好きしか吐かない口だった。
プシュー、と扉が開いた。
人が降りていくのをぼーっと見て、遅ればせながらここが目的地だと気付いてハッとする。キャリーバッグの持ち手を急いで伸ばした。
始発に乗ってここまで来たから乗ってくる人は少なかった。
すれ違う人はみな余裕がなさそうな顔をしている。何かに急いでいるような、何かに追われているような人ばかりだった。きっと私も同じような顔をしている。
息を吐き出せば肺がきゅっとする。
よく清涼だと言われてる朝の空気を大きく吸い込んだ。
「─ ─ごほっ、ごほっ」
私には合わなかったようだ。
私の「好き」はきっと誰よりも軽薄だったのだろうと今は思う。
正しく伝えるために何度も口から吐き出して、そのたびに私の「好き」はどんどん軽く薄くなっていった。私の「好き」を捻じ曲げたのは、きっと私だ。
「好き、好き。好きだった。好きでした。ずっと好きだよ」
私が「好き」を告げれば、彼は抱きしめてくれた。
雰囲気次第ではキスだってしてくれた。
それでも、彼の「好き」が聞こえないのは耐えられなかった。私の中身ばかりが減っているような気がして、流れた涙がその勢いを後押ししていた。
「好きだよ。今でも好きなんだよ」
携帯の待ち受けに映る幸せそうなカップル。
それを見るだけで私は息が詰まるようだった。
「あはは、はは」
彼は私のことが好きだったと思う。
私が彼を好きだったのと同じくらいにそう思ってくれていたと思う。
それが分かっていて、私は耐えられなかった。
「馬鹿だよ、私」
お互いのためでも何でもない、ただ我儘で理不尽な、不幸になるだけの選択。
それを選んでいると分かっても私の体は止まらなかった。
馬鹿な私は結局、一度も「好き」を貰えなかった
いつしか儚い恋になる どもです。 @domomo_exe
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