第32話 死者を弄ぶ
ギルドマスターは目を細めて笑っている。
ダリューンたちは頭を粉砕されて動かなくなった。いくら悪魔やアンデッドになろうとも頭部を破壊されたら死ぬのだから。
「ヴァルム君? 悪魔の甘言を自ら聞こうだなんてダメじゃあないか? どうせ嘘に決まってるのだから」
ギルドマスターはゴミでも見るかのように、ダリューンたちの死体を見下している。
「……本当のことを言った可能性もありましたが?」
「あり得ないな。そもそも背後になんて誰もいないさ。彼らはダンジョンで死んで、アンデッドになって暴走した。ただそれだけじゃないか」
……それだけとは思えないから、あいつらから情報を仕入れようとしたんだよ。
そして俺が一番怪しんでいる張本人こそがこのギルドマスターだ。
冷静に考えればそうとしか思えない。ダリューンたちが俺を待ち伏せしていた救援依頼を、受けさせようとしたのは誰だ? ギルドマスターだ。
それにダリューンたちが三人で冒険に出向いていたのも、ギルドマスターであれば可能だろう。
そもそも俺は追放された時に一方的に殺されそうになったのに、ダリューンたちと喧嘩両成敗というのもおかしな話だ。俺は一方的な被害者だ、ただ反撃しただけの。
俺の疑う視線に対して、ギルドマスターは人のよさそうな笑みを浮かべる。
「どうしたんだいヴァルム君? まさかギルドマスターであるこの私が、ダリューンたちの背後にいたとでも? 私になんの得があると言うんだい?」
……そこなんだよな。
ギルドマスターが怪しいのは間違いないのだが、彼が俺達を陥れようとする理由が分からない。
「確かにその通りですわね。でも……」
「…………」
イリアさんやリーンちゃんも、ギルドマスターを疑っているようだ。だが動機もなければ証拠もない。
「弱りましたね。ギルドマスターである私を信じられない冒険者は、流石に私の支部にいたら困ります」
ここで俺達がギルドマスターを疑おうものなら、俺達自身の立場がすごく悪くなってしまうのだ。
ギルドマスターと争った冒険者なんて、悪い噂が広まるに決まっている。最悪ならもう冒険者活動が出来なくなる恐れも……。
悩んでいるとギルドマスターがパンパンと手を叩いた。
「さあ帰りましょうか。無事に全て解決してよかったよかった!」
俺達に背中を向けて去っていくギルドマスター。
……失敗した。あの時、ダリューンたちをなんとしても守らないとダメだったんだ。殺させたらダメだった。
死人に口なしとはよく言ったものだ。ギルドマスターは明らかに怪しいのに、なにも手出しが出来ないなんて……!
思わず歯噛みしているとラクシアが近づいてきた。
「ねーねー」
「なんだよラクシア。今はそれどころじゃ……」
「ダリューンたちをゾンビにしてもいい? あの三人、アンデッドの才能があるからボクならすごく強くできるよ!」
「お前は相変わらずだな。そんなのダメに……」
俺の視線に英霊ゾンビが入った。
彼は「我が眠りを妨げた者よー!」とかずっと叫んでいる。アンデッドのくせに明らかに知性を持っていて、なんなら生前の記憶も持ってそうなのだが。
「なあラクシア。ダリューンたちを記憶や知性を持ったままゾンビ化できる?」
「もちろん! あの三人はアンデッドの天才だから、生きてた時より賢く蘇生できるよ! あんなにすごい才能の人たち、見たことないレベルだもの!」
すごく嬉しそうに叫ぶラクシア。目が輝いている。
マジかよ! あいつらのクソみたいな才能がこんなところで役に立つなんて!
そしてギルドマスターが目と口を見開いて、こちらへと必死に走って戻ってきた。
「待て! そんなことは許されない! ゾンビ化なんてダメに決まっているだろうがっ! それに仮にゾンビ化してなにかを言っても、そんなものは絶対に大嘘に決まっているだろうがっ!」
必死の形相で叫んでくるギルドマスター。怪しい! ここまでくると怪しすぎる!
「怪しいですわ! 怪しすぎますわ! 絶対に怪しいですわ!」
「いくらなんでも怪しすぎますよね……」
イリアさんとリーンちゃんも俺と同意見のようだ。ならば俺たちのやることは決まっている!
「ラクシア! あの三人をゾンビにして復活させろ! 毒を喰らわば皿までだ!」
「やめろぉ!? そんなことしたらいけない!」
ギルドマスターが必死に叫んでくるが知らんな!
ダリューンたちは明らかになにかを知っていた。ならばそれを聞き出すべきだ。
もしこれで嘘だったらみじん切りにして殺してやるからな……!
