いつしか儚い恋になる
どもです。
息しか吐かない口だった。
いつかきっと全部分かるんだって、そう言われたから暢気に待っていた。
そうしたら君が不意に消えてしまったから分からなくなった。
「ごめんね、私が悪いね」
そう零した君には、何が必要だったんだろう。
僕ならそれをあげられたのかな。
僕と別れた今の君は、必要なものを見つけられたのかな。
僕一人には広い部屋でふと目が覚める。しばらくぼうっとしていると、伽藍堂のリビングから何か聞こえたように思えて布団を跳ね除けた。
『コンビニ行ってくるね』
バランスの崩れた顔文字が僕を揺さぶる。
顔を洗っても落ちない汚れが魚の骨みたいに刺さっている。
「学校、行かなくちゃな」
パンを口に詰め込んで、ノートパソコンをカバンに入れた。
デフォルメされた黒猫のメモ帳。ちょうどいい余白に書き留める。
『五限が終わったら帰るよ』
そうして僕は過去への手紙に重しを乗せる。過去に飛んでいくことがないとわかっているから、せめて手が届く範囲に置いていたかった。
今の僕なら、あの人と真っ当に付き合えたのかな。
下らない疑問を問いかけるのは嫌いだ。思い浮かべるだけでも胸が苦しいのに、口に出せば骨が刺さった喉まで痛みを大きくしてしまうから。
靴の具合を確かめて首元を摩る。
近所のコンビニ。駅前広場。切符売り場に改札口。
カーキのセーター、淡い色の帽子、軽快な靴音に仄かな手の温もり。
ズキズキと痛む。
喉が、焼けるように、痛い。
揺れる電車の中、僕は小さく咳き込んだ。
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