第28話 出禁だけどやってきました!


 俺たちは兵士の男を先頭に、急いでベイロン領への街道を移動していた。


 ちなみに兵士の男は治癒されてキズは治っている。流石はイリアさんの回復魔法だ。俺は極力ゴメンだけど。


 ちなみに徒歩だ。本当は馬車とか借りれたらよかったのだが、金がないから借りれなかった。


 いや金があったとしても誰も貸してくれないか。なにせ馬車が戻ってこない可能性が高すぎるし。


「おいあんた、名前は? 今の間に聞いておきたいことがあるんだが」


 そういえばまだ名前を聞いてなかったので兵士の男に尋ねてみる。


「俺はベムだ。それで聞きたいことはなんだ?」

「聞きたいのは二つだ。騎士級の魔物が大量出現してるって言ってたけど、どんな種類がどれくらいの数なんだよ。大雑把でいいから」


 騎士級と言っても魔物によって強さはマチマチだ。


 それに相性もある。例えば俺なら剣が通用する魔物に有利だが、逆に剣が効かない相手はちょっと不利だ。対応方法はあるけど。


「すまない。多種多様過ぎて分からないんだ。鬼系、スライム系、狼系、悪魔系……まったく統一感がなかった」


 多種多様か。面倒ではあるがまあなんとかなるだろう。


「じゃあ次だ。将軍ジェネラル級の魔物について教えてくれ」

「……正確に言うと将軍ジェネラル級以上の魔物だった。異常に強かったからもしかしたら大将アドミラル級かもしれない」

「おいおい。大将アドミラル級となると話が変わって来るぞ」


 大将アドミラル級ともなれば、万の討伐軍を率いて相対するべき魔物だ。


 それが三体となればかなりの強敵になるぞ……まあ今更帰るつもりもないのだが。


 ……それに俺には切り札がある。実は俺はこのパーティーではまだ真の実力を発揮していないのだ。発揮するまでもなく魔物が死んでいくから。


 まあ出来れば使いたくはないタイプの実力だけど。


 俺はイリアさんたちの方を確認するが、三人とも臆した様子はない。


「なんですの? いまさら止めると思っていますの?」

「ボクを舐めてもらった困るよ! ふっふっふ! 強い魔物ほど倒せば有名になれるもんね!」

「が、頑張ります……!」


 イリアさんが日傘をクルクル回して、ラクシアが元気に叫び、リーンちゃんがガッツポーズをする。


 よし誰もビビッてないしいけそうだ。


 するとリーンちゃんがベムに対して、おずおずと口を開いた。


「あ、あの……その将軍ジェネラル級以上の魔物の、特徴などを教えてもらえませんか……? どんな魔物か分かるかもしれません」


 リーンちゃんは魔物の知識が豊富だ。ベムには分からなくても、彼女になら判断がつくかもしれない。


 ベムは必死に頭を悩ませた後に。


「奴らは一見すると普通の人間に見えたし、知性も人と変わらなかった。だが信じられない怪力で俺達をなぎ倒して、剣を刺しても全く効かないんだ。しかも動きも遅くなくてはっきり言って異常だった」


 アンデッドなら剣を