第5話
ロディには恋人がいた。村人との関わりを好まないテオでも、その僅かな関わり合いの中で、彼らの関係を伺い知ることができる。テオは一度だけロディの恋人、ミエルに会ったことがあった。穏やかに笑う気立てのよい女性だった。ロディが所帯を持てる年になったら二人は結婚するだろうと、村の人々は噂していた。仲睦まじい二人を村中が祝福していた。
しかし去年の冬、ミエルは病気にかかった。それからは、あっという間だったという。テオがそれを知ったのは春になってからだった。憔悴しきったロディを見かけて驚いた。声をかけるのも憚られるような様子で、テオは村人に尋ねて、ミエルの死を知ったのだ。
ミエルが亡くなってから1年も経っていない。ロディはミエルを喪ったばかりだ。そこへ何でも願いを叶えてくれる流れ星が現れたら、尋ねずにはいられなかっただろう。それこそ神様がくれた、願ってもないチャンスだ。
「ロディには生き返らせたい人がいるのね」
帰り道、少女がぽつりと言った。テオの口から彼のことを話す気はなかったが、彼の言動を見れば言わなくても分かるだろう。テオの沈んだ表情と沈黙が、肯定だった。
「ロディの願いを、叶えてあげないの?」
その質問にも、テオは言葉を返さなかった。返せなかった。少女もそれ以上は何も言わず。二人は黙りこくったまま、荒野を歩き続けた。
――娘の手のひらに落ちてきたのは流れ星でした。流れ星はひとつだけ、どんな願いも叶えてくれるのです。
父さんの優しい声が、耳に心地よかった。テオはその腕に頬をすり寄せる。
――ねえ、テオ。テオだったら、どんなことをお願いする?
父さんがテオの顔をのぞき込む。
――ぼくはね、
答えようとしたところで、テオは目を覚ました。また、昔の夢だ。瞬きをすると、眼尻に溜まった涙がつるりと流れ落ちた。
テオがソファから起き上がると、また少女が窓際に座って外を見ていた。薄暗い朝、少女の髪がやわらかく光っている。きれいだな、とテオはぼんやり思った。
外は相変わらず冷たい風が吹いている。空は何日も晴れていない。最果て荒野はいつもこんな調子だ。それでも少女の横顔は喜びにあふれている。一体、何を見て楽しんでいるのだろう。彼女はいつも楽しそうだ。
本当はテオの願いは決まっていて、でもそれを願うつもりがないと言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。出会った夜の彼女の悲しげな表情を思い出すと、テオは胸の奥が痛んだ。
「あの、さ」
テオが声をかけると少女が振り向いた。テオは一瞬ためらう。金の双眸が瞬いて、優しく笑う。テオの言葉を促すかのように、彼女は頷いた。
「今日、付き合ってほしい場所があるんだ」
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