第26話 ベイロン男爵領、詰む


「ど、どうなっている!? なぜ騎士級以上の魔物が領内で出現しているのだ!?」


 ベイロン男爵は屋敷の執務室で悲鳴をあげていた。


 そんな彼に追い打ちをかけるように、執事が焦りながら報告をし始める。


「領内で騎士級の魔物の群れが発見されています! 近くに村がありますが避難は……」

「な、ならん!? ただでさえ我が領は貧しいのだぞ!? 避難させた者を食わせる余力などあるものか!?」


 もし逃がした村人を全て養うとなれば、多大な出費を強いられる。しかも本来なら得られるはずだった税収も、避難した領民の分だけ減るのだ。


 豊かな領地ならば可能だったかもしれないが、貧しいベイロン男爵領では不可能な話だった。


 ベイロン男爵は悲鳴のような雄たけびをあげる。


「聖女様はまだなのか!? 派遣して頂けると手紙が来ただろう!? 聖女様ならば我が領地を浄化して、魔物を追い返してくださるはずだ!」

「あの手紙以降、王太子からの連絡はありません……」

「ええい!? どうなっているのだ!? 早く聖女に来てもらわなければ、この領地が危険だというのに!?」 


 ベイロン男爵は未だに知らなかった。


 すでに聖女様は領地に来ていて、彼が追い出してしまったことを。


 もしもあの時、ベイロン男爵がわずかにでも気づいていれば、このような事態には陥っていなかった。


 いやそもそもだ。もし彼がラクシアを追放していなければ、騎士級の魔物が増えるということもなかっただろう。


「す、速やかに催促の手紙を出すのだ! 領地の危機だと! そして兵士を出陣させて魔物を倒させろ!」

「せ、聖女の方はよいのですが、兵士が騎士級の魔物に勝てるとは……」

「いいから行かせよ! なんのために日頃養っていると思っている! それと冒険者ギルドにも連絡せよ! 冒険者とて多少は役に立つはずだ!」

「しょ、承知しました!」


 



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 王城の王太子の私室では、二人の男女が肩を寄せ合っていた。


「ラトネ、やはりお前は美しい……」

「ジーザス様……」


 王太子であるジーザスと、真実の愛の相手であるラトネはキスをする。


 彼らは本当に幸せそうであった。そんな彼らの邪魔をするように扉がノックされる。


「ジーザス様! 報告がございます! 入室してもよろしいでしょうか!」

「まったく邪魔を……許す!」

「ははっ!」


 部屋を入ってきたのは筋骨隆々の男。彼は騎士団長のガンゲイルだ。


 ガンゲイルはラトネを軽くにらんだ後に、膝をついて僅かに苛立ちを込めて話し始める。


「ベイロン領から早馬で手紙が来ました。魔物が大量に出現していて危急のため、速やかに聖女を寄こして欲しいと! いかがなさるおつもりか! イリア様はいらっしゃらないというのに!」


 ガンゲイルは今回の婚約破棄を快く思っていなかった。


 いや快くという程度の話ではない。内心では腸が煮えくりかえっていて、相手が息子ならばぶん殴っていたレベルである。


 イリアは普段から騎士たちの怪我も治療していて、騎士団の者たちに好かれていたのだ。また国防を考えれば、あれほどの癒しの使い手を追放などあり得ない。


 故に彼の怒りも当然だろう。そんなガンゲイルに対して王太子は軽く返した。


「くだらんな。イリア以外にも治癒系の魔法を使える者は多くいる。代わりになる者を送ってやれ」

「土地の浄化を出来る者などそうはおりませぬ! まだ王都にひとりいますが、彼女は国の護りに必須な人間です! それにイリアさまより遥かに劣ります!」


 ガンゲイルの叫びに対して、王太子は嫌そうな顔を隠そうともしない。


(まったくウルサイ奴だな。イリアは確かに聖女と呼ばれていたが、我が国には他のも優れた治癒魔法使いはおるだろうに)


 王太子は内心でため息をついた後に、ガンゲイルに対して口を開いた。


「ならば少しばかり兵を送ってやればいいではないか。そもそもベイロン領の問題なのだから、自分たちで解決させるのが筋というもの」


 王太子とは王の嫡男であれば誰でもなれる。


 つまり有能ではないどころか、無能であってもなれてしまう。


「筋など言っている場合ではありませぬ! 騎士級の魔物が多数出現しているのですぞ!? このまま増えればゼウルス国自体の危機になるのです! 貴方がイリア様を追い出したせいで! 今からでもそこの女を放し、イリア様を……!」

「何を言うか! 貴様ら騎士団が討伐してくれば良い話であろうが! 自らの無能を余のせいにするな!」

「……承知しました。もはや貴方と話すことはありません」


 ガンゲイルは勢いよく立ち上がると、無礼なのを承知で扉を力任せに閉めて部屋を出て行った。


「な、なんと無礼な!」

「ジーザス様……わたし、あの人は怖いです……」

「わかっておる! あのような者、余が王になった暁には騎士団長など続けさせぬ! ふう……邪魔が入ったなラトネ。では続きを……」 


 ジーザスがラトネの服に手をかけた瞬間、また扉が勢いよく叩かれた。


「無礼者! まだこの私になにか用か!」

 

 怒りの形相を隠そうともしないジーザス。だが扉の先から聞こえてきたのは、ガンゲイルの声ではなかった。


「ジーザス! どうなっておる! お前まさか本当に婚約破棄をしたのか!? 答えろバカ息子! ことと次第によっては許さぬぞ!」

「ち、父上?」


 ちょうど国に戻ってきたゼウルス王の声であった。



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タイトル少し変えました。

追放者アベンジャーズってよくわからないかなと……('_')


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