠ってるかのように棺の中に横になっている。


動かない父を見て、真夜は涙が出そうになった。しかし、親戚の手前、しっかりしなくてはならない。中学生にもなって人前で泣くだなんて恥ずかしいという気持ちも合った

 遠方の親戚や父の知人が葬儀会場に訪れ、母は慌ただしく挨拶をしていた。


「あなたももう中学生なのよ、しっかりご挨拶なさい。そのくらいできるでしょ」


子供ではない、中学生なのだからちゃんとしなくてはならない


小さい子供のように、泣いてはいけない。


中学生なのだから大人としてのふるまいをしなければならない、と気を張った。


父のことが大好きなのならば、人前で恥がないように、立派に一人娘として父を見送らねばならないという気持ちがあったからだ。


「お父さん、安心してね、私はこれからも頑張って生きていくから」


本音ではこう言いたくない。本当は父がいなくなり、今後が悲しくて不安である。

しかし、前向きにこうして明るく見送らねばならないと思っていた。


父の葬儀も終わり、火葬場に行き、家に帰ると、そこはもう別の家な気がした。

入院していた父が亡くなり、この家は完全にこれからは母と真夜の二人だけだ。


 これからは父に頼ることができない、悩みを話すこともできない、これからは自分自身で解決していかねばならないと心に決めた。


明日からは学校だ。またいつも通りあそこへ戻らねばならない。

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