第3話 師匠は東の地からの御一行と接触する
貴族たちが避暑地に行く夏。魔法研究の世界は相変わらず、研究する日々だ。所属している学生たちは夏休み期間に突入中だが、中には先生と慕う人の研究に没頭しているタイプもいたりする。簡単にまとめると、魔法研究機関はバカンスだろうと、賑わっているということだ。
「うん。君達ね。気持ちは分かるけどさ。あと一歩で火事だったことを忘れないでよ? というか何で僕が先生の役目をしてるのさ!」
そのバカンス期間の一日でしかない今日に限って通常よりもトラブル率が高かった。セオは教鞭をとっているわけではないのに、建物の中心地にある大きい庭で大規模な実験をしていた生徒達に注意をしていた。
「ほら。片付けをする!」
「はーい」
ネクタイの制服姿をした生徒達が素直に片付け始める。セオは盛大なため息を吐きながら、彼らのことを見守る。
「今度は先生がいる中で実験をやるように」
「はーい」
片付けが終わり、セオは魔法研究者の先輩として、きちんと研究者の卵達に指導をする。
「ねえ。知ってる?」
その卵達のひとりが無邪気な表情で言った。
「何?」
「今日の十五時にお客様が来るって」
「ああ。機関長から聞いたよ。東洋の、かつてあったシェンロン国の人だということぐらいは」
「センセーもそっち出身?」
セオは思わずズッコケそうになる。声に力を入れながら、セオは己のルーツを語る。
「違う違う! 俺のこの見た目はご先祖様の! 遥か昔の騎馬民族が渡ったから、西側の一部の人も黒髪黒目になってるだけだから!」
「騎馬民族?」
「そう。詳しいことは他の先生に聞くことだね。ほら。行った行った」
両手で叩く音が大きい庭に響く。研究者の卵たちは四方八方に散り散りになった。
「たく。彼奴らの先生はどこ行った」
小さく愚痴りながらも、セオは魔法の糸を精製して、鳥の形に仕立て上げる。伝えたい情報を中に込め、届けたい相手に飛ばした。と同時に、セオは固まってしまう。背後に誰かがいると察知したためだ。
「この匂いは……お嬢のだな。あとは何だ。色々混じってる?」
低い声らしき男はシェンロン国で使われる言葉を発した。それと同時に後ろからセオを抱き寄せる。
「離れろ!」
セオがどれだけ力を入れても、びくともしない。男は更に匂いを求め、首筋辺りに己の鼻を近づける。
「土。馬の糞。いくつかの匂いは研究で付いたものか。この魂はだいぶ複雑だな」
耳元で囁いてくる男の声が中心に届き、セオはぶるぶると身体を震わせる。
「耳元で囁きながらはやめてくれ」
そして研究者らしく、指摘もしてみせる。
「つか。魂に匂いという表現は正しくないだろ」
男はあっさりと認める。
「そうだな。その感じだと死後の世界の知識を有してるのか。東方の地の民と似た見た目だから近付いただけだが……名は」
「セオ・アイヴン。ここの研究者だよ」
「ある者にお仕えしている。ウェイジンという」
ウェイジンと名乗った男はようやくセオから離れる。セオはホッとする。
「お前という奴は!」
その数秒後にある男がどこかから駆けつけ、ウェイジンを名乗る男に拳骨をくらわせていた。黒髪の男がしゃがんで痛そうに頭を擦っている。近くには赤毛黒目の襟を立てた服装に羽織った格好をしている青年がいる。
「普通に話しかければすむでしょうが! ああ。悪い。ご迷惑をおかけしました。コウグゥと申します。知っていると思いますが、滅んだシェンロン国の地からやってまいりました」
「あ。ご丁寧にどうも。セオ・アイヴンと言います」
「シェンロンの言葉を流暢にお使いですね。以前行ったことが」
「はい。研究の一環として。ところであなたたちが仕えている方はどこに」
コウグゥと名乗る赤毛の男の視線は外の廊下に向けていた。うずくまっていたウェイジンが立ち上がり、出迎えるような態勢になっている。二人の様子を感じ取り、セオは真面目で真剣な気持ちを切り替えた。
二人が再び結ばれるまで~師匠として、美人で可愛い弟子を見守りたい いちのさつき @satuki1
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