第4話
目の前のお皿たちが空っぽになったのを確認し、俺──アントはフォークを置き、合掌する。
「ごちそうさまでした!今日も美味かったよ、メル」
「おそまつさまでした。当然っ!」
小さな背丈で思いっきり胸を反った妹を見て、思わず吹き出す。
「勉強の方も当然のように出来るといいんだけどなぁ〜」
「うっ·······」
一瞬で背中を丸めたメルはジトっ、とこちらを睨んだ。食卓に広がっている皿を重ね、シンクに持っていきながら呟く。
「······勉強はキライ」
「こらこら」
「だって生活には役に立たないもん」
「そんな事はないよ」
食器を洗いながら妹はぶーぶー文句を垂れている。顔は見えないが不貞腐れた顔をしているのが容易に想像できる。
「おにーちゃんは家建てる仕事だから必要かも知れないけど、私は家事だけ出来れば後は何も···」
「けどなぁ〜」
妹がガチャガチャと音を立てて、食器を洗っていると──。
『······ぉ·······ぉ』
遠くから馬の足音と、車輪が大地を駆ける音が聞こえてきた。
もうそんな時間か、と時計を見るが、今日はいつもより早い。馬の調子がいいのだろうか。
同じく時計を見たメルは少し驚いた声をあげる。
「えっ、今日早くない?」
「メルもそう思う?」
俺は立ち上がり、玄関付近に掛けてあったショルダーバックを手に取る。
牛革で出来た靴を履き、ドアを開けると清涼感たっぷりの風が俺を迎えてくる。
家の直ぐ近くで栽培している野菜たちは朝露に濡れていてとても気持ちが良さそうだった。
まるで『いってらっしゃい』と手を降っているように風でユラユラと実を揺らしている。
俺に続いて家を出たメルは尋ねる。
「入国証は持った?」
「おう」
「はいっ、お弁当」
「いつもさんきゅー」
「帰りは遅くなりそう?」
「うーん。どうだろうか」
俺は屈伸をし、アキレス腱を伸ばしながら妹の問いかけに答えていく。
「······ねえ。おにーちゃん」
「ん?」
メルはこちらに段々近づいてくる『それ』を見ながら首を横に振る。
「······いや、何でもないっ」
「なんだよそれ、気になる」
「さあっ!いったいった!今日こそ捕まるよ!」
「ほいほい」
ストレッチが終わった俺はよし、と呟く。
「じゃあ、いってきます!」
「いってらっしゃい!」
笑顔で手を降っている妹に挨拶をして俺はゆっくりと走り出す。
さて今日も逃げ切りますか。
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