第43話 一触即発


 王子からの手紙が来てから一週間が経った。


 俺たちは冒険者ギルドの酒場で飲みつつ、次にどうするかを話し合っている。


「そろそろダンジョンに潜るか? もう地震も起きないって」


 俺たちの調査結果を聞いて、ギルドマスターはダンジョンに入るのを許可した。


 ダンジョンで地震が起きたことについでは、事情を話した上で冒険者たちの考えに委ねるらしい。かなり酷い話ではあるのだが、ダンジョンに入れないと冒険者は生計を立てられないからなあ。


 そんなわけで冒険者たちはこぞってダンジョンに潜っている。


 地震でダンジョンが崩れる危険性よりも、普段の食費などを優先した結果だ。鉱山とかも崩れる危険はあるし、それよりは確率は低いだろうと言い訳して。


 冒険者ギルドも強力な魔物が異常発生しているなどでなければ、ダンジョンは安全であると判断したいようだ。


「もう少し、もう少し様子見しようよ! あと半月くらい!」

「そうですわ! その間に崩れるかもしれませんもの!」


 ちなみにうちはあれ以来、ダンジョンには潜ってない。お嬢様二人が地震を怖がってしまっているためだ。


 まあしばらくは金に困らないから、休息になるしいいんだけどな。ダリューンたちの討伐やダンジョン調査でけっこうな金を儲けたし。


 そんなわけで俺たちは酒場で飲んだりして話しているわけだが。このままだとグダグダと言ってずっとダンジョンに入らない可能性もあるわけで。


 そういえば今日は新ギルドマスターは不在のようだ。なんか俺たちが依頼を受けてくれた礼に、面倒ごとへの対策をしてくると言っていたが。


 面倒ごとってなんだろうか? まあいいか。


「なあ二人とも。もしそこまで嫌なら、他のダンジョンに……」


 俺が話そうとした瞬間だった。ギルド内の入り口が乱暴に開かれて、なだれ込むように武装した男たちが侵入してくる。装備が統一されているので兵士のようだ。


 冒険者なら装備はバラバラだからな。


「なんだなんだ?」

「兵士? なんで冒険者ギルドに?」


 周囲の冒険者たちも困惑している中、ひとりの男が前に出てきた。


 そいつはかなり高価そうな服を着こんでいて、さらに派手な赤いマントまでつけている。見るからに貴族という態だ。


 そんな男を護衛するように全身鎧の甲冑男がついてくる。


 と思った瞬間、イリアさんが凄い勢いで机の下へと隠れた。


「……イリアさん? どうかされましたか?」

「しっ! 喋らないでくださいまし! あの男は……!」

「このお方はジーザス・フォン・ゼウルス王太子であられる! 者ども、控えい!!!」


 甲冑男が叫んだ。王太子だと?


 俺も机の下にしゃがみこみつつ、イリアさんに小さな声で聞いてみる。


「王太子ってあれですよね? イリアさんの真実の愛の……」

「真実の愛!?」

「あ、すみません。つい言っちゃいました……」


 どうやらあいつは本当に王太子のようだ。


 ……バカじゃないの? なんで仮にも王太子が、冒険者ギルドなんて荒くれ者の巣窟に来てるんだ?


 そんなことを考えた直後だった。さらに誰かが部屋の中に飛び込んでくる。


「冒険者のクズどもは控えよ! 私はベイロン男爵なり!」

「!?」


 今度はラクシアが机の下に入ってきた。


「お、お、お……元お父様!? なんで!?」


 元お父様とは初めて聞く言葉だ。そうそうお耳にかかることはないだろう。


 いやそんなことはどうでもいい。王太子とベイロン男爵が共謀してギルドを訪ねてきた? どう考えても偶然じゃないしいったい何の狙いが……。


「な、なんと!? ジーザス王子!? どうしたこんなところに!?」

「そなたはベイロン男爵ではないか! いったいどうしたというのだ?」


 あ、偶然だったみたいだ。すごい偶然ですね。


 いやどんな偶然だよ。王子と男爵がギルドに尋ねて来るのが、偶然なわけがあるかよ!


 そして彼らの行動理由で思い当たるところは、目の前にいるお嬢様二人しかいない。


「……イリアさん、ラクシア。ちょっと前に出た方がいいんじゃない?」

「嫌ですわ! あんな奴の顔を見たら、そのまま破裂させてしまいそうですわ!」

「なんで追い出したのにあっちからやってくるのさ!? ボクはもう顔も合わせないつもりだったのに!」


 二人ともご立腹のようだ。当然だろうな。


「それでどうするんだよ? このままあいつらを放置していると、冒険者ギルドに大迷惑だぞ」


 ただ王太子に男爵がいたら、冒険者ギルドからすれば邪魔でしかない。


 そもそも騎士たちは冒険者たちを威圧してるし、冒険者たちも自分のテリトリーが侵されたと嫌そうな顔だ。 


 そんなことを考えていると、知らない冒険者が机の下に潜ってきた。


 ……あ、ヤバイ。告げ口されてしまう!? と思ったのだが。


「王太子や男爵はあんたらが狙いだそうだぜ。どうする? コッソリ逃げるなら手伝うが」


 なんと俺たちを突き出すのではなくて、コッソリ逃がしてくれるだと?


「……いいのか? あいつらの狙いがわかってるのに」

「いいに決まってるだろ。俺たちは王太子にも男爵にも世話になってないが、あんたらには助けられてるからな。他の冒険者たちも同意見だと思うぜ。そうじゃなけりゃとっくに言ってるし」


 他の冒険者たちに視線を向けると、彼らも手でガッツポーズをしたり、出口を軽く顎で示したりだ。


 …………これは逆に逃げられないなあ。イリアさんたちもそう思ったのか、机の下から出て立ち上がった。


「ワタクシはここにいますわ! 婚約者が何の用ですの!」

「元お父様! 追い出しておいていまさらなんなのさ!」


 二人は王子たちに向けて歩いていく。


 すると王子たちは二人を見下したように笑うと。


「喜べ、イリア。貴様を婚約者に戻してやる!」

「ラクシア! お前を特別に娘として認めてやる! 光栄に思うがいい!」


 ……あの二人、殴っていいかな? 

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