第4話 黒い呪い

奇妙な足跡は冷凍庫の奥まで続いている。


2人の足がすくむ。冷凍庫からの冷気で寒いのも影響があるが、例の不気味な音も相まって恐怖と動揺が隠せない。


怖くてしかたがなかったが、裕太郎は意を決した。


「俺がとりあえず1人で様子を見てくるよ。三輪さんは後藤さんに状況を話してこれる?」


「ダメ…1人にしないで。私も着いていきます。」


奏は裕太郎の制服の裾を引っ張る。彼女の小さな手も恐怖で小刻みに震えていることがわかる。


彼女は明らかに動揺している。冷静な判断を期待するのは難しいかもしれない。


裕太郎は深く息を吸い、ふーっ、と吐き出した。涙ぐむ奏の肩にポンと手を置く。


「わかった。一緒に行こう。ただし、何かあったときは冷静に、自分の身を守ることだけ考えて。」


奏はポロポロと涙を溢しながら小さく頷いた。


2人はそっと冷凍庫に足を踏み入れる。冷たい空気が肌を強く刺す感覚はあったが、それ以上に奇妙な足跡ときしむ音が不気味だ。


冷凍庫の中は思ったより広く、商品がぎっしり並んでいる。誰のものともわからない足跡を辿りながら、裕太郎は何度も奏の安全を確認する。彼女は緊張で声を出せずにいた。


「ここか…」


足跡は冷凍庫の1番奥の壁付近で途切れていた。まるでその場にいた誰かが急にそこから消えてしまったかのように。


「妙だな…」

裕太郎がそう呟いた次の瞬間…


「バタン!!」


不意にさっきまで開いていた扉が閉まる音がした。確か勝手に閉まることがないように、荷物を置いて引っ掛けておいたはずなのに。


驚いた2人は思わず後ろを振り返る。外の明かりが完全に遮断されたことで、冷凍庫は一瞬で完全な暗闇と化した。


「ちょっと待て…なんで…」

裕太郎が言葉を言いかけたその時…


「ギギ…ギギ…」


あの音だ。不気味な何かがきしむ音。身体が恐怖で凍りつく。裕太郎は何とかその音の出所を突き止めようと動こうとする。


しかし、後ろにいた奏が裕太郎の服を強く引っ張る。そして声をひそめて「何か…いる…」と声を震わせて言った。彼女の声や態度から、とても冗談を言っているようには思えなかった。


裕太郎は暗闇で立ちすくむ。目が暗闇に少しずつ慣れてきた。そして確信した。明らかに音の主と思われる影のようなものが通ったのが見えたのだ。


裕太郎は奏の手を強く握った。恐怖に震える彼女の手は冷気でかなり冷たかった。得体の知れない影のような"それ"は、2人の周りをぐるぐる動いているように見える。


そして「ギギ…ギギ…」という音は、どんどん近く大きくなってゆく。


裕太郎はひたすら大きな声で「大丈夫…大丈夫…」と唱え続けた。奏に聞こえるように。そして音をかき消すように。


黒い影のような"それ"は、顔まで見えないもののほぼ裕太郎の目の前まで近づいているように見えた。


そして"それ"は無数の人の手のようなものを伸ばし、2人を捕まえようとしてきた。


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呪い愛 @sadaaki

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