第22話 まさかである
俺は元パーティーメンバーの三人を見て、思わず笑っていた。
こいつらは別に助けたくなかったんだ。そんな奴らがわざわざ襲い掛かって来るなら、撃退という名目でボコれるじゃないか!
しかもイリアさんたちまで手籠めにするっぽいから、もはや微塵の同情すら抱かずにな!
「おいみんな! こいつらは俺が
「ヴァルム様? ものすごく悪い顔してますわよ?」
「干し肉でも食べながら観戦する?」
「救助対象を殺したらダメだと思うのですけど……!?」
三人が少し引いているが知ったことか! こいつらはここでやらなきゃダメなんだ!
ダリューンたちは俺を見てわずかにたじろくが、怯える様子もなく武器を構え続けている。
……ん? おかしいな。今までのこいつらならこの時点でビビり倒してたはずなんだが。
「おいヴァルム! 俺達を今までと同じと思うなよ!」
「そうだぜ! なんの策もなくお前と戦うと思うなよ! マジでトラウマだったからな!?」
「ボキュたちは修行して強くなったんだな! 今ならヴァルムなんて楽勝なんだな!」
なるほど。こいつらも少しは鍛えたというわけか。
確かに以前のダリューンたちと変わらないなら、俺と真正面から戦っても勝てるわけがない。なにせ背中に剣を刺されまくった上でも楽勝だったからな。
「面白い。弱い者イジメは少し気が咎めるからな! ちょっとは抵抗して見せろよ!」
以前ほど楽勝とはいかないか。少しは気を引き締めて戦うことにしよう。
そう思いながら俺は三人に向けて突撃する。まずは様子見で軽い攻撃を放って、その間に息を吐いて奴らに毒を吸わせてやるか。
「オラァ!」
俺は持っている剣を振った。狙いはダリューンの剣だ。
奴がこの一撃をどう防ぐかで、どれだけ強くなったか見せてもらおうじゃねえか!
俺の剣の一斬がダリューンの剣の刀身に当たり、
「ぐわああああ!?」
……ダリューンの剣は吹っ飛んで行った。え? よっわ……。
そのままみぞおちを殴るとダリューンは崩れ落ちた。
「て、てめぇ! よくもダリューンを!」
「覚悟するんだなっ!」
ボロドーがナイフを持って襲ってきたので、軽く剣で弾く。するとナイフもポーンと遠くに飛んでいく。
回し蹴りを放つとボロドーは吹っ飛んで気絶した。
「ひ、ひいっ!? ウインドブラストなんだな!?」
魔法で風の塊が飛んできたので剣で跳ね飛ばして、ベルベルに肉薄して顔面を殴り飛ばす。すると起き上がってこない。
……いや弱すぎるだろ!? 以前と全く変わってねえぞ!?
「ヴァルムさん、お強いのですわ!」
「いやボクはあの三人が弱すぎるだけだと思うな」
「言ったら悪いのですが……ゴブリンの方が強そうですね……」
三人の評価も散々だ。だってマジで弱かったんだもん。修行したんじゃなかったのか……?
いや一か月ちょっとの修行でそこまで変わらないとは思ってたが、元が弱いから多少は強くなってるものかと……。
「……ラクシア。あいつらゾンビにして連れて帰……」
俺がそう言おうとした瞬間だった。
「上からなにか近づいてきます!」
リーンちゃんの悲鳴とともに天井を見上げると、巨大なコウモリが十匹ほど降りてきていた。
「あ、あれはジャイアントバットです! すみません、今まで気づけませんでした!」
チッ面倒な! 空の敵となると前衛とかないから、近くにいないとイリアさんたちを守れない!
俺は急いでイリアさんたちの元へ近づき、剣を構えた。
それと同時に巨大なコウモリたちは、急降下して地表まで降りて来て……!
――ダリューンたちを足で掴んで、空へと持ち上げて遠くに逃げていく。
「ひいっ!? た、助けてくれぇ!?」
「い、いやだぁ!? 高い!? 怖い!?」
「た、助けてなんだな!? 死んじゃうんだな!?」
ダリューン達の悲鳴が聞こえるが、遠すぎて攻撃など届かない。
「……んん? 俺達を無視してダリューンたちを狙った、のか?」
「見たいですね……あっ、落とされました」
「「「うわあああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?」」」
天井近くまで舞い上がったコウモリたちは、ダリューンたちを放り投げてしまった。
「い、いやだ死にたくない死にたくない!?」
「た、たすけ、たすけっ……!」
「いやなんだなあああああぁっぁぁぁ!?」
ダリューンたちは地面へと落ちて行って……ああ、うん。あれは即死だろうなあ。
そしてコウモリたちはまたダリューンたちを回収して、どこかへと去っていく。
まるでクルミの皮を割って、中身だけ取っていくカラスみたいだあ……。
「……どうしますの?」
「……どうしようもないので、ダリューンたちは死んだと報告するしかないですね」
「いまのなんだったんだろ……」
「分かりません……ただあのコウモリたち、急に現れたような。いえ言い訳ですね。気づけなくてすみません……」
「天井付近は薄暗いから仕方ないよ」
俺たちは困惑しながらも帰ることにした。
いや本当になんだったんだよ、これは。
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ヴァルムたちが離れた後の場所、とある老人がやってきた。
彼の目の前にいるのは三人の死体だ。
「安心したまえ。私は嘘はつかない。君たちには才能がある。ヴァルム君がメインを張っていたせいで目覚めなかった才能がね。そう……」
ダリューンたちの周囲に魔法陣が出現する。
それは漆黒の闇を連想させて禍々しく、見る者に恐怖をもたらす陣だった。
――ようはラクシアが使っているモノと同じである。
「君たちはアンデッドとして、他人を恨むことの天才だ! さあ目覚めたまえ! そしてその力を示すのだっ!」
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アンデッドの才能って、たぶん人間が持ちたくない才能上位だと思う。
少なくとも生前はいらないし……。
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