第27話:え、凪って……!?

「い、いや、菜々美さぁ……何いってんだよ? コイツどう見ても男だろ? なぁ、凪?」

「えっ!? あ、え、えっと、それはその……」


 俺は凪にそう尋ねていくと、何故か凪は酷く動揺し始めていった。


 するとそんな動揺してる凪の様子を見てた菜々美は訝しげにこう言ってきた。


「……いやどう見ても女でしょ。むしろ大樹は何で男だと思ってんの? 何か男に見える根拠でもあんの?」

「だ、だって凪はどう見ても男物の服着てるじゃん? だからどう考えても男だろ?」

「いや流石にそれは大樹バカ過ぎでしょ。確かに男物の服を着てるけどさ、でも身体のライン的にどう見ても女でしょ」

「え? か、身体のライン?」

「そうそう。あと顔もめっちゃ小さいし肩幅だって狭いじゃん。まぁパッと見た感じ身体を鍛えてるっぽいから普通の女よりはガタい良さそうだけど……でもやっぱりどう見ても女でしょ」

「い、いや、だから流石にそれはないって。というか初対面の人に対してそんな失礼な事言うなよ。な、なぁ凪さ、菜々美が変な事を言い出してマジでごめ――」

「……ううん。そうだよ。僕……じゃなくて、私は女だよ……」

「……え?」


 俺は凪に向かって謝ろうとしたその瞬間、凪はちょっとだけ顔を下げながらそんな事を呟いてきた。


 でも俺の頭の中は凪の言葉を上手く理解する事が出来ずに、頭の中はこんがらがっていってしまった。


「え、えぇっと……あぁっ! わ、わかった、それじゃあアレだろ! 今目の前にいるのって実は凪じゃなくて奈美さんなんだろ!」

「……えっ?」

「ほら、そういえば凪も奈美さんも体型めっちゃ同じだからさ、だからカツラを付けて入れ替わって遊んでるとかそういうヤツなんだろ? ほ、ほら、アニメとかドラマとかでよくありそうな双子トリック的な――」

「……ごめん。私……一人っ子なんだよ。あの喫茶店で働いてるのも、この大学に通ってるのもどっちも……私なんだよ……」


 凪は顔を下げたままそんな事を言ってきた。やっぱり俺の頭はまだこんがらがってしまい、その言葉を理解するのに時間を要してしまっていた。


(……って、あれ? でも待てよ!? も、もしかしてそれじゃあ……!!)


「え……って、えっ!? ちょ、ちょっと待ってくれよ……俺の頭は今凄くこんがらがってるんだけどさ……そ、それじゃあ、もしかして……凪のお姉さんの奈美さんって……も、もしかして……」

「うん、そうだよ。あれは僕……じゃなくて私だよ」

「な……なっ!?」


 俺は衝撃的な言葉を凪から貰ってしまった。奈美さんなんて人は最初から存在しなかったんだ。つまりあのメイド服を着たとても美人だと思った女性は……凪だったという事になる。


 そしてそれはつまり……。


「う……そ、それじゃあ俺……な、凪に向かってお姉さんの奈美さんの事を色々と言っちゃってたと思うんだけど……あ、あれってもしかしてつまり……?」

「う、うん、そうだね。だ、だからその……全部私に直接言ってた事になるね……」

「そ、そんなっ!? う、あっ……!」


 その言葉を聞いて俺は一気に顔を赤くさせていった。


 だって俺は凪に向かって奈美さんの事がタイプだとか、滅茶苦茶美人で優しくて好きとか、そんな感じの事を今まで散々と言ってたんだけど……それ全部本人に言ってたって事かよ!?


(ちょ、ちょっと待ってくれよ……あ、穴があったら入りたいんだけど!!)


