第37話 事後処理


 ダリューンたちを天に召してから二週間ほど経った。


 俺たちは冒険者ギルドに併設された酒場で乾杯をしていた。


「色々あったけど、まあ俺達は無事に終わったので乾杯!」


 高くグラスをあげて酒を一気飲みする。


 いや本当に色々あった。なんども死人が蘇るカオスな状況だったが、ひとまず俺達の周囲は一件落着してよかったよ。


 ちなみにもちろんだがこの飲み会は、ラクシアたち全員が納得した上で開かれている。というかラクシアの希望で開催された。


 いや流石にベイロン領が荒れている状況で、当事者が希望しないなら飲み会なんてしないって。俺はダリューンたちみたいなクズとは違うんだ。


 そんなラクシアの方に視線を向けると。


「お父様本当にバカ! バカバカ! ボクを追い出して案の定、酷いことになってるよ! バカ……!」


 と叫びながらグラスの中を飲み干す。なお酒に逃げているように見えるが、飲んでいるのはミルクである。


 ちなみにベイロン領だがかなりアレなことになっている。


 領民たちが蜂起して、兵士たちと戦うことに……なると見せかけて、兵士たちも大半が裏切ってしまったらしい。


 結果として反乱軍が優勢で、噂によると不死ゾンビ教団とか生まれているらしい。メチャクチャだ。


「ベイロン領は酷いことになってるが、俺たちが出来ることはこれ以上ないからな……」

「一介の冒険者が戦争に介入するわけにもいきませんわ」


 イリアさんも小さく頷いた。


 魔物の異常発生ならば倒しに行く。だが流石に戦争に冒険者が参加するのはよろしくない。


 なので今の俺達はベイロン領のことを様子見するしかない。また魔物が現れたら討伐しに行くのは構わないが。


「うう……お父様のバカぁ……。ボクを追い出さなければこんなことにならなかったのにぃ……」


 ラクシアはさっきから同じことを繰り返して、グラスの中身を飲み干した。繰り返すが彼女が飲んでいるのはミルクである。


「ベイロン領はこれからどうなるんでしょうか……?」


 同じくミルクを飲むリーンちゃん。彼女は酒を飲めないのではなく飲まないそうだ。


 そしてリーンちゃんの側の机には小さなカエルが一匹いる。以前からたまにカエルを見ていたけど、リーンちゃんが使役しているやつだったらしい。


「うーん。これ以上ベイロン領の状態が酷くなるようなら、国が軍を出して介入してくるかもしれないなあ……どうですか、イリアさん?」

「その可能性は高いですわね。流石にこの状況を放置するのはあり得ないですもの。民が逆らうのは許さないのでしょう。とは言えベイロン男爵のあからさまな失政なのが……」


 民が国に逆らうならば当然ながら国は許さない。


 ただ今回の件については少し事情が違う。民が逆らっているのは国ではなくてベイロン男爵だけなんだよな。


 なにせラクシアを追い出して、ゾンビが減った結果で起きたことだ。誰がどう見てもベイロン男爵のせいと判断するだろう。


 なので国がベイロン男爵を処分して、民をなだめるという可能性もあり得る……のか? 


「と、ところでラクシアさん。ベイロン領の皆さんから求められてますが、戻ったりはしないのですか……?」


 リーンちゃんが恐る恐るといった様子で口を開く。


 ベイロン領の民衆はラクシアの帰還を待ち望んでいる。だがそれはつまりこのパーティーから抜けるということで……。


「戻らないよ。ボクがここで戻ったら余計に面倒な事態になるのが見えてるし」


 だがラクシアは軽く返事してきた。


「いいのか?」

「いいもなにも。下手に戻ったらボクが教祖にされて、ラクシア教とか生まれそうじゃない?」

「あー……」


 確かにあり得そうな話だ。


 こういう蜂起の場合、民衆は自分たちのトップになる人間を求めるものだ。今回の場合はラクシアが最適すぎる。


 だがそこまで行くともはや領地乗っ取りとかの話になってきて、酷いことになるのは目に見えている。


「確かに戻らない方がよさそうだな……」

「でしょ? まあボクの名前の教えが生まれるのは少し魅力的だけど」

「生まれてはならない邪教じゃん」

「まあ戻らない方がいいですわね。それと下手に有名になっても大変なだけですわよ」


 元聖女様のイリアさんは語る。


 まあ有名になると多くの人に知ってもらえるが、それにふさわしい立ち振る舞いも求められて大変そうではある。


 ゾンビ教団の教祖に求められる立ち振る舞いがなにかは知らんが。


 そんなことを考えていると周囲から視線を感じる。酒場の他の席に着いた冒険者たちが、俺たちを見てヒソヒソと話しているようだ。


 なんとなくだがその態度には戸惑い、怯えなどが混ぜっているように見える。


 ……また悪口言われてそうだし、席を外したほうがいいかもしれない。今のラクシアには聞かせたくない。


「よし、そろそろ行こうぜ。ベイロン領の情報を集めつつ、なにか依頼があったら受けよう」


 そうして俺たちは席を立った。





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 ヴァルムたちが去った後、酒場ではワイワイと冒険者たちが話していた。


 だがひとつだけヴァルムの予想が違うとすれば。


「見ろよ。追放者パーティーの奴らだぜ。ベイロン領に大量発生した魔物を、あいつら四人で瞬殺したらしいぞ。騎士級どころか将軍級も大量にいたらしいのに」

「まじかよすげえな……英雄じゃん」

「聞いたか? あいつらが大将級の魔物を何体も倒したらしいぞ」

「俺は殺した奴らを蘇生して手ごまにしたって聞いたが」

「なんにしてもすげえな。少しくらい話しかけてればよかったか」


 悪口ではなくて賞賛だったことだ。


 当然だろう。なにせ他の冒険者たちが受けるのをためらった依頼を、ヴァルムたちは華麗に解決してきたのだ。華麗かは怪しいところではあるが。


「ヴァルムは元仲間に殺されかけたらしい。しかもそいつらがアンデッドに堕ちたのに、許して浄化してやったらしいぞ」

「まじかよ聖人じゃん。俺なら絶対許さねえわ」

「聖女様の回復魔法はどんな傷でも綺麗さっぱり消すらしいぞ」

「流石は聖女様だなあ」

「死霊闇呪術師の魔法は、かつての英霊を目覚めさせるらしい。あと巨大カエルも呼び出せるらしい」

「英霊を呼び出すとかいいな。俺もやりたい」

「盗賊の女の子は普通らしい」

「そうか」


 そうして冒険者たちはワイワイと話していく。


 だがそんな彼らの雑談を吹き飛ばすような声が、入り口付近から聞こえてくる。


「イリア様、王子からのお手紙です。どうぞご確認ください」


 イリアたちの前に、兵士が立ちふさがっていた。


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