「うん! じゃあ行くよ! カースリジェネレーション!」
ラクシアの魔法が発動する。英霊ゾンビを復活させたときと同じ奴だ。
ダリューンたちにはもったいない魔法の気はするが、ここは言わないでおこう。
そして魔法陣がダリューンたちの死体の上に出現すると、彼らの粉砕した頭にウジみたいな肉片が集まって再生していく。
うわ気持ち悪い……なんでうちの魔法使いたちは、二人ともグロイ見目の魔法しか使えないんだよ。
そうして頭が完全に再生してしまうと。
「うおおおおおお!」
「やったぜ! 蘇ったあ!」
「ボキュ、復活なんだな!」
ダリューンたちは英霊ゾンビになってしまった。英霊とはいったい……考えるのはよそう。
そう思った瞬間だった。ギルドマスターが腰の鞘から剣を抜いて、ダリューンたちに斬りかかる。
だが二度も同じ手は食わない! 俺もまた剣でギルドマスターの剣を受け止める。
「くっ! 邪魔をするなっ!」
「するに決まってるだろっ! おいお前ら、さっき言いかけたことを話せ!」
俺が叫ぶと、ダリューンたちはなにかを察したのか悪い笑みを浮かべると。
「えー」
「どうしよっかなー。無料ってわけにはなー」
「情報料が欲しいんだな!」
「リーンちゃん! あの三人、カエルで丸のみに……!」
「「「ギルドマスター! バックにいるのはギルドマスター(なんだな)!」
とうとうアホ共は真実を話した。
やはりというか予想通りというか、正直もはや確認する必要あるか怪しかったけどギルドマスターか!
「ふ、ふざけるな! 私はなにもしていない! そもそも動機もないだろうがっ!」
「おいクズども! 動機を言わないと肉片おろしにするぞ!」
「ひいっ!? ぎ、ギルマスはヴァルムたちが邪魔だったんだよ! ダンジョンを攻略されたら困るからっ!」
「ダンジョンが消えたら責任問題だからな!?」
「冒険者の働き口が減るから左遷なんだな! だから優秀な冒険者を処分しようとしたんだな!」
ダリューンたちは悲鳴のように動機を喋ってくれる。
なるほど。確かに冒険者にとってダンジョンは大切な働き口だ。
もしそれを俺たちに攻略されたら困るから、処分しようとしたと……もし本当なら許せないんだが!
「ふ、ふざけたことを言うな! 全てデタラメだっ! 証拠もないのにそんなことを!」
ギルドマスターは顔を真っ赤にして叫ぶ。
だがもうここまで来れば状況証拠は明らかなわけで、ならば口を開かせる方法はいくらでもある。
「もう証拠なんていらないんだよ。ここまで確信を持てればいくらでも手段はある」
「しゅ、手段だとっ!? いったいなにを……!」
どうやらギルドマスターはまだ分かっていないようだ。
そう、俺以外の恐ろしさをなっ!
「イリアさん。人を破裂する直前で留めることって出来ますか? 例えばギルドマスターとか」
「出来ますわ!」
「ひいっ!?」
派手に脅せば証拠のひとつはふたつ出て来るはずだ。非人道的なのは否定しないが、こいつのせいで三人は死んでいるのだから同情の余地はない。
ギルドマスターが悲鳴をあげるがまだまだだ。
「おいラクシア。お前ってゾンビにした奴に命令できるよな?」
「できるよ?」
「じゃあギルマスをゾンビにしたら、本当のことを言わせられるよな?」
「うん!」
「ひいいいいっ!?」
「リーンちゃん。カエルって飲み込んでから溶かすまでどれくらいかかるの?」
「え、えーと。一日以上はかかるかと……」
「や、やめろ! そんなことをしていいと思っているのか!?」
ギルドマスターは泣き叫び出した。俺は首を横に振る。
「思ってはないですよ? でも……あんたのせいですでに三人死んでいるわけだからな?」
ギルドマスターの悪行を放置していたら、冒険者が大勢犠牲になってしまう。
それを防ぐためならば多少の悪行も許されよう。
「そうですわね。時には悪を裁くのに、厳しい行いも必要ですわ」
「ボクの故郷をメチャクチャにしようとしておいて!」
「さ、流石にやりすぎてるので擁護できません……」
イリアさん、ラクシア、リーンちゃんも俺と同意見のようだ。
なにせギルドマスターはやりすぎた。こいつの行いの結果としてどれだけ被害が出ているんだよ!
「ぐっ……ならばっ! ならばお前たち全員殺し……て……」
ギルドマスターは剣を構えようとしたが、ようやく気付いたらしい。
さて今の俺達の現戦力を並べてみよう。
俺、イリアさん、リーンちゃんの巨大カエル、英霊ゾンビ、さっきより強化ダリューンたち。ついでにそこらの騎士級や将軍級の魔物ゾンビ×100以上。
対してギルドマスターの戦力は彼ひとり。
「…………話し合おうじゃないか!」
「「「殺し合うの間違いでしょ?」」」
俺たちはギルドマスターをボコボコにした後、ゾンビ化して彼の犯罪の証拠を得たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます