第17話:奈美さんを助けていくと……

「大丈夫でしたか」

「え? あ、あぁ、はい。すいません、ご迷惑をおかけして……」

「いえいえ、全然迷惑なんてかかってませんから気にしないでください。奈美さんが危ない目に合わないで本当に良かったです。普段もああいう迷惑なお客さんは多いんですかね?」

「いえ、そもそもここのバイトもあまり入れてないので、ああいうお客様に遭遇したのは今日が初めてです。だからちょっとビックリとしてしまって……」

「あぁ、そうだったんですね。でも奈美さんは凄く美人な方ですからね。だからさっきのようなナンパ行為をしてくるお客さんがやって来てしまうのも何となくわかりますよ」

「……えっ? び、美人? それって私の事ですかね?」

「? はい、そうですけど?」

「そ、そうですか。ふふ、美人ですか……」


 俺が奈美さんに美人だと伝えていくと、何だかまた凄く嬉しそうな表情をしだしていった。


 普段から美人だとか綺麗だとかは色々な人から投げかけられてそうなのに、奈美さんは美人だと言われてそんなにも嬉しかったのかな?


―― ッダダダ!


 そんな事を思っていると、喫茶店の二階から二十代後半くらいの女性が駆け足気味でこちらにやって来た。


「なっちゃん!」

「えっ? あ、店長。お疲れ様です」


 奈美さんの口ぶりからして、どうやらこの女性が喫茶店の店長さんらしい。


(なっちゃんって……あぁ、なるほど。奈美なみさんだから“なっちゃん”っていうあだ名なんだな)


 店長さんは奈美さんの事をあだ名で呼んでいるという事から、この二人の仲は良いという事も何となくわかった。


「う、うん、お疲れ様。それで一階の方から喧噪の声が聞こえてきたんだけど何かあったの?」

「あぁ、はい。実はその……」


 という事で奈美さんは今さっき起きた出来事を店長さんに話し始めていった。


◇◇◇◇


「なるほど、そんな事があったんだね。なっちゃんに怪我とかなくて本当に良かったよ……」

「はい、心配をかけちゃってすいません」

「本当だよ。何かあったんだったらすぐに私の事を呼んでよね。それと君も助けてくれて本当にありがとね。あ、そういえば君のお名前は何て言うのかな?」

「あ、はい。俺は倉瀬大樹と言います」

「うん、ご丁寧にありがとう。いやそれにしても迷惑なお客さん相手に堂々と注意してくれたなんて、凄く頼もしい男の子だね。あ、そうだ! もし良かったらさ……大樹君もこのお店でバイトとかしない?」

「え?」

「えっ!?」


 店長さんは急に俺の事をバイトに勧誘し始めてきたのでちょっとだけビックリとした声を出してしまった。そして何故か奈美さんもビックリとした顔をし始めていった。


(……何で奈美さんもビックリとしてるんだろう?)


 そして奈美さんはビックリとした表情のまま店長さんにこう言っていった。


「て、店長!? 何を言ってるんですか? 今日初めて会ったお客さん相手に……」

「いやでもさー、このお店って働いている人全員女の子じゃん? だから一人くらい男の子のバイト君がいた方が色々と助かるじゃない? それに今日みたいな事もあるかもしれないしさ」

「ま、まぁ、それはそうかもですけど……」


 店長さんと奈美さんはそんな話をし始めていった。どうやらこのお店の従業員は皆女性のようだ。


「でしょ? だからどうかな大樹君! もし今バイトとか探しているようだったら良かったらここで働かない? 給料は普通だけど、電車代補助とか喫茶店メニューを注文時に1割引きとかの福利厚生は充実してるよ! それとバイトをしてくれるのであれば君の分のカッコ良いウエイター服も私が作ってあげるからね!」

「うーん、なるほど……って、えぇっ? もしかしてここの制服って店長さんが手作りをしてるんですか?」

「うん、そうだよ! ここのバイトの子達の制服は全部私が作ってるの! ふふん、結構すごいでしょ?」


 俺がそう尋ねていくと店長さんは腰に手を当てながら誇らしげにそう言ってきた。


(へぇ、やっぱりここのメイド服って既製品じゃなくて手製のメイド服だったんだな!)


 奈美さんの着てるメイド服は身体に凄くフィットしているし、高級そうな布も使われているから既製品ではなさそうだと思っていたけど……まさかこの店長さんが手作りをしてたなんてそれは凄すぎるな。


「は、はい、それはかなり凄いですね! こんなにも上品で綺麗なメイド服を作れるなんて凄いですよ!」

「ふふ、そんなに褒めてくれてありがとうね! それでどうかな? 大樹君も良かったらこのお店のバイトに入ってくれないかな? もし入ってくれたら凄く助かるんだけど……」

「うーん、そうですねぇ……電車代補助とかメニュー1割引きとかは凄く魅力的なお話なんですけど、でも俺も今は普通にバイトに入っちゃってるので、今はちょっと厳しいかもです……」

「そっかそっか。うん、わかったよ。それじゃあ残念だけど今回は諦める事にするね。あ、だけどもしもここで働きたいと思ったらいつでも連絡してね! それじゃあこれお店の名刺だから。はい、これ」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って俺は店長さんからこのお店の名刺を貰っていった。


「それじゃあそろそろ帰ります。今日は奈美さんに会えて本当に良かったです」

「私も会えて凄く嬉しかったよ。それと今日は色々と本当にありがとうね。ふふ、また時々喫茶店に遊びに来てくれたら嬉しいな」

「はい、絶対にまた遊びに来ますよ。奈美さんの淹れてくれる紅茶をまた楽しみにしていますね!」

「うん、もちろん。ふふ、それじゃあ今度も頑張って美味しい紅茶を淹れてあげるからね?」

「はい、是非ともよろしくお願いします」


 俺達はそう言ってお互いに笑い合っていった。


「んー? 何だか二人とも凄く仲良さげだけど……もしかして前々から面識ある感じなのかな」

「ふふ……って、えっ?」

「いや奈美さんとの面識はなかったんですけど、でも実は俺、奈美さんの弟と友達なんです! それで奈美さんは弟さんと凄く雰囲気が似てるから何だか話しやすいんですよね!」

「え? なっちゃんの弟? いや、なっちゃんに弟なんていな――」

「あっ! その話はまた今度という事で!!」

「んんっ!? も、もがもがっ!?」

「えっ!?」


 すると突然奈美さんは店長さんの口を手で覆い被せていった。突然の事で何かわからなかった。


「わ、私達はこれから後処理とか色々と忙しいので、そろそろ仕事に戻りますね! という事で今日は本当にありがとうね、大樹君!」

「あ、そうですよね。まだ奈美さん達はお仕事中ですもんね。はい、それじゃあ俺もそろそろ帰ります。美味しい紅茶ありがとうございました」

「こちらこそです。それではまたのお越しをお待ちしております」

「も、もがもが……!」


 という事で俺は奈美さんと店長さんに軽く会釈をしてから喫茶店から出て行った。


 最後に慌てて奈美さんが店長さんの口が塞いだのはよくわからなかったけど……ま、でも気にしなくていっか。


 総じて凄く素敵な喫茶店だったし、これからもまた絶対に利用する事にしよう。

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