第5話


 肉眼でアントをはっきりと認識できる距離になったと同時に私──マリーは拡声器を口元に当てた。


『アントォー!今日こそ捕まえるわよ!』


 大声を出すなど、昔の私なら品の無い行為だと思うのだろうが、ここ数年で感性は変わってしまったようだ。


 今のが号令になったのだろうか。アントは走るペースを上げた。


「こちらもっ!」

「はいっ!」


 家臣が馬にムチを入れる。

 加速した荷台は揺れに揺れ、私は左右上下に不格好なダンスを踊る。

 けれど慣れと普段鍛えている体幹で倒れずに立ち続ける。


 今日こそ捕まえる!


 私の視線は走る男を捉えていた。

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