首だけの友人

草森ゆき

ひらめき

 友人の住処を尋ねたところ応答がなかったため、中で待とうと合鍵を使いお邪魔したのだが、なんと友人は生首の状態でベッドの上に転がっていた。

「な、何してんの」

「ちょうどええとこに来てくれたやん」

 友人はどうやっているのか生首状態でごろごろ動き、ベッドを降りた。いや落ちた。反射で駆け寄り、キャッチした。

「さすがバスケ部やな」

「高校の頃の話じゃん」

「キャッチはええけど、リリースはせんといてくれよ」

 バスケゴールに友人の首をシュートする様子を一瞬だけ思い浮かべる。なかなか、痛そうだ。

「えーと、それでおまえ、なんで首だけなの?」

 ベッドに座り友人を膝に乗せつつ聞いた。

「罰ゲームやねん」

 面倒そうな口調の返事の後に、

「体、その辺のコインロッカーに入っとるんやって」

 なかなか大変そうなミッションについて、語られた。


 友人の説明を要約するとこうである。 

 なんというか友人は、本当は色々できる能力があるのにとにかく怠惰で、それを咎められることになった。誰が咎めたかは、不明だ。しかしその忠告を、面倒くさいんやもんと無視したばかりに、罰ゲームが開催された。

 生首だ。首だけになって反省しなさい、との話だそうだ。

「誰かわかんないけど、横暴」

「せやろ?」

 友人は鼻息を荒くする。体もあれば肩など怒らせていたと思う。

「せやけど一応救済措置があってなあ」

「……あー、コインロッカーに入ってるっていう」

「そうそれ、この世から消したりはしてへんから探せ、的な話や」

 なるほどこれは、面倒くさがりの友人には最悪の罰ゲームだ。とはいえ、今は俺の膝でまったりしているが、さっきは自発的にごろごろしていた。自分で動けるからこそ、課せられた関門なのだろう。

 しかし罰ゲーム主催者は何もわかっていない。俺は友人と長い付き合いなので、わかっている。

 俺の確信を裏付けるように、友人はふわっとあくびを漏らす。

「ほんまめんどいわ……まあ別に生首のままでも、ええんやけど……」

「いいんだ」

「この状態、腹減らへんねん」

「まあ、胃袋ないもんね」

「喉から垂れ流しになるんやろか」

 ちょっと見てみたいなと思い、友人を持ち上げて、裏側を覗く。グロテスクな断面を期待していたが、なんと、つるりとしている。触ってみると肉の感触で、友人はくすぐったいと声を荒げる。

「何か食べても、すぐ出てこないと思う」

「あ、そうなんや」

 一応試しに、友人の冷蔵庫にあったプリンを食べさせてみた。友人はもぐもぐと咀嚼し、飲み込み、うまいと喜び、数分後に吐いた。俺はまたもや反射でキャッチしてしまった。

「さすがバスケ部……おえっ」

「元だし、何も食べない方が、いいだろうね」

「なんやろ、行くとこなくて帰ってきた感じや……」

「出るとこ口しかないもんな……」

 キャッチした元プリンを、台所で洗い流した。その間に友人は勝手にベッドから落ちて、ごろごろと俺の足元までやってきた。髪が、足首に触れたので、気付いた。見下ろすと目があった。友人は昔からよく見る、いいこと思いついた、という喜色満面になっていた。

「お前、暇やろ」

「暇、ではないけど、暇を作れはする」

「ええ子や、うん、せやからいまだに、俺と仲いいんやもんな」

 友人は俺の足首にぐりぐりとつむじを押し付ける。

「俺の体、お前が探してくれ」

 断るわけないやろ、と思っているのは、聞くまでもなく明らかだ。


 まあ、断らない。

「ヒントとか、なんかあるの?」

 聞きながら首だけの友人を抱き上げて、これから忙しくなるなあ、なんて存外浮き足立ちながら考えている。

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