 という事で俺は心の中で大きな声を出して叫んでいった。だってこんなの滅茶苦茶恥ずかしいに決まってるだろ。


 そして気が付くと凪も顔が赤くなっていた。いやそりゃそうだよな。無意識とは言え、俺は本人に対してタイプとか美人だとか好きだとか色々と褒めちぎりまくってたんだからな。


 という事で俺達はお互いに気恥ずかしい気持ちになって、顔を赤くしながらお見合い状態になっていった。


 すると菜々美がキョトンとした表情をしながら俺に喋りかけてきた。


「? どしたのよ大樹? そんな変な顔をしちゃって?」

「えっ!? あ、い、いや、その……な、凪が女子だったなんて全然気が付かなかったからビックリとしたんだよ。ってか何で菜々美は初見で凪の事が女子だってわかったんだよ?」

「私は仕事で色んな人の身体とかジックリと眺める事が多いからね。この男は骨格的にこういう服が似合いそうとか、この女は線が細いからこういう服が似合いそうとか、常にそういう事ばっかり考えてるのよ。というかそもそもコイツ顔小さいし、肩幅も狭いし、身体のライン的にどう見ても女なんだから私じゃなくても気づくヤツはいるでしょ」

「な、なるほど、職業的な感覚でわかったのか……って、おい、ちょっと待て! 初対面の人に対してコイツ呼ばわりは無いだろ」

「えー? あはは、別に良いじゃん。ねぇ? アンタも別に良いでしょ?」

「え? は、はい、別に構わないですけど……」


 凪は菜々美の意地悪い笑い方に気圧されて頷いていってしまった。菜々美はよく相手を見下すクセがあった。


 だから今日も菜々美は普段通り初対面の相手を初手から見下していったんだろう。


「ほら、別に良いって言ってんだからいいじゃん。それにしてもアンタさ、パっと見た感じ女にしてはちょっとゴツゴツとしてるけど……あ、もしかしてスポーツとかやってるの? アスリート選手とか?」

「え? いや、今はスポーツは何もしてないです。まぁ筋トレとかランニングとかは休みの日とかにしてますけど」

「へぇ、スポーツやってる訳でもないのに身体を鍛えてるんだ? あ、それじゃあ男装をするために身体を鍛えてるって事? コスプレイヤーとかしてるの?」

「い、いや、別にそういうわけでもないんですけど……と、というかそもそも別に身体を鍛えてたり男っぽい服を着てる事に深い意味なんてありません。ただ何となくやってるだけなので……」

「えっ? 特に深い意味は何も無いのに無駄に身体を鍛えたり男物の服着てるの? あはは、何よそれ、コイツ滅茶苦茶イタい女じゃんー! 流石に変過ぎるでしょー!」

「え……」

「お、おいおい。菜々美さ、初対面の人に対してその言いぐさはないだろ。初対面の相手なんだからちゃんと敬意を持って接しろよ」


 俺は凪の事をケラケラと笑ってそう言う菜々美に対して俺は注意をしていった。


「えー? 何でよ? だってコイツ相当に変な女じゃん。何の理由もなく身体を鍛えたり男っぽい服を着てるとかイタ過ぎるでしょ、中二病かよ。ってかそもそも大樹は何でこんな男の真似事してるイタい女と二人きりで歩いてんの?」

「凪とは大切な友達だから一緒に帰ってるんだよ。ってか凪は変でもイタいヤツでもねぇって。俺にとって一番仲良い友達の事を馬鹿にすんなよな!」

「だ、大樹……」

「ふぅん? 大樹が私以外の女を庇うなんて珍しい事もあるのね。ま、いいや。それで? アンタ、凪ちゃんって言うのよね?」

「え? あ、はい?」

「それじゃあ私達、今から大樹と大切な話をしなきゃいけないから、凪ちゃんはここからは一人で帰ってね。ほら、それじゃあいくわよ、大樹」

「一緒に行くわけねぇだろ……って、おい! だから俺の腕にひっつくなって!」

「ふふん、可愛い彼女が引っ付いてあげてるんだから喜びなさいよ?」

「誰が喜ぶか! あとお前は彼女じゃねぇだろ!」

「あ、あのっ!」


 菜々美とそんな喧噪を繰り広げていると、ふいに凪が大きな声を出してきた。すると菜々美は凪の方に視線を送りながら若干キレ気味にこう言ってきた。


「ん? あぁ、まだ居たの? もうアンタには用ないから早く帰りなよ?」

「アナタには用はないかもしれませんけど、私にはあります。大樹は私の大切な友人なので。だ、だから……大樹が嫌がっているから腕をさっさと離してあげてください!」

「……はぁ?」


 凪は傍若無人ぷりを発揮する菜々美に向かって若干緊張気味にそう言っていった。

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