第23話 地味に落ちぶれたパーティーたち


「いや本当にすまなかった……あんな下らない奴らのために時間を使わせてしまって……」


 俺は冒険者ギルドに戻った後、イリアさんたち三人に対して頭を下げていた。


 もう本当最悪だ。あんな奴らと同じパーティーだったなんて、こんなことなら追放された時に息の根を止めておくべきだった……。


「いえいえ。ヴァルムさんは悪くありませんわよ」

「あれはあの三人がひど過ぎるだけだと思う」

「救助依頼を悪用する人は初めて見ました……」

「すまない……もうあいつらは二度と迷惑かけないだろうから……」

「もう死にましたものね」


 イリアさんたちは許してくれそうでよかった。


 ダリューンたちとパーティーを組んでいたのは生涯の恥だな……。


 ……ただ実質俺だけパーティーだったせいで、つまり俺のせいであいつらが変わってしまった可能性もある。そこは気を付けていきたいところだ。


「そもそもそれを言うなら、ボクのせいでみんながベイロン領を出禁になっちゃったし」

「大丈夫ですわ。あんな土地、頼まれても行きたくないですもの」

「そもそも危険な場所になったから、追放された方が都合いいまであるからな」

「出禁のデメリットがないですよね……」


 ラクシアの元実家であるベイロン領は、すでに冒険者ギルドが危険地帯に認定したからな。入らない方がいいに決まってる。


 もし万が一で指名依頼とか来ても出禁を理由に断れるからな。


「そういえば王太子がベイロン領に聖女を派遣するのって、いったいどうなるんだろうね?」

「少なくとも偽りの聖女なのは確定だろうな」


 冗談交じりに告げると、イリアさんの様子がおかしくなり始めた。


「偽りの愛……真実の愛……っ!」

「ああっ!? またイリアさんの真実の愛スイッチが入っちゃったよ!?」

「真実の愛ってキーワード以外でも入るのかよ!? ああっイリアさんの身体から聖魔法が漏れてる!? イリアさん、大丈夫です! 真実の愛なんてどこにもありませんから!? 」


 俺たちは必死にイリアさんをなだめる。


 この聖女様、うちのパーティーで最大火力だから怖い……。


 本来なら聖魔法が漏れても危険はないのだが、イリアさんの場合は殺戮破裂魔法に早変わりするから……。


「ふーふー……大丈夫ですわ。落ち着きました」


 なんとかイリアさんが落ち着いたようでなによりだ。


 正直このパーティーで一番危険なのはイリアさんかもしれない。一番安全なのはリーンちゃんで確定なのだが……。


「そういえばリーンちゃんを追放したパーティーってどうなったんだ? 全然関わりがないけど」


 俺を追放した奴らは潰れたし、イリアさんの王太子は話題に出て来たし、ラクシアの実家は俺達を出禁にした。


 だがリーンちゃんを追放したパーティーだけは、びっくりするほど話題に出てこない。

 

「あの、普通は元パーティーが関わって来る方が珍しいと思うのですが……」

「「「このパーティー、普通じゃないから」」」

「自信満々に言うことなんですか……?」


 だって仕方ないじゃないか。


 公爵令嬢聖女と死霊闇呪術師がいるパーティーだぞ? 俺とリーンちゃんは普通だけど。


「実際のとこ、リーンちゃんを追放したパーティーに危険はないのかな? なにか仕掛けて来るなら警戒しておきたいのだけれど」


 あまり追放された元パーティーのことを尋ねるのはよろしくない。


 だがこれまでの実績からすると、なにかしらで俺達に迷惑をかけてくる可能性があるのだ。その時に少しは情報がないと困るかもしれない。


「え、ええと。私もどうなってるか分かりません……受付さんに聞いてきますね」


 リーンちゃんは受付嬢さんの元へと走っていく。


「どう思う? 俺たちに復讐してくると思うか?」

「リーンさんが狙われるのはあり得そうですわね」

「追放費用を払えって言ってくる可能性はあるかも」


 俺達が少し話をしていると、リーンちゃんは戻ってきた。


「ええと。私のいたパーティーはダンジョンで全滅したそうです……受付嬢さんが言うには、私が抜けたことで弱体化したのに無理に潜ったからと」


 なるほど。たしかにリーンちゃんは索敵など優秀な盗賊だ。


 そんな彼女が抜けたとなれば、パーティーが弱体化して壊滅するのは普通にあり得る話だ。話なのだが……。


「なんというか、これまた普通というか」

「あり得そうな話ですわね」

「ボク、そりゃそうだよねって思っちゃった」

「普通のなにが悪いんですか!?」


 悪くないよ。むしろリーンちゃんはこのままでいてね。




^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^




 時は少し戻る。リーンを追放したパーティーたちは、新しく盗賊シーフを入れてダンジョンに潜っていた。


 だが盗賊シーフはパーティーリーダーに首を掴まれていた。


「なにをやっているんだ! なんで魔物がかなり近づいてくるまで察知出来ないんだよ!」

「暗い中でも遠くを見通すのが盗賊シーフの役目だろ!」

「それになんで魔物の種類も分からないんだよ!」


 言い寄る三人に対して、盗賊シーフは唖然とした顔をする。


「……は? お前たちは何を言ってるんだ? 盗賊シーフは多少夜目が効く程度で、暗い中で遠くを見通すなんて無理に決まってるだろ!? それに盗賊シーフが魔物に詳しいわけないだろ!」

「なにを言ってやがる! 無能だったリーンですら出来たことだぞ!」

「なら他の盗賊シーフに聞いてみろよ! 夜目でも遠くを見据えて、裁縫もできて、武器の整備も可能でしかも魔物の知識も豊富だと!? そんな盗賊シーフがそうそういてたまるかっ!」


 リーンはかなり優秀過ぎる盗賊シーフであった。


 戦闘能力こそ皆無なのは事実だ。だが敵を未然に察知して不意打ちを避け、しかも魔物の知識も豊富で弱点などを教えてくれる。


 戦闘能力がなくとも、並みの盗賊シーフとは比べ物にならないほど優れていたのだ。


 だがリーンの元パーティーメンバーたちは、戦闘力を重視して追放してしまった。


「ふざけるな! あんな戦えない奴が優秀なわけっ……が……」


 四人の声が止まった。


 何故なら彼らのすぐそばには、ギガオーガが三体もいたからだ。


「お、オーガか! 行くぞっお前らっ!」

「「おおっ!」」


 だがリーンの元パーティーメンバーであった三人は、相手をオーガと勘違いして突っ込んでしまった。


 彼らはオーガ三体ならば相手出来ても、ギガオーガなら一体にすら歯が立たないというのに。


 ギガオーガたちが腕を振るうと、三人は吹き飛ばされて壁へと叩きつけられた。


「ひ、ひいっ!? お、おいどうするんだよ!? 逃げるのか!?」


 難を逃れた盗賊シーフは必死に叫ぶ。


「く、くそ、がっ……な、んで、俺らが、オーガ、なんかにっ……!?」

「そんなこと言ってる場合かよ!? ほら逃げるぞ!? 煙玉だっ!」


 そうしてリーンの元いたパーティーメンバーたちは、大怪我を負いながらなんとか逃げ出したのだった。


 もしここにリーンがいたならば、ギガオーガだと看破して逃げていただろう。いやそもそも不意打ちされることもなく、邂逅する前にここから去っていた。


 彼らがこうなったのはリーンという優秀な盗賊を失ったからだ。


 言ってしまえば当たり前、普通の展開であった。

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