第29話 しつこいにもほどがある


 俺たちがベイロン平野に到着した直後、よりにもよって最悪なことにダリューンたちが立ちふさがってきた。


「お前らあの時死んだんじゃなかったのかよ!」


 なにせ俺達が救助依頼に行ったら、こいつらは待ち伏せしてきたからな。


 それを返り討ちにして連れて帰ろうと思ったら、コウモリに持ち上げられてクルミのように割られて死んだんだから。


「ああ、俺たちは確かにあの時にお前に殺された!」

「いや殺してないけど。お前らがコウモリに攫われて……」

「お前に殺されたがスターヴデーモンとして蘇ったんだ!」

「だからお前らが強制スカイダイブで勝手に死……」

「よくも殺してくれたんだな! 復讐してやるんだなっ!」


 こいつらマジで人の話聞かねえ……! 


 というかスターヴデーモンとして蘇っただと? あり得ないだろ、いくらなんでも元が弱すぎるし。


「おい。お前らごときがスターヴデーモンになっただと? 嘘を言うんじゃない」

「はっ! なら証拠を見せてやるよ」


 ダリューンはいきなり地面を殴りつけた。すると周囲が揺れ始める。


「なっ……!」

「次は俺だぁ!」


 ボロドーは手で空を切ると、少し遠くに倒れていた兵士が真っ二つになった。


「ボキュの力を見るんだなぁ! ダークマジックフレアなんだな!」


 ベルベルが詠唱すると同時に、人の身の丈を超える巨大な炎の弾が出現する。


 その炎球は少し遠くにある池に飛んでいき、一気に池の水を蒸発させてしまった。


 当然だが以前のこいつらにこんな力はなかった。


「こ、この力は……間違いなくスターヴデーモンに匹敵します!」


 リーンちゃんが悲鳴を上げた。マジかよ。


「どうだヴァルム! 俺達には才能があったんだよ!」

「本当ならもっと強くなれたんだよ! お前さえいなければ、俺達は力を目覚めさせていたんだ!」

「そうなんだな! お前のせいなんだな!」


 ダリューンたちは俺に向かって叫んでくる。


 なるほど、確かにそうかもな。


 俺がいなければ、こいつらはもっと早く力に目覚めていたかもしれない。なにせ……。


「それって俺がいなかったらとっくに死んでるって、自白しているようなもんじゃないか?」

「「「……」」」


 あ、あいつら黙りやがった。


 どうやら自爆していることに気づいたらしい。


「スターヴデーモンって死んだ人間がなるものだもんね」

「ですわね。今までヴァルムさんがいたから死なずに済んでいたと」

「守ってもらっていたのに恨むなんて、最低だと思います……」

「「「…………」」」


 ラクシアたちが追い打ちをかけると、ダリューンたちはさらに言葉に詰まる。


 まあようは逆恨みだもんな。今まで死ななかったのはお前のせいだ! とか言われても反応に困る。


「ぐぎぎ……うるせえ! お前さえいなければ俺達はもっと幸せだったんだ!」

「そうだ! お前がいたから俺らは死んだんだ! お前を殺さないと俺たちは前に進めねえ! それにお前の仲間たち、いい女じゃねえか! 寄こせよ!」

「お前の全てを奪ってやるんだな! 覚悟するんだな!」


 ダリューンたちは好き勝手に吠えまくる。


 なんというかここまで好き勝手に言えるのは、ある意味才能なのではあるまいか?


「バカは死んでも治らないというが本当なんだな。まさか死んで蘇ってもなにひとつ学習しないとは……もういい。今度は塵ひとつ残さず焼き尽くしてやる!」


 俺は腰につけた鞘から剣を引き抜く。


 本当にこいつらと同じパーティーだったのは、俺の生涯の恥でしかないな!?


 思わず剣の柄を握る手に力がこもっていた。


「はん! 今の俺達はスターヴデーモンだぞ! つまりは大将アドミラル級の、万の軍勢で迎え撃つべき魔物だ!」

「そんな俺達が三人いるんだ! 勝てると思うなよ!」

「今度こそボキュたちが勝つんだな!」


 確かに今のダリューン達は、今度こそ以前とは比べ物にならない強さだろう。


 先ほども拳だけで地面を揺らしたり、衝撃波で人を真っ二つにしたり、魔法で池を蒸発させたのだから。


 まさに大将アドミラル級の魔物に相応しい力を得ている。言動が死ぬほど弱そうだがその強さは本物だ。


 さてどうするかなと迷っていると、イリアさんたちが俺の横に並んできた。


「確かに貴方たちは以前と違うのかもしれません。ですがヴァルムさんにもワタクシたちがいますわ」

「変わったのは君たちだけじゃないから!」

「そ、そうです……!」


 確かにイリアさんたちの言う通りだ。


 ダリューンたちは確かに強くなったが、今の俺も以前とは違う。少なくともひとりだけで戦う必要はないのだから。


 ダリューンたちと組んでいた時は、俺だけがひとりで戦っていた。だが今は違う。


 俺は三人に対して軽く頭を下げる。


「三人ともありがとう。じゃあ今回は協力して戦おうか」

「よく考えたらまともに連携するの初めてな気がしますわね」

「これまでは普通に各個撃破してただけだもんね。個々で戦ってただけだし」

「そ、そうですね……」


 今まで俺たちは特に連携せずに勝てていた。


 しかし強大(?)な敵を目の前にして、とうとう四人の力を合わせる時が来たのだ!


 そしてあのダリューンたちを相手にするならば、俺も全力を出す必要があるだろう。


 意を決して言おうとすると、他の三人と目が合って……。


「「「「今から隠してた本気を出すから、みんなは援護して……えっ?」」」」


 信じられないことに全員が同じことを言っていた。

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