第4話 師匠は神々しい男と対面する
ウェイジンとコウグゥの視線の先に男がいた。煌びやかな白い髪をひとつに結び、その尻尾がなびく。人間では滅多に見られない黄金の瞳。神々が手掛けたと言われたら納得するような、顔立ちの良さ。誰かが用意したのか、襟のあるシャツに茶色の長ズボン、長いブーツという庶民の格好だ。静かな歩き方とはいえ、降り注ぐ太陽の光と穏やかな風でどこか神秘的なものを演出させている。同性のセオはその神々しさに息を呑む。
「あなたはここの研究機関の者か」
「あ。はい!」
相手は王様のような立場ではない。しかし彼が持つ雰囲気に押され、セオは緊張し、声が震えていた。
「セオ・アイヴンと申します」
「ユゼ・シェンロンと言う。シェンロンの言葉をここまで使える人はこの国で初めてだ」
「私もかつてそちらに行ったことがあっただけですので。彼女がいるところまで案内をしましょうか」
「ああ。よろしく頼む」
彼が来た理由を知っているセオは機関長がいるところまで案内をする。通りがかった人の視線を受けながら、ガチガチになりながらも、自分の役目を果たす。その途中で鼻が大きく、耳先が若干尖っている、黒色のオフィスカジュアルのような恰好をした六十代の女性と出くわす。
「機関長」
事情を教えなければと、セオは声をかけた。機関長と呼ばれた老齢の女の足が止まり、優しい眼で若者を見る。
「セオ、ごくろうさま。悪いね」
柔らかい笑みをしながらも、機関長は思い切り、セオの背中を叩いた。
「顔にそういうの出てないんですけど! てか、痛い!」
「ははは! まあとりあえず自室に戻りな! 終わったら連絡するから」
「は!?」
爆弾発言を聞いてしまったセオは何かを言おうとする。しかし既に廊下に誰もいない。ため息を吐きながら、とぼとぼとセオは自分が持つ研究室に戻る。
「なんで君がここにいるんだい」
「だめなんですか?」
ドアの前にいるアポイント無しで来た弟子であるスイレンを見て、二度目のため息をする。
「なんか疲れてません?」
「うん。ちょっと色々とあっただけ。で。用事は」
「試作品のクッキーを渡しに」
彼女の返答にセオの眉間に皺が出来た。
「使い魔で渡せただろ」
「だって紅茶と一緒じゃないとあれですし。こういうのは他の人の助言もないと」
真剣に語る弟子に、師匠は朗らかに笑う。
「お茶会で必ずあるからな。分かった。入って」
弟子を部屋に迎え入れる。そして真ん中の小さい折り畳みテーブルに、温かい紅茶と弟子のお手製クッキーを置き、ちょっとしたお茶会が始まる。
「そう言えば、騒がしかったような気がしたのですが」
比較的遠くにいた弟子ですら、騒ぎを感じ取っていた。セオはその原因となったものを教える。
「あ。ああ。例の客人が来たんだよ」
「シェンロンがあったところからでしたね」
「そう。君と同郷だね。でも全然違った。あれは本当に人間なのかって思うぐらい、オーラが凄かったし」
笑ってはいるものの、セオの声は弱々しい。
「名乗ってました?」
弟子の質問に師匠は答えながら、ある点に気付く。
「うん。ユゼ・シェンロンって。あ。そういりゃ……滅んだ国と同じのを苗字として使ってる」
スイレンはぴくりと反応をした後、弟子として、知っていることを師匠に話す。
「それと伝承でもシェンロンは出ます。この国に出てくるドラゴンロードと同格かそれ以上の、神に等しい存在だと言われてます。恵みの雨を降らす。時には天罰を下す。雨や水との関わり合いが深いでしょう」
その話にセオは納得する。
「まあ稲作とかは水が必須だもんね。で。どう思う。苗字として、シェンロンを使う?」
「いえ。そもそも聞いたことすらないです。シェンロン国がある時代でも、帝たちは使っていなかったですし」
研究室に人の声がなくなる。時計の針の音と、クッキーを咀嚼する音、引っ張ってきたシェンロンに関する資料の捲る音が今の二人を物語っている。研究者らしく、学問として追求してしまう。その性が出ていた。
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