アルケミスト

氷雨

プロローグ


 この世に存在する全ての事象を司る物理法則。私たちの世界でりんごが地面に向かって落ちることも、鳥が翼を羽ばたかせ空を飛ぶのも、船を水の上に浮かべることができるのも、全て物理法則に則る事象である。

 そんな物理法則を覆す要素がこの世界には3つある。

 一つ目は[神力しんりょく]である。

 世界の各地に存在する神の力を祈りや瞑想により引き出し、この世に顕現させる方法である。

 二つ目は[魔法マジック]である。

 自身の体内で生成された魔力や、世界中に溢れた魔力素を使用することで発動し、この世に超常的な現象、事象を発生させる方法である。

 三つ目は[錬金術アルケミー]である。

 特定の物質や魔力、神力を一定量掛け合わせることにより、新しい物質、時には魔力や神力の籠った特殊な物質を生成することのできる力である。

 これらの力を扱う者を、

 まとめて人々は「」と呼ぶ。

 この物語はそんな世界で生きる2人の「アルケミスト」の生きた軌跡である。







「あー、ったりぃ」

 一人の男が町の外れで呟く。

 男が今いるこの場所は、この世界の大国の一つである

 冒険国家「エントゥルーヴァ」

 様々な種族の冒険者達がダンジョンへ潜り生計を立てている。

 ここは、その端にある小規模な町の「ヒーズソカ」である

 何故男がこんな所にいるのかだが...



「にしても、ワイバーンの討伐依頼に後衛がいると楽だったとはいえ、なんでこんな寂れた酒場なんかで待ち合わせなんだよ...

 しかもあっちから連絡してきた癖に30分も遅刻してやがる...

ったく、本当に面倒だ...こんなことなら依頼を断わりゃよかったか...?」



 そんなことを一人で淡々と呟いているため、狭い店内の中で目立ってしまっているが、そんなことを気にするような性ではないため堂々としている

そんな時、



 カランカラン



 そんな音が鳴子から響き、酒場の入り口が開いた。

 扉から顔を覗かせたのは、一際異様な雰囲気を漂わせる古びた酒場に似合わない少女だった。

 少女はこちらへ向かって駆け寄り、こう言った。



「あ、貴方が私とパーティーを組んでくれた方ですか?よろしくお願いします!

 私は冬野時雨ふゆの しぐれと言います。貴方は、どんな色を見せてくれるのでしょうか?」



 突然のことに、8割の困惑と2割の疑惑を抱えた男は、少女...時雨の言葉に対して、人目を憚る暇もなく、眉間にしわを寄せながらこう返した。



「お前....自己紹介する前に遅刻したことをまず謝れやァァ!」


「す、すいませんでしたああああ!!」









 第一章 [邂逅]








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アルケミスト 氷雨 @FuyunoShigure

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