第24話 飲み会
「そういうわけでダリューンたちは死んでました」
俺たちはダリューンたちの死を見送った後、ギルドに戻って受付嬢さんに報告中だ。
ただ殺されかけた箇所は割愛して、ダリューンたちは最初から潰れて死んでいたということにした。
理由としては大きく二つ。ひとつは俺が救助対象を殺したと疑われたら困るからだ。
ふたつめはあいつらの名誉のため。救助依頼を出しておいて殺しにかかってきたなど、奴らの親族まで汚名を受けるレベルの悪行だ。
もう死んだ奴らをなお辱める趣味はない。あとは下手に救助依頼が悪用されたことが広まると、依頼を受けるのを躊躇する奴が増えそうだからな。
ほんのわずかな悪人のために、大勢の救助必要者が見捨てられる状況になるのは好ましくない。
受付嬢さんは少し困った顔になる。
「そうですか、承知しました。連れ去られたなら遺品も回収できてませんよね?」
「そうですね。すみません」
「いえいえ。救助依頼で助けられる方が珍しいですから。ギルドに預けられている『漆黒の牙』の保険金を渡しますね」
救助依頼を出すには当然ながら金が必要だ。
その金は冒険者依への報酬からギルドが天引きしていて、有事の際に依頼を出すことになっている。一種の保険みたいなものだろうか、強制加入だけれど。
冒険者の中には天引きに不満を持つ者もいるが、法律で決まっているからどうしようもない。
受付嬢さんはカウンター奥の扉に入って、貨幣袋を持って戻ってきた。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます」
俺としてはダリューンたちの金など欲しくもないが、他のメンバーのタダ働きを防ぐためにもらっておく。
「じゃあ失礼しますね」
「今回は依頼を受けてくださってありがとうございました」
受付嬢さんが頭を下げてきたので手で制す。
そうして俺は併設された酒場に入って、すでに飲んでいる三人と同じテーブルの席につく。
「待たせたな。今回はくだらない依頼に巻き込んで悪かったよ。報酬をもらったから三人で分けてくれ」
俺は受付嬢さんからもらった貨幣袋をそのままテーブルに置いた。
だが三人は少し不満そうな顔をしている。
「ヴァルムさんも受け取るべきですわ」
「そうそう。同じパーティーの仲間でしょ? 君が言ったんだよ? 金銭関係はちゃんとしろって」
「ヴァルムさんも被害者ですから、気兼ねする必要はないかと……」
三人とも優しすぎるだろ。ダリューンたちなら嬉々として金を奪い去っていたのに。
「……ありがとな。じゃあ今日の酒代くらいは奢らせてくれ」
こうして俺たちは飲み始めた。
ダリューンたちが酷かったせいで、みんな普段より酒が進んでいく。
「もう一杯おかわりですわ!」
「ボクも!」
イリアさんとラクシアは顔を真っ赤にしていて、普段よりも明らかに声が大きい。
「なにが真実の愛ですの! なら貴方は偽りの王太子ですわ! それに婚約者がいるのに誘惑してくる女なんて、絶対ロクでもない奴ですわよ! そうですわよね!?」
「うんうん、そうだね……」
「死霊闇呪術師ってだけで追放されるの酷いよぉ……! うえーん! ボクは頑張ってきたのにぃ……!」
「うんうん、そうだね……」
二人は完全に酔っぱらっている。
それはいい、それはいいのだが……ラクシアはミルクしか飲んでないのになんで酔ってるんだろうか?
場の雰囲気に酔ってるのか? 随分と楽に酔える奴だな、お得じゃん。
「うう……あんまりですわー!」
するとイリアさんが俺の頭を、彼女の胸に押し付けてきた!?
あ、あの胸が……胸が当たってるんですが!? なんというラッキーだろうか!
と思っていると、イリアさんの身体が輝き始めた。ふむ、どうやら癒しの力が漏れているようだ。
ふむ、なるほど。ふむふむ。
――脳裏に今まで破裂してきた魔物たちの姿がよぎった。
「わー!? リーンちゃんヘルプ! 助けて!? 死ぬ! 聖女様に殺される!?」
必死に暴れるがイリアさんの胸から抜け出せない!?
「なにを言ってますのよ! ワタクシは回復魔法しか使えませんわ! あら少し怪我していますわね。全力で癒して差し上げますわ! 大事な仲間を怪我で失うわけにはいきませんから!」
「今絶賛、その大事な仲間が危機に陥ってるんですけど!?」
リーンちゃんにチラリと助けを求めると、彼女はオドオドしながら困っている。
必死に助けてと睨みつけるととうとう動いてくれた。
「あ、あの……それくらいの怪我なら放っておいても治るかと……」
「確実に治しておくにこしたことはないですわよね?」
「そ、それは……」
リーンちゃん早く反論して!? 俺を聖女の魔の手から助けて!?
「あ、はい、そうですね……」
ダメだあれは戦力外だ!
「ラクシア! 助けろラクシア!」
こうなればラクシアに助けを求めるしかない! 死霊闇呪術師と聖女ならなんかこう対消滅的に対抗できるだろ!
だがラクシアは不機嫌そうな顔をしている。
「ぶー! ヴァルム、デレデレしちゃってさ! そんなに抱き着かれたのが嬉しい!?」
「嬉しくないわ!? というかマジで怖いんだけど助けて!? いやほんとに助けて!? あっちょっ、イリアさんの輝きが増して……!?」
その後、俺は腕にいくつか水ぶくれが出来たがなんとか脱出。無事に回復魔法を受けて命を失わずに済んだのだった。
「ねえリーンちゃん。ところでこの水ぶくれ、どうやったら治るの?」
「ええと、回復魔法……で生まれたキズですよね……逆に剣を刺して傷つけたら治る……?」
「勘弁して……」
……もうあの二人と酒飲むのやめようかな。
「あの、ヴァルムさん……お二人が高い酒やミルクを飲みまくってますよ……支払い額が……」
もうあの二人と酒飲むのやめようかな!?
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