第8話 一難去って、また
リュートたちを乗せたトラックは〈
おかげで道中は余裕が生まれた。
二人と一機は荷台へと移り、休憩をはさみながら探し物をすることに。なぜかと言えば。
(いつまでもルプスの前で全裸金属パンツでいられるかっ!)
というわけである。ようするに、なにか着れるものを探していたのだ。
結果は上々。
「うおお、あった! 服! しかも上から下まで一式!」
『ふふん。私を褒めても良いんですよ、リュート。トラック内部のコンピュータにアクセスして物資の確認を行わなければ、夜が明けてもリュートはいまの格好のままでしたから』
功労者であるクロコが誇らしげにいう。じっさい、トラック内部のコンテナはなにかしらのIDを使用しないと開けることは叶わなかったので、立派にクロコの手柄である。
頭が上がらないリュートはうやうやしく手を合わせる。
「ははーっ、クロコ様、さすがでございます! さて、着るか」
『む、感謝が短い気がしますが……まあ、イイでしょう。私もこれでようやくマスターのパンツを務めるという大変重要でやりがいのある任務から解き放たれます』
「ごめんて! 助かった、助かりました! ……はぁ、俺もようやく変態の汚名を返上できるよ……」
ルプスにそっぽを向いてもらい、リュートは手早く着替えはじめる。
「うわ、すっげえフィット感だ。未来素材、おそるべし……」
SF映画に出てくる一般兵、といった格好になった。
上下一体型のぴっちりしたインナーに、防砂・防塵性能の高そうな厚手の生地の黒いアウターと白いボトムス。白黒の対比がカッコいいなとリュートは思う。
それから、シューズとグローブも見つけた。とにかく素肌を晒さないように考えられているのは、『
『
(まあ、
などと考えていると、ルプスがトーンの高い声をあげる。
「お~、似合ってるよリュート。カッコいいじゃん!」
「そ、そうかな?」
ルプスに褒められてリュートは照れくさそうに頬をかく。
憧れのヒロインに褒められて嬉しくないことがあろうか? いや、ない。
自分もおかえしにルプスを褒めてあげたいと思って彼女の格好をあらためてチラ、と見る。くつろぐ彼女はアウターの前を開けており、内側に着ている服がしっかりと見える。
SFの装束と民族衣装とを合わせたみたいだなと思った。
まず目につくのは大きなマント。彼女の体をすっぽりと覆っている。くすんだベージュ色が砂の民の装束らしさをかもしている。
一方で、内側には真っ白なジャンパー。ダボっとした大きめのサイズで、借りてきた服を着ているかのよう。こちらはリュートが着ているのと似た素材なことが伺える。作られた時代は同じくらいだと推測できた。
そのさらに内側。トップスのインナーや、ゆったりしたシルエットのボトムス、砂の入り込まないように紐でしっかりと結ばれた靴。左手の革手袋は、
未来感と伝統っぽさの融合。
まさに、ポストアポカリプスを舞台にした『
さすがはゲームの看板娘・ルプスの衣装だ。
それにしても、とリュートは思う。
(露出が多いんだよな……)
ルプスの上半身は、ほとんど下着のような恰好にジャンパーとマントを引っかけただけのスタイル。そしてゆったりとしたボトムスにしたって、謎の切れ込みなどにより肌面積が多い。
ルプスのおへそ、太もも、それから胸の谷間までが見えてしまう格好だった。
(う……健康的な色気だ……)
おなかはキュッと引き締まっているのに、太ももはむっちりと健康的な肉づきをしている。ルプスのなかのオオカミ成分が影響しているんだろうか。
そして形よく盛り上がった二つのふくらみと、それが生み出す谷間はあからさまな主張をしていないのに存在感がある。
リュートにとっては赤面ものの格好だった。心臓がドクドク鳴っているのが聴こえる。
(ゲーム通りといえばそうなんだけどさ。実際に目の当たりにすると、こう……けっこう刺激的ですね、っていうか……〈
などと視線を奪われてしまった結果。
「リュート? あんまりじろじろ見られるとさすがに恥ずかしいんだけど……」
「えっ、あっ、いや! ちがうんだ! ただその、けっこう露出が多いんだなあって」
