第25話 ダンジョン周辺の捜索


「俺たちにギルドからの指名依頼ですか?」

「そうなんです。ダンジョン『一角獣の巣窟』周辺の地上を探索して、異常が発生してないか調査して欲しいのです」


 俺たちはいつものように冒険者ギルドに来ると、受付嬢さんにそんなことを言われてしまった。


「『一角獣の巣窟』付近で、強い魔物と出会った報告があるんです。それも複数。なので調査したいのですが、なにかあっても対応できるパーティーな必要がありまして」

「なるほど。それでボクたちってわけだね! 優秀だもんね!」


 ラクシアが少しドヤ顔で普段より大きく叫ぶ。


 たぶんわざと周囲に聞こえるような声にしているな。


「そうなんです。皆さんは優秀さなら他の追随を許しませんから!」

「だけってなんですか。だけって!」

「そうだよ! ボクたちは優秀なだけじゃなくて人格も優れてるよ!」

「ここを何回ゾンビまみれにしたと思ってるんですか?」

「「「「申し訳ありません」」」」


 ぐうの音も出ないカウンターを受けてしまった。


「それで受けて頂けますか? 本当は複数パーティーを雇いたいのですが、ギルドマスターがまた不在でして私の一存だと無理で……」

「あの人って置き物じゃなかったんですね。いつもギルドにいるイメージでした」


 俺はここのギルドに来て二年以上経つが、ギルドマスターが留守にしているところを見たことがない。


 なのに最近はよくお留守なんだよな。


「ギルマスはダンジョン内部の調査で忙しいみたいです。最近、行方不明になる人が増えてまして」

「そうなんですか?」

「はい。まだ調査中なので確定ではないですが、強い魔物が増えているのではと。それで調査依頼は受けてくださりますか? 受けてくださりますよね?」


 受付嬢さんは笑っているが少し目が据わっていた。


 そんな彼女の様子を見て、俺達は顔を見合わせて頷く。


 ――受けとかないとゾンビ罪とかで叱られそうだと。


「もちろんですとも! 優れた者にはそれ相応の義務がありますからね!」

「当然ですわ!」

「そうそう! ボクもそう思うな!」

「が、頑張ります……!」

「ありがとうございます! 受けてくださらなかったら、それ相応の措置を取るところでした!」


 受付嬢さんはすごく嬉しそうに笑った。怖い。


「それ相応の措置とは……?」

「聞きたいですか?」

「やめておきます……」

「ちなみに冒険者救助依頼も増えていますから、また余裕があれば受けてくださると嬉しいです。あ、それと他にも……」


 これ以上の面倒ごとを押し付けられる前に、俺たちは逃げるようにギルドから出て行った。

 

 そうして少しだけ準備をして、『一角獣の巣窟』へ続く街道を歩いている。


 するとラクシアが俺の真横に並んできた。


「ねーヴァルム。ダンジョンに異常が発生してたらどんな問題が起きるの?」

「色々だな。最悪なのはダンジョンから魔物が溢れて、外へと出て来ることだ。ダンジョン内の魔物は強いから、そこの土地どころか国全体の危機にもなりえる」

「あー……地上だと騎士ナイト級が最高だけど、ダンジョンだともっと強い魔物もいるもんね」


 するとリーンちゃんが俺たちの会話に入ってきた。


「もし大将アドミラル級の魔物が複数出現したら、国が滅ぶと思います……」


 大将アドミラル級。それはギガボアオークたちのさらにワンランク上で、万の軍勢すら壊滅させる魔物のクラスだ。


 大将アドミラル級ともなれば、だいたいの人が名前は知っている伝説の魔物になる。


 例えばグレディアスドラゴンという山を一つ消し飛ばした竜。


 例えば巨人鬼ジャイオーガという街を踏みつぶした巨鬼。そういった化け物たちが大将アドミラル級だ。


 そんな魔物が出てきてしまったら、もはや冒険者の対応する領域ではないだろう。


 なんなら巨人鬼がグレディアスドラゴンに騎乗するなんて、連係プレイをしてくるかもしれない。そんなのされたら世界滅ぶな。


「そんな奴らが出てこないためにも頑張って調査しような。早めに気づけば魔物を間引くとかで対処できるかもだし」

「そうですわね。ワタクシたちが見逃したせいで、国が滅んだなんて嫌ですものね」

「ふっふっふ! 調査探索となればボクの出番! ゾンビをいっぱい使役すれば八百万の目だよ!」

「想像したら怖いですね、八百万の目……」


 せめて百目くらいで留めておこうぜ、と思わなくもない。


 そうして俺達は『一角獣の巣窟』の入り口についたので、さっそく周辺を調査し始めた。ちなみに太陽はちょうど真上を登ったところだ。


「あっ! ゴブリン見っけ! あっちにはオーガだ! 全部ゾンビにして、ボクの目にしてあげるからね!」


 太陽が真上を登ったところでゾンビタイム始めるのやめてくれないかな。


「「「アーアー」」」


 ラクシアがどんどんゾンビを増やしていき、ゾンビがさらに魔物を倒してゾンビになっていく。


 なんだこの地獄絵図……本当に危険なのってダンジョンよりラクシアじゃね?


 そして続々と増えていくゾンビたちが周囲を探索し続ける。


「アー、アー……」

「グオー……」

「イギモノッ」


 ――まるで生きた獲物を探すかのように。


「ええと。ワタクシたちが調査する意味あるのでしょうか……?」

「ない気がする……ところで聖女様てきにはこの状況はOKなんですか?」


 ゾンビまみれとか浄化すべきでしょう。聖女なら。


 だがイリアさんは首を横に振った。


「ワタクシ、聖女の自覚はありませんから。それに完璧に操られているなら別にいいかなと。誰も傷ついてませんし」

「死者が冒涜されてません?」

「死者が生者の道を作っていると考えれば、悪くない光景に見えません?」


 ゾンビが獲物を探してさ迷ってる地獄にしか見えません。


「ま、まあほら。魔物ですし……?」


 リーンちゃんが頑張って擁護してる。偉い。


「……まあ役に立ってるからいいんだけどな。誰かに見られでもしたらヤバイけど」

「そうですわね。でもこんなところで誰かと鉢合わせなんて……」


 俺達がそう話した瞬間、ダンジョン入り口から出てきた男と目があった。


 あれはタータだ。以前に救助した冒険者で、俺達の数少ない理解者。

 

 そんな理解者の彼は周囲を見回した後に。


「…………あ、あはは。あはははは……さあ帰ろうか。なるべく周囲を見たらダメだよ!?」


 タータは渇いた笑みを浮かべたまま、パーティーメンバーを連れて帰っていくのだった。


「……言い訳しなくていいんですの?」

「ゾンビを引き連れての調査を、どう言いつくろえば誤魔化せるか教えてほしいんだが……」

「どう言いつくろっても酷い状況ですからね……」

 

 結局、特に異常などは見つからなかった。


 そうして俺たちは街に戻ってタータに会うと。


「違うんだ! あれは調査の一環で!」

「そうですわ! 死者を使役することにより、生者を救うという命の循環なのですわ!」

「は、はあ……」

「もう無理ですよ二人とも……」


 なんとか必死に言い訳をしたのだった。




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