第39話 新たなギルドマスター


 イリアさんが激怒した翌日。


 俺たち冒険者は冒険者ギルドに集められていた。ようやく新しいギルドマスターがやってきたらしい。


 普段は冒険に出向いてる奴らも揃っていて、この街を拠点にしている冒険者はほぼ出席している。

 

 そのせいで人が多いので普段よりも狭い。冒険者はガタイがいい奴が多いしな……。


「ねえねえ。新しいギルドマスターってどんな人だと思う? アンデッド系の魔法に穏やかな人だといいなあ」


 ラクシアが物騒なことを言ってくる。


 アンデッド系に穏やかな奴がギルドマスターやったらダメだろ。マジで。


「まともな人間なら誰でもいいですわね」

「以前のギルドマスターよりマシだといいですね……」

「リーンちゃんに逆に聞きたい。ギルドの金を大量に着服して、冒険者を何人も騙して殺して、挙句の果てに領地や国を危機に貶めた奴より酷いの難しくない?」

「改めて並べると以前のギルドマスター、そうとう酷いですわね」


 マジで酷いというか。一介のギルドマスターでここまでやれるの逆に天才ではないだろうか。


「逆に以前のギルドマスター以下って、どんな悪行を行えばなれるんだ?」

「うーん。他国との戦争を仕組んだとかどう? それなら越えられるかも!」

「そのレベルじゃないと越えられないんですね……」


 そんな軽口を叩いていると、受付嬢さんが手をパンと叩いて注目を集めた。


「皆さん! 今日はお集り頂きありがとうございます! この度は元ギルドマスターが迷惑をかけてすみません!」


 受付嬢さんが頭を下げると他の冒険者たちが騒ぎ始める。


「本当に大迷惑だー! あいつのせいでダンジョンにしばらく入れなくなったんだぞー!」

「殺せ! 殺せ! 殺せ! 誠意は言葉ではなく処刑だっ!」


 冒険者たちは元ギルドマスターにキレている。


 そりゃあいつが冒険者を食い物にした上に、事後処理のためにダンジョンに入れなくなってるからな。


「ご安心ください! 近いうちにギルドマスターは公開処刑されますので!」

「「「よっしゃああああああ!!!」」」


 処刑に歓喜する冒険者たち。


 これだから冒険者は野蛮だと言われるのだろう。まあ今回は彼らの気持ちも分からなくはないが。


「そして今日! 新しいギルドマスターがやってきましたので、紹介をと思いまして皆様を集めさせてもらいました!」


 すると冒険者たちは瞬時に真面目な顔になった。


 なにせ冒険者ギルドはギルドマスター次第で大きく変わる。例えばどんな依頼をどの冒険者に割り振るか、依頼の報酬額をどうするか。


 そういったモノに大きく関わるのがギルドマスターだ。冒険者たちは新しいギルドマスターを見極めようとしている。


 周囲の冒険者たちが真剣な声音で話し始める。


「新しいギルドマスターがダメそうなら拠点を他の街に移すぞ」

「当然だ。ただでさえ信用できないからな」

「旅の費用はかかるが仕方ねえ」


 冒険者たちも生活や命が掛かっている。


 ギルドマスター次第ではさっさと立ち去るつもりのようだ。俺たちとしてもあまりに酷い奴なら、他の場所に行くのも選択肢になってしまう。


「ではお入りください!」


 受付嬢さんが叫ぶと同時だった。

 

 ドガアァァァァァァァァァァンンンン!!!!


 凄まじい音と共に扉が吹き飛び、何者かが部屋へと入ってきた。


 そいつを一言でいうならば筋肉だった。巨漢、大柄、マッチョ、ガタイ、それらのデカいという形容詞が全て似合うほどに大きい。


 大柄な冒険者たちの、さらに頭一つ分ほど背が高い。大鬼オーガと見まがうような大男。そして頭はハゲ。


 そんな男はドシドシと足音を立てながら、受付嬢さんの側まで近づくと。


「俺が新しいギルドマスターのゲイルだ!」


 ゲイルと名乗った男は大きく息を吸うと、


「文句がある奴は……かかってこいやあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 


 凄まじい咆哮で空気が振動する。マジでオーガみたいだなあいつ。


 そんなことを考えているとラクシアが俺の肩を叩いてきた。


「ねえねえ。あんなのがギルドマスターはダメじゃないの? 見るからに脳筋そうなんだけど……」

「そもそもギルドマスターが強い意味ありますの? 冒険に出るわけでもありませんのに」


 ラクシアやイリアさんがそう思うのも当然だろう。ギルドマスターは事務処理能力が重要で、戦闘能力は二の次どころか三の次くらいだろう。


 ギルドマスターの仕事はさっき言った通り、報酬額を決めたり依頼を誰に振るかなどを決めるのが主だ。


 あのオッサンは頭脳労働より頭突きの方が得意そうだし、どう考えても事務職の人間ではない。


 なので冒険者たちはゲイルを見て……興奮して叫んでいた。


「うおおおおおお! すげえギルドマスターが来てくれたな!」

「ああ! これなら信用できるぜ!」

「元ギルマスのヒョロヒョロクソジジイとは大違いだっ!」 


 冒険者たちは全員がゲイルに賛同して、素晴らしいギルドマスターだと褒めたたえている。


 それを見てラクシアが目を見開いて困惑している。


「え? なんで? どうしてさ? 力が強いのとギルドマスターの能力は別物でしょ!?」


 確かに別物だ。別物なのだが……。


「冒険者って荒くれ者だからな。ヒョロイ頭脳労働系が嫌いで、力が強い奴は尊敬に値する」

「でもギルドマスターとしての能力に関係ないよね???」

「ないけど尊敬できるからな。尊敬できるということは信用に値するというわけで」


 能力が高ければ信用されるわけではない、という話だ。


「あ、わかった。死後について偉そうに語る神官よりも、いちど死んだゾンビの方が信用できる。なのにみんな神官の方を信用するってことだね!」


 なんとも具体的な例なので、たぶん前例があるんだろうなあ……。


 そんなことを考えていると、ゲイルが俺たちの方へと歩いてきた。


 やはりこいつデカいな。俺も背が低いわけじゃないのに、見上げないと奴の顔が見えない。


 ラクシアやリーンちゃんに至っては、倍くらい身長差があるぞ。


「おいお前らに指名依頼だ。さっそくだがダンジョンの調査をしてこい。そうじゃないと危険で他の冒険者が潜れねえ」


 なるほど。どうやら脳筋というわけではないようだ。


 少なくとも考えなしにダンジョンを解禁はしないと。


「報酬は?」

「要相談だ。だが安心しな、これは大勢の前での指名依頼だ。ケチったりしたらギルドの信用にヒビが入る。まあもうヒビ割れまくってるがよ、がはは!」


 ゲイルは高笑いしながら頭を下げて、俺の顔へと近づけると。

 

「それにここで依頼を受けて解決すりゃあ、お前らの評判も上がるぜ?」


 ……脳筋と思ったが食えないオッサンのようだ。前言撤回、このオッサンはギルドマスターに向いている。


「頼んだぜ! ダンジョンの近くでサキュバスが出たとか、色々と報告を受けているからよ!」


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週間異世界ファンタジー134位でした。ありがとうございます!

うまく行けばランキング伸びていくかもなのでなにとぞ……!

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