第4話

 村長はくるりと背を向けて去って行った。

「何に? どうやって? どういう意味ですか?」

 聞きたいことは沢山あったのに、何一つ言葉にできずに聞きそびれてしまった。呼び止めようとすればできたのに、それすらテオには荷が重かった。杖を突いた村長の動きを止めさせ、振り向かせることが、テオにとっては大きな勇気の要ることだった。意気地なしの自分を情けなく思いながらも、テオは動けないまま村長の背中を見送った。少女はそんなテオを静かに見つめていた。

「なぁ」

 唐突に声をかけられて、テオはそちらに目を向ける。テオより一つ年上の、ロディという青年だった。たった一つ違いなのに、ロディはテオより頭一つ分大きくて、テオより断然大人に見えた。その視線はテオではなく、少女に向けられていた。

「何でも願いが叶えられるって本当か?」

そう言ってから、片手を首に当て、伏し目勝ちに続ける。

「別に、村長の言い付けを破るつもりはねぇよ。ただ、聞いてみたくて」

 少女はにっこりと笑って答えた。

「テオの願いなら何でも叶えられるわ」

 少女の言葉を反芻しながらテオは思った。何でも? 本当に何でも叶えられるのだろうか。どんなことでも。テオが願いさえすれば。例えば……、

「人を、生き返らせることも?」

ロディが尋ねた。テオは、はっとしてロディを見る。彼の目は真剣だった。射貫くように少女を見ている。

 聞きたくない。テオは耳を塞ぎたくなった。聞いてはいけない。知ってはいけない。それと同時に、聞きたいことでもあった。できないとさえ言ってくれたら、テオの胸のつかえは取れるのに。

 テオは祈るような気持ちで少女を見つめる。少女だけが表情を変えずにっこりと答える。

「もちろん、できるわ」

少女の言葉にテオは両手の拳を握りしめた。

「そう、か……」

 ロディがうめくように言った。

 テオはロディを恨めしく思った。テオにとって、聞きたかったのと同時に聞きたくなかったことを彼は聞いてしまった。でも、聞きたくなるその気持ちも、テオには分かる。

 彼の目が、今度はテオに向けられる。テオは目を背けられず、ただ彼を見つめ返した。ほんの一瞬が、途方もなく長い時間に感じられた。

 すぐにロディは破顔して、

「そんな顔するなって。言ったろ? 村長の言い付けを破るつもりはないって」

そう言うと、テオの肩を軽く叩いて、その場を後にした。

 ロディが去った後も、テオは動けなかった。

「テオ、大丈夫?」

 少女がテオをのぞき込む。テオはやっとのことで頷いた。

「ぼくは、大丈夫。でも、もう帰ろう」

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