第21話 追放した奴らの救助依頼


「みんなすまない。俺の都合に付き合わせてしまって」


 俺たちはダンジョン『一角獣の巣窟』の洞窟の中へと入っていた。


 俺の元パーティーメンバーの『漆黒の牙』のバカどもを救助するためにだ。


「いえいえ。その方たちが面倒な人なら、他の人が迷惑を被るのもよろしくないですし」

「むしろボクとしてはヴァルムも被害者だと思うよ。謝らなくていいよ」

「ダンジョンにはまた潜るべきと思ってましたし……」


 イリアさん、ラクシア、リーンちゃんの言葉が暖かい……。


 マジで面倒ごとが起きるに決まってるのに、全員が拒否しなかったのは感謝しかない。


「でもさ。救助するのはいいけど、また繰り返すようならどうするの? 流石に何度も面倒は見れないよ? かといって他の人に迷惑かけるのを放置も出来ないよ?」

「まあそうだな。ただそもそも死んでる可能性もあるから、生きてたら息の根を止める感じでいいかなと」

「救助対象の息の根を止めたらダメでは……!?」


 本音を言うとあいつらが死んでいた方が、色々と話が終わるのも事実だ。


 いやさ。別にあいつらがもう俺に関わらないなら、死んでほしいとか思ったりもしないよ?


 でも他人に迷惑かけ続けるなら何らかの処置は必要だろう。


「実際に生きてたら救出した後どうするつもりですの?」

「冒険者ギルドに相談して、資格をはく奪してもらうのが丸いかなと」


 冒険者は自己責任とは言えども、なんでも自由にできるわけではない。


 例えば問題を何度も起こしたパーティーは、冒険者ギルドから資格のはく奪をされることもある。


 奴らが俺を殺しかけた時に資格をはく奪されなかったのは、パーティー内のいざこざで喧嘩両成敗な面があったからだ。


 だが今回は救助依頼で他者に迷惑をかけているので、その言い訳は通らない。


 ……ところであの救助依頼が出たということは、あの三バカのパーティーに入った奴がいるってことだよな? その犠牲者はいったい誰なんだろうか?


「ダンジョンは広いのですよね? その三人を見つけることは可能なのですか?」


 イリアさんの疑問はもっともだ。


 ダンジョンはものすごく広い。なのでやみくもに捜索しても見つかりはしない。


「大丈夫ですよ。冒険者は全員、タグを持ってますから。このタグで大雑把な場所ならわかります。まあ大雑把にですが」


 俺は首につけた金属タグを手に取る。


 このタグは魔法で作られた特殊金属で、ギルドは持ち主がどこにいるかが大まかに分かるらしい。


「例えば以前の『牛豚の蹄』はベイロン平野にいるってわかりましたよね。逆に言えばかなり大まかな範囲しか分からないのですが。今回の場合はダンジョン第一層の中央付近にいると聞いてます」

「それって見つからない可能性もありそうだよね? それならどうするの?」

「見つからない場合は諦めるしかないな。ただ大体は発見されることが多い。死んでるから残骸なり装備の一部が見つかるんだよ」


 たとえば魔物に食べられたとしても、金属鎧などは吐かれるからな。

 

 その残骸で死亡確認することがよくある。というよりむしろ生存していることのほうが珍しかったりする。


 魔物が出る危険な場所から数日戻らなかったら、まあ大体はそういうことになるわけだ。


 そんなことを考えながら洞窟の中を歩いていると、だだ広い空間に出た。


 湖などもあって、ひとつの街くらいなら作れそうなほどの広さだ。壁は青く光っているのが幻想的な雰囲気を醸し出している。


「こ、ここが中央付近です」


 リーンちゃんが地図を見ながら立ち止まった。どうやらここが目的地のようだ。


 軽く周囲を見回してみると……三人の男が俺たちを見てニヤニヤと笑っていた。


 ダリューン、ボロドー、ベルベル。ようは俺の元パーティーメンバーだ。


「……アレがヴァルム様の仲間の人たちでしょうか?」

仲間です。ついでに言うなら現仇敵です。というか怪我もしてないように見えるな……」


 救助依頼まで出ているのだから、普通に考えれば戻れなくなるほどの事情があるはずだ。つまり大怪我をしているか死んでいる。


 だが奴らは無傷にしか見えない。これは流石におかしいよなあ……。


 俺が三人の元に近づいていくが、奴らはなおも笑いを崩さない。


 そしてたまにイリアさんたちを見て舌なめずりをしている。


「おいお前ら、久しぶりだな。もの凄く不本意だが救助に来てやったぞ。人様に迷惑かけるんじゃねえよ」


 腹が立っているのでイヤミっぽく言うが、奴らは俺を見て勝ち誇ったように笑い続ける。


「よく来たなあヴァルム。待ってたぜ」

「ああ待ってたぜ。いい女たちも連れてきてくれてありがとうよ。後で美味しく頂かせてもらうぜ」

「ここがお前の死に場所なんだな!」


 ダリューンたちは武器を構えて俺へと向けてきた……こいつら正気か?


 気が付けば俺の身体は震えていた。


「お、おいお前ら。冗談じゃ済まないぞ。やめろよ、そんな……そんな……」


 俺も思わず腰から剣を抜く。


 なんてことだろう。こんなことがあるとは、こんなのあまりにも……!


「こんな嬉しいことしてくれるなよ!!」


 イヤイヤ助けに来た対象が、わざわざ攻撃してきてくれたのだ。


 つまり俺はこいつらになにをしたって許されるはず!


 まさかこいつらがこんなに馬鹿で、救いようがなくて……素晴らしかったなんて!


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