「……ふんっ」
ルプスがむすっとした顔でアウターの前を合わせる。目つきは狼らしく険しい。
「ち、ちがっ、えっと、その、こんな砂漠で肌を出すって日焼けとか平気なのかなーって思ってただけで!」
身振り手振りをまじえて伝えると、ルプスは警戒した目をやめてくれる。
「あたしたちの種族は体温調節がニガテだから、こうして少しでも肌を晒さないといけないんだよ」
「ははぁ、なるほどなあ」
リュートは興味深そうにうなずく。
ちゃんと狼だからイヌ科の性質を受け継いでいるという理由があった、ということももちろんだが。
本来は、ゲームの売り上げを伸ばしたい運営の都合によってルプスは露出の多い格好をしていたのだろうけれど、この世界で実際に生活をしている彼女にとっての理屈はそうではない。
しっかりと彼女の種族の生態や生活に根差したものになっている。
どうも「ゲームでそうだったから」というだけではないらしい。
この世界はもう現実だと考えた方がいいんだろうな、とリュートは心の隅に書き留めておく。
「あたしたちの種族──
「えっ、なにそれ見たい、可愛い……」
思わず本音がこぼれる。
すると、ルプスにジトっとした目で見られた。
「かわ……? リュートはあたしのベロが見たいの? ……やっぱりどっかヘンタイだよね」
「ち、ちがうんだこれは……!」
「どこが違うのさ。あたしの目を見て言ってみなよ」
サファイアの瞳がぐいと近づく。心臓がきゅんと跳ねる。
「そ、それはそれでマトモではいられないって言うかさ……!」
「ほら! やっぱりやましいキモチがあるんだね!?」
「ち、近いよォ……ン……」
断崖絶壁に追い詰められた野兎みたいにプルプル震えるリュート。
ルプスのじとーっとした目は、夕陽が沈むまで続いた。
* * *
月が頭上を照らすころ。
岩陰を見つけたトラックはゆっくりと停車した。運転手であるクロコの『ここで夜を明かしましょう』という提案に反対する者はいなかった。
後部ドアが開け放たれ、外へと足を放り出すかたちでリュートとルプスが腰かける。
二人は月明かりに照らされながらささやかな祝勝会を開くことにした。
メニューはずっしりして食べごたえのある固形食糧と、レトルトパウチ入りのスープ。どちらもトラックに蓄えてあった非常食だった。
ルプスは「わ~~、なにこれ美味し~~~」と尻尾をパタパタさせていた。可愛らしい。
現代っ子だったリュートとしては「食えるだけマシか」というものだったのだが、ルプスにしてみればごちそうだった。
普段の彼女の食事は小動物の干し肉、ボソボソとした無発酵のパン、干し果物、ナッツ。羽振りが良ければチーズと砂糖菓子。その程度だ。それゆえ、いつも食べていたものと比べると、いま食べている非常食ですらごちそうだった。
なにより味が濃いのがいい。ルプスは上機嫌でスープを飲んだ。
「ねえリュート、これからどうしたい? なんか考えてる?」
ルプスがスープのパウチに吸い付きながら問いかけてきた。
「どうって……なにが?」
「だってリュートはあの研究施設で目覚めたって言ってたじゃんか。てことは身寄りはないんでしょ。頼れる人とかいる? いないんじゃない?」
クロコが『優秀なAIである私がいますよ!』と小柄なボディをジタバタさせて主張したが、ルプスに「そうだけどさ」と撫でてなだめられる。
「この大地は過酷だよ。〈
ルプスの言葉には重みがあった。
彼女はクランに所属しているものの、一人で旅をする
「だから、あたしが助けた遭難者たちには近くの村に住んでもらってるんだ。もし他に当てが無いならそこまで送り届けるけど、どう?」
「えっ、俺は……」
リュートは言葉を詰まらせる。
『
(なぜゲームと違う展開に……? いったい、どうして……?)
◆ Tips ◆
鋭い嗅覚をもつ種族。他種族と比べても体温調節がニガテなため、肌の露出が多い服を選びがち。
手のひらと足裏には肉球のなごりがあり、フニフニとした弾力がある。
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