蠢き森
地雷に被さった土や枯れ葉を取り除くのは、女の機嫌を窺いながら衣服を剥ぎ取るのによく似ている。
マキタカは地球から遠く離れた未知の森で独り呟いた。
「ひとつ間違った場所に触れれば、女も地雷も爆発するもんさ」
色艶を失った落ち葉。大小さまざまな枯れ枝。盛り上がりえぐれた土塊。かすかに動く名も知らぬ虫。そして、艶消しの土色に塗り潰された信管。巧妙にカモフラージュされた地雷を自然物と見分けるには熟練の技が要る。ましてやここは異星に蔓延る野生の森。目に映る物すべてが未知の存在だ。
何から何まで地球とは勝手が違う。それがマキタカの勘を鈍らせた。迂闊にも、彼は敵軍の地雷を踏んでしまった。
この惑星の空気には酸素も含まれていて地球人でもマスクなしで活動できるが、どこか甘い香りが鼻腔を惑わす。そのせいか、敵の兵士を破壊するために作られた地雷の作動音を聞き逃していたようだ。
愚痴っていても状況は変わらない。単独での隠密行動中なので援軍も期待できない。味方基地へ救助を求める通信を飛ばそうにも、通信傍受されるリスクを考えるとその選択肢も消える。マキタカ自身で、手持ちの装備品を駆使して地雷を解除するしかない。
マキタカは深呼吸ひとつ、甘い空気を腹に落とし込んだ。
さて、やるか。これくらいの死線を越えられないで、何が地球防衛だ。
意を決して、まずは自分の武装を確認しようと慎重にしゃがんだ。その視線の移動が、マキタカに敵兵の存在を気付かせた。
ザワリ。異質な音に森が騒ぐ。地球のそれよりも柔らかく樹木がしなり、地中を木の根が這いずり回る。太い枝が大きく揺らぎ、緑の葉を数枚地に落とす。樹木が歩いた。
この惑星の木々は動き回る。野生の森は意志を持って蠢く。地雷を踏んだマキタカを中心に空間が開け、そこへ一人の敵兵が歩み出てきた。
いつからそこに潜んでいたのか。緑色の表皮に生い茂るシダのような髪の毛を結んだ女性型樹木人間がマキタカに機械銃を向けた。
……つづく
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