カフェで勉強しながら貴重なソファー席を長時間占拠してる奴のコーヒーがゲロマズくなる呪いをかけました


 上司の嫌味な顔を忘れるために無性にコーヒーが飲みたくなり、仕事帰りに馴染みのカフェに寄った。

 カフェの名は『スターズ・コーヒー』という。マイナーだが本格ドリップコーヒーは香り高く、ビスケットはトースターで焼いてくれるし、何よりも店の内装がいい感じなのだ。色合いに派手さがなくシックにまとまっていて、私にとって最高に居心地の良い空間だ。

 特に数少ないソファー席は格別だ。エスプレッソを注文し、柔らかいソファーシートにどっぷりと沈む。ずぶずぶと、どこまでも深く包まれる気持ちになる。

 スーツスカートでソファーの背もたれに身体を預けて脚を組む優越感は他では味わえないだろう。

 だから、先客が座っていたりするとすこぶる機嫌が悪くなる。近くの席をぶん取ってソファーが空くのを今か今かと待ち構えたりする。

 この日は若い学生風の男の子がソファーを陣取っていた。ノートPCを広げ、参考書らしきものまでおっ広げて、ソファーとテーブルを占拠していた。

 カフェで勉強なぞするものじゃない。良識ある大人として一言ぶつけたくなったが、今日のところはやめてやる。命拾いしたな、小僧。




 翌日。仕事帰り、何気なくカフェを覗いてみたら。

 例の男の子が昨日のコピー画像のようにソファー席を占領していた。

 やれやれ。ずいぶんと勉強熱心なこって。私は怒りとも呆れとも聴こえるヒールの音も高らかにカフェを後にした。




 その明くる日も。さらに次の日も。男の子は同じようにソファーに浅く座り、ノートPCと参考書を見比べて、アイスカフェラテのストローを咥えていた。

 同じように気難しそうな顔をして、同じようにアインシュタインが舌を出すTシャツを着こなし、同じように相対性理論の本をめくっている。毎日だ。

 いくら何でもソファー席を独占し過ぎだ。

 私はついに決心した。あの男の子と相席してやる。

「ちょっといいかしら」


   ……つづく

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