おそろい

 お前バスケ辞めたん怪我やっけ、と友人に聞かれた。突然だったので、反応が遅れた。友人は俺の鞄から顔を出しつつ、辺りの景色をきょろきょろ見ていた。

 今日はさっそく友人の体を探しに来ている。

 部屋に置いていくのも忍びないし、コインロッカーについてのヒントも必要なので、友人の頭は鞄に入れて連れてきた。

「うん、怪我だよ」

 遅れたけど、返事した。足の腱が切れて、それきりになった。お前のシュートきれいやったけどなあと友人は言った。

「練習、見に来てたもんね」

「暇やったし、練習終わりのお前と帰るし、スポーツは見るもんやし」

「なんにせよ、高校でバスケは終わるつもりだった」

「まあ大体のやつそうやわなあ」

 友人は飽きたようなあくびを落とす。これは昔からの、もうこの話題ええわ、の合図だ。

 俺も引っ張りたい話じゃないので、聞きたいことの方に話題を移す。

「体のあるコインロッカー近くに来たら、なんとなくわかるようになってるんだよね?」

 そやでー、と友人は軽く言った。

「この辺には、あらへんなあ。ぴくりともせんわい」

「どこがぴくりとするの?」

「知らんて。ぴくりとしたあとにもっかい聞いてや」

「もし、沖縄とか北海道とか、オランダとかペルーとかにあったら、どうしようね」

 友人は三秒くらい黙ってから、

「お前がずっと、世話してくれたらええやん」

 普通の顔で提案をした。首だけになっても友人は、まったくもって友人である。鞄から覗くあっけらかんとした表情は、高校の頃と変わらない。


 その日のコインロッカー探索は不発だった。

 友人を連れて帰り、次の日の仕事終わりに、また違う場所のコインロッカーをたずねた。だいたい駅構内にあるため、探しやすいといえば、探しやすい。あとは商業施設がマストだろうか。

 降りたことのない駅に近付いたとき、鞄の中で大きな震えが一度起きた。

 ジッパーを開けて覗き込むと、両目をかっと見開いた友人に見上げられた。

「次降りろ」

「あ、ありそう?」

「ある、絶対ある」

 ぴくりとしたようだ。しかしやんごとなきぴくりらしく、友人は大量の汗を流し始めた。手はもちろんないので目に入っている。

 ハンカチで汗を拭いてやりつつ、駅への到着を待った。数分もすればたどりつき、駅構内はあまり広くなくて、コインロッカーはすぐに見つかった。手間取らず、たすかった。

 俺がロッカーに近付くにつれ、友人は鞄の中で動きを大きくしていった。。

「上から二番目の一番下!」

 と、目の前に来た瞬間に、もごもご叫んだ。

 果たして中には足が入っていた。

 膝から下という中途半端さに、片足だけというバランスの悪さで、顔を出した友人はあからさまにがっかりした。


 当然ながら、頭に足を直接つけることはできなかった。友人はアパートに帰宅後もがっかりしており、すこしかわいそうになっていた。

 身体がないのは、不便に決まっている。取り戻したのに無意味だなんて、落ち込んでしまうに決まっている。なにもできなくなることのつらさを思うと、オレンジにきらめくバスケボールがふとよぎる。

 ベッド上で転がっている友人を拾い上げ、俺の膝に乗せた。

「先に、胴体探さなきゃダメだね」

 慰めるために声をかけると友人は顔を上げた。ふてくされているかと思っていたが、案外、けろりとした表情で俺を見上げてきた。

「足がそこにあんのに、役立たずや」

「うん、だから胴体から」

「お前と同じやな」

 口を閉じた。友人は俺の膝に額を擦り付けて、俺のはそのうち戻るかもしれんけどお前は無理やねんな、ここにちゃんと生えとんのにな、でも今だけはおそろいの役立たずか、と続けてから、飽きたようなあくびを漏らした。

「シュートだけなら、できるよ」

 もうこの話題ええわの合図を無視して話しかけたけど、友人はやっぱり話を続ける気はなかったみたいで、鼻歌なんか歌い出して、機嫌よさそうに俺を無視し続けていた。

 

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