第31話 イジメじゃなくて蹂躙


 せっかく戦ってやると言うのに、ダリューンたちは逃げ始めてしまった。


 なんて奴らだ。さっきまで俺たちを倒す気マンマンだったくせに!


 俺たちはダリューンたちを追いかけ始める。


「待てよお前ら! 俺と戦うんだろうがっ! 逃げるなっ!」

「少しだけワタクシの聖魔法の全力を受けてくださいまし! 大丈夫です! 回復魔法ですから!」

「我が眠りを妨げた者ども! 生きて帰られると思うなよぉぉぉ!」

「ゲコッ!!!!」


 俺たちとダリューンたちとの距離が詰まっていく。残念ながら俺たちの方が速いようだな!


 ちなみにイリアさんとラクシアは巨大カエルに乗っている。あの二人は魔法使いだから足は速くないし。


「ひいいいい!? なんであいつらスターヴデーモンの俺達より速いんだよ!?」

「化け物めっ! あんなやつがパーティーメンバーにいたのかよ!? おい魔物どもっ! 俺達を守れっ!?」

「く、来るな! 来るななんだな! この悪魔ども!」

「悪魔はお前らだろうが!」


 すると俺達の邪魔をするように、周囲にいた騎士ナイト級や将軍ジェネラル級の魔物が立ちふさがってきた。


 おそらく三十体以上はいるだろうが……今の俺の足を止められると思うなよ!


「邪魔だあああああ!!!!」


 俺は立ちふさがる魔物たちを体当たりを粉砕していく。こいつら程度なら剣を振るまでもない!


「癒しの光よ、降り注げ! ホーリーヒール!」


 さらにラクシアさんの治癒の光によって、周囲の魔物が大量に膨らんで破裂していき、


「汝ら、我が眠りを妨げた罪で死ねぇ!」


 ラクシアの英霊ゾンビが冤罪剣で魔物たちを切り裂いていき、


「ゲコオオオッ」


 巨大カエルによって魔物たちが踏みつぶされていく。


「おいいいい!? 将軍級の魔物もいるんだぞ!? なんで瞬殺されてるんだよっ!?」

「ああああ、あり得ないだろ!? あり得ないだろ!?」

「もう許してなんだなああああ!」


 ダリューンたちは泣き叫びながら逃げ続けるが、着々と俺達が近づいてきている。


 魔物たちは何度か割り入ってきたが、鎧袖一触とばかりに粉砕し続けている。すると魔物たちは俺達のことを遠巻きに眺めるだけになった。


「お、おいお前ら!? なにやってるんだ! 戦えよ!?」


 ダリューンが悲鳴をあげるが魔物たちがそっぽを向いた。あいつマジで人望ねえな! 


 そうして俺は手を伸ばせば届くところまで、ダリューンたちに追いついた。なので前に回って奴らの逃げ場をなくすと。


「その足は邪魔だな! おらっ!」


 奴ら三人全員の片足を斬り飛ばした。するとダリューンたちは勢いよく地面に転がる。


 そして俺、英霊ゾンビ、巨大カエルで包囲する。


 もはや逃げられないと悟ったのか、奴らは上半身だけ起こして俺達を睨んでくる。だがその目には隠しきれない怯えの色がある。


「ひ、ひいっ!? なんなんだよっ!? お前らマジでなんなんだよっ!?」

「ま、待てっ! 待ってくれえ!」

「待ってほしいんだな! 殺さないで欲しいんだな!」


 などと命乞いをしてくる始末だ。


 もうここまで来たら潔く死ぬとか出来ないのだろうか。出来たらこんなことになってないか。


「安心しろ。俺は優しいから少しだけ待ってやる」

「ほ、本当か!?」


 ダリューンが希望に満ちた目で俺を見て来る。


 俺としても少しだけ殺すのは待たないといけない。何故ならば、


「ああ。誰に殺されたいか選ばせてやるから、決まるまで待ってやる。俺に斬られたいか、治癒魔法で爆死するか、英霊ゾンビに殺されるか、カエルに潰されるか選べ!」

「「「嫌だあああああ!?!?」」」


 こいつら三人に対して俺たちは四人いるから、後腐れないように決めないといけない。


 さっきは早い者勝ちと言ったがよく考えると後で揉めそうだ。なのでこいつらの希望で決めようかなと。


 すると巨大カエルの上からラクシアの声が聞こえてくる。


「早い者勝ちじゃなかったの?」

「パーティー内で喧嘩しても仕方ないだろ。こんな奴らの命にそんな価値はない。さあ選べ! 切り刻まれるか、破裂するか、丸のみにされるか!」

「「「助けてええええ!!」」」


 ……とまあ冗談はこれくらいでいいか。これだけ脅せばなんでも喋るだろ。


「聞きたいことがある。お前らの背後に誰かいるだろ? 全部吐けば命だけは助けてやる」


 俺はダリューンたちに剣を突き付ける。


 こいつらの行動がおかしかったのはいつものことだが、変に感じたのは救助依頼の時だ。


 冒険者は四人いないとダンジョンに潜れない。潜れても救助依頼は出されないはず。なのにこいつらはあの時も三人だった。


 これは異常だ。俺の予想が正しければこいつらを利用した奴がいる。大して利用出来てなかった気がするけど。


 そしてそいつに関してもある程度の予想はついている。なのでこいつらの口から証拠を引き出そうというわけだ。


 普通なら悪にも忠誠心はあるだろうから、聞き出すのに苦労するはずだが……、


「は、背後だと!? あ、ああ! いる! いるぞ! 言うから命だけは助けてくれ!」

「いくらでも言ってやるよ! へへへ!」

「助けて欲しいんだな! 言うんだな!」


 このクズ共に忠誠心とかそんなものあるわけがない! 


 いくらでもペラるに決まってるんだよなあ! マジでこいつらを利用しようとしたのアホだろ。


「じゃあ三人同時に言え。もしひとりでも違うことを言ったら分かってるな?」

「おうよ! お前ら嘘なんてつくなよ!」

「当たり前だ!」

「ボキュが助かるためなら他人なんてどうなってもいいんだな!」


 流石はクズ共である。予想を微塵たりとも裏切らないのは、もうある意味好感が持てるまである。いややっぱり持てないわ。


 ダリューンたちは息を合わせて口を開くと。


「「「俺たちの背後にいたのは……!?」」」


 その瞬間だった。三人の頭に巨大な矢が突き刺さり、全員が倒れてしまった。


 矢の飛んできた方向に目を向けると。


「おやおや。危なかったね。魔物は早く殺さないと危険じゃないか」


 ニコニコと笑っている老人。ギルドマスターがそこにいた。

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