第16話 幕間 ティナ
王に呼ばれたティナが急いで向かった先は、使用人しか使わない薄暗い廊下の先にある、中庭だった。人通りがほとんどないその場所は、先々代の聖女と、かの人が出会い、言葉を交わし、気持ちを確かめ合った場所でもあった。
この場所を知る人物は、わずかしかいない。しかし、逆に言えば、知る人物もわずかながらいるということ。
だから、そこにいたのが、彼女を呼びだした人物でなくとも、ティナは驚かなかった。
「私を呼び出した理由をうかがってもよろしいでしょうか?」
「迷惑なんです。あの方に余計なことを吹き込むのが」
「筒抜けですか。素晴らしい間諜をお雇いですね、ソーマ」
ソーマは、揶揄するティナの口調には答えず、ただほほ笑んだ。
ティナは、背後の出口への距離を測る。
「けれど、私は、陛下のご意思を代弁しただけのこと。迷惑と言われる理由がわかりません。あなたも、この国を支える者。私と同じ立場なのでは?」
「この国を支える方法は、一つだけではありません。ましてや、間違った方法で支えるのであれば、国を思う者としては、正さねばなりません」
あまりにも明確な反逆の意思だった。
ティナは、自分がここから生きて帰れる可能性が急速になくなっていくのを感じ取った。でも、ただでやられるわけにはいかない。
(陛下にお伝えしなければ)
ティナは、地を蹴って、ソーマの懐に飛び込んだ。ティナの手に隠し持ってあったナイフは、ソーマの持つ杖にぶつかり、鈍い音を立てた。
払われる杖をかわし、足でソーマの胸を狙い、渾身の蹴りを放つ。
ドゴッと、大きな音とともに吹き飛ぶソーマに、
≪≪水の煙幕≫≫
水を使った魔術を放つ。
ただの目くらましだ。一瞬でも、隙ができれば──。
その時、背後から雷光が走った。
左腕に灼熱の衝撃が走り、ティナは吹き飛ばされるように地面に転がった。
「ぐっ、うっ」
転がったティナのもとに、ソーマは、ゆっくりと近づいてきた。
服についた埃を払う余裕すらある。
「魔法も使える優秀な人材とは思っていましたが、王家の犬でしたか。なかなかの体さばきです」
「殺しなさい」
こいつをはじめから疑うべきだった。
自分が王家の犬なら、こいつは神殿の犬だ。
「さて。どうしましょうか? うーん、殺してもいいんですが、保険のために生かしておきましょうか。いざというときは、人質にも使えそうですし。どうもあの方は、魔力供給に耐性があるようで洗脳がうまくいかないのですよね」
「あなたは、そのつもりでめい様をっ」
「聖女様には戦っていただかねばなりませんからね」
「アルファレドは、聖女様を無理やり戦わせたりしない! 陛下がお許しにならない!」
「うーん、それがそもそもの根本原因なんですよね」
ソーマは、困ったように肩をすくめた。
「陛下は、働きすぎだと思いませんか。神殿にもう少しお任せくださればよいのに」
ティナは、地面から顔をあげ、ソーマをにらみつける。
戦闘で吹き飛んだのか、ソーマの眼鏡は外れていた。
外れた眼鏡の先の瞳の色に、ティナは、はっと息をのむ。
(まさか、まさかソーマは……)
ソーマは、驚愕に顔を歪めるティナの首の後ろを打つと、意識を刈り取った。
「おやすみなさい。ティナ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます