第3話 迫る恐怖
裕太郎は体調を崩した茜のことを心配していた。茜は以前、パートのおばさんから無理に仕事を押し付けられたことがあり、その様子を裕太郎も見ていた。
裕太郎が彼女を手伝ったことでその時は何とかなったが、今でも時折嫌がらせのように仕事を投げられてしまっていると、彼女から相談を受けたことがある。
(藤崎さんの体調不良は、もしかしたらそれが原因なのか…?)
ぐるぐると考え込む裕太郎だったが、今立ち止まっていても仕方ない、と思った彼はすぐさま後藤さんから任された値引きシール貼りの作業に入ることにした。
スーパーでは出来る限り売れ残りをなくすために、夜になると惣菜などの商品に値引きシールを貼って在庫を売り切ろうとする。
黙々と商品にシールを貼っている裕太郎に、後ろから三輪奏が声をかける。
「先輩!ちょっといいですか?」
「三輪さん、どうしたの?」
「ちょっと助けてほしいことがあって…」
彼女の様子が少し変だ。一体何があったのだろうか?
「助ける?何か困ったことがあったの?」
「実は…冷凍庫のドアが開かなくなっちゃって…それに中から変な音がするんです。」
彼女は不安げな表情で状況を語った。冷凍庫に問題が起きること自体はそこまで珍しいことではないが、「変な音」という言葉がどうしても引っかかる。先ほど耳にしたきしむ音とも、何か関係があるかもしれない。
「わかった、ちょっと見てみようか。」
裕太郎は奏と共にバックヤードへ向かった。薄暗い通路を抜け、冷凍庫の前にたどり着いた。周囲は冷気が漂い、大きな銀色のドアが、それだけで異質の雰囲気を感じさせる。
裕太郎は試しにドアノブを握り、力を込めて引っ張ってみたが全く動かなかった。まるで何かが内側から押さえつけているかのようにビクともしなかった。
「うーん、開かないな…」
その時、冷凍庫の中から「ゴゴゴ…」という鈍い音が鳴り響いた。まるで巨大な物体がゆっくり動くような音である。二人は思わず顔を見合わせた。
「今のが、さっき言ってた音?」
「はい、さっきからずっとこんな音がしてて…」
「中に人がいたような様子は?」
裕太郎がそう聞くと、奏は首を横に振った。
「さっき外から声をかけてみたけど、その時は何も…」
裕太郎はその答えを聞き、底知れない恐怖を感じた。誰もいないはずの冷凍庫から、確かに聞こえる謎の音。開かないドア。ここまで来ると「お店が古いから」という理由では説明がつかないようなところまで来ている。
「店長に報告した方がよさそうだな…」
裕太郎がそう言おうとした瞬間、ドアノブが勝手にガチャリ、と音を立てた。そしてドアがゆっくりと、まるで内側から誰かが開けたかのように開いた。
冷凍庫の中からぶあっと冷気が漏れ出すとともに、異様な空気が流れ出ており、それを二人とも察知していた。
同時に何かが動いたような気配も感じたが、冷凍庫の中は暗くてよく見えない。
「先輩…あれ…」
奏が指を指す先には、霜のついた冷凍庫の床があった。しかしそこには、人のものと思われる足跡が…
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