第7話
まだ後ろ姿しか見えてないけど。
「今日もカッコイイですわ」
惚れ惚れするような目で私──マリーは嘆息する。
赤髪のショートカットに揃えられたヘアーに、痩せてもなければ太ってもいない体型。身長も175センチで自分より10センチも高い。顔も特別イケメンではないが、誰が見ても爽やかな好青年、と答える面構えをしている。
小さい頃から知っている顔を思い浮かべながら、台車の上でバランスを保つ。
「姫様、メル様が今日もいますぞっ」
丁度アントの家を通過しようとした時、家臣が声を上げた。
家の方をみると、小柄で可愛らしい赤毛の少女が家の前に立ち笑顔で手を振っている。
「姫様!グリースさん!おはようございます!」
とびっきりの笑顔の横を通り過ぎる際に赤毛の少女は付け加えた。
「姫様!今日もとても美しいです!」
大きな黄色い声を聞いて思わず口の端が上がる。
やだ。可愛い。好き。
早く義妹にしたいわ。
頬を染めながら振り返り笑顔でメルに手を振り返す。
『メルちゃんも可愛いわよぉ〜!』
拡声器に乗せた声は甲高くなってしまった。
数秒お互いブンブンと腕を振り、満足したので正面に向き直った私はアントを見る。
彼は丘の頂上で立ち止まり、こちらを振り返っていた。
余裕みせてくれちゃって。
私たちは丘を登り始めた。
馬の蹄の音と台車の音が緑の大地に響く。振動が腹にズシズシと伝わる。
『余裕ぶっていられるのも今のうちよ〜!』
再び走り出し、視界から消えたアントに向って叫ぶ。
『今日こそ捕まえて──』
「姫様っ」
手綱を握っている家臣が振り返ってきた。
「何よグレース」
「グリースです。姫様いつもの挨拶忘れてますぞ」
そうだった。
丘を登りきるとターゲットは既に丘を下り橋に到達しそうだった。
口元に拡声器を当てて叫ぶ。
『アント!おはよう!』
アントの右膝がかくっ、と抜けた。
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