第20話 救助依頼は達成しました(半ギレ


 俺たちは冒険者ギルドに戻って、受付嬢さんに報告をしていた。


「ベイロン男爵領にギガオーガが二十体も……普通なら信じられないですが、物的証拠もありますからね。ところで冒険者ギルドに雁首を揃えて持ってこなくてもいいですよ……?」

「置き場がないんですよ。すぐ買い取ってください。それと報告を急いだのもあります」


 受付嬢さんの視線の先には、ゾンビギガオーク十七体がビシッと整列している。


 彼らはこの後、冒険者ギルドに買い取られて素材になるのだ。ちなみに大半が顔面潰れているので直視はおススメしない。


「確かにヴァルムさんの報告が早かったのは助かりました。ちょうど他の冒険者がベイロン男爵領の依頼を受けようとしてたんです。でもキャンセルさせておきました。少しでも遅れていたら救助依頼が増えていたかもです」


 やはり迅速な報連相は大事だ。これからも心掛けていこう。


「これからベイロン男爵領の依頼は出さない感じですか?」

「そうなりますね。ギルドとして危険な場所に冒険者を送るわけにはいきませんから」


 受付嬢さんの返答は予想通りだ。冒険者やギルドは慈善事業ではない。


 民を助けるために命を賭ける、なんてことはしないのだ。何故ならばそれだけのお金をもらっていないから。


 ようは助ける義理はないので、助けて欲しいなら別枠で大金くださいというスタンスだ。俺達だって生活がかかってるし。


 冒険者に比べて正規兵がいいご身分なのは、こういう時に役立ってもらうからだしな。恩を受けている以上、危急の時には奉公で返せというわけだ。


 さっき俺達を散々馬鹿にした正規兵たちが、さぞかし大活躍してくれることだろう。


「そうなるとベイロン男爵領はこれから大変になりそうですね」


 俺の言葉に受付嬢さんは困ったように笑った。


「そうですね。安全になるまでは冒険者が魔物を退治しないので、領内の戦力で魔物を減らす必要がありますから。でもベイロン男爵は魔物の対策をしないのでしょうか……?」

「聖女様を呼ぶそうですよ。ちなみにイリアさんはベイロン男爵領を出禁になりました」

「??? 聖女様を呼ぶのですよね? イリアさんを出禁にするのは矛盾しているのでは?」


 首をかしげて目を丸くする受付嬢さん。俺たちもこんな感じだったので気持ちは分かる。


「すでに王都から聖女が来ると確約があったそうなので、なんか代わりがいるようですよ。詳細はよくわかりませんが」

「イリアさんの代わりになれる人なんて、国内どころか世界中探してもいるか怪しいと思うのですが……」

「知りませんわ! 真実の愛がなんとかするのでしょう!」


 イリアさんが俺たちの会話に乱入してきた。片手にはワインの入ったグラスを持っていて、ほんのりと顔が赤くなっている。


「あの王太子が真実の愛で土地を浄化するのでしょう! 真実の愛の前ではなんでも出来るのですから!」


 あ、これ真実の愛スイッチ入ったな。このままだと話が進まないので逸らそう。


「イリアさん。あっちで怪我人がいましたよ」

「治してきますわ!」


 酔っぱらっても腐っても聖女だけあって、イリアさんはあっちへと向かって行った。ちなみに指さしてないので、あっちがどっちかは知らん。


 そんなこと考えていると受付嬢さんが頭を下げてきた。


「とにかくありがとうございます。皆さんのおかげで救助対象だった『豚牛とんぎゅうの蹄』も、誰一人欠けることなく無事に帰ってこれました」

「豚か牛の蹄フェチなんですかね?」

 

 なんでそんな名前にしたのか少し気になるところだ。今度会ったら聞いてみようかな。


「まあそういうわけでして。今後は俺達はベイロン領には入れません」

「承知しました。もし指名依頼が来てもベイロン領ならお断りしておきますね。ところで本当にベイロン領はどうするつもりなんでしょうか? それに聖女がやってくるというのも……」

「分かりません。でも下々の者には関係ない話ですし」 


 ベイロン領がこれからどうなっても、俺たちは追放されたので関係ない。というか関わることすら許されないのだ。


 まあ男爵や国がなんとかするのだろう。流石に真実の愛ではどうにもならないだろうが、なにかしらで対応するはずだ。


 もし仮に万が一対応できなくて、騎士ナイト級の魔物が地上に増えたらヤバイからな。


 ベイロン領どころか国が危なくなる。騎士ナイト級の魔物が軍勢を率いてきたら、そこらの一般兵の軍じゃ対応できないからな。


 なにせ騎士は優れたエリートの武人だ。その武人が一騎打ちでは勝つのが難しいのが、騎士ナイト級なのだ。


 そんな魔物が軍勢率いてきたら流石にヤバイ。冗談抜きで国家存続の危機だし、仮に勝ったとしても多大な犠牲を払うだろう。


「あ、そうそう。他に救助依頼は出てますか? もしあれば対応しようと思うのですが」

「いちおう一件だけあるのですが……ヴァルムさんは受けない方がよいかと」

「もしかしてベイロン領関係の依頼ですか? それなら無理ですね」

「いえそういうわけではないのですが……ええとですね」


 受付嬢さんはしばらく悩んだ後に、恐る恐ると言った様子で口を開いた。


「実は救助依頼が出ているのは、『漆黒の牙』。ようはヴァルムさんの元パーティーなんです」

「あいつらなにやってるんですか?」

「たぶんヴァルムさんが抜けたのに、今までと同じように依頼を受けたのではと……。流石に救助依頼は受けないですよね?」

「正直言うなら勝手にくたばれとは思います。思いますが……」


 あいつらは腐っているが元パーティーメンバーだ。


 それにあいつらは性格が悪いので、生きてたら救助しに行った他人に迷惑をかけるかもしれない。


 それに俺は悪くないと言いたいところだが、あいつらが救助対象になったのは俺がいなくなったから。つまり俺が間接的にかかわってしまっている。


 いや理不尽に追放されたので悪くはないのだが、他人に尻ぬぐいを任せるというのも……。


 あいつらのことだから助けられた後に、「本来なら救助は必要なかったんだな!」とか言って謝礼を払わない可能性も高い。というかたぶん払わない。


「というか確執がある俺が受けてもいいんですか?」

「ギルドマスターから許可が下りてますので大丈夫です。むしろヴァルムさんたちに受けて欲しいから、やんわりと勧めなさいと言われてます」


 てきとうなギルマスだなあ……このギルド、大丈夫なのだろうか。


「ちょ、ちょっと仲間と相談してもいいですか……?」

「申し訳ありません……」

「いえいえ。受付嬢さんは別に悪くありませんので……」


 あいつら本当にロクなことしないな!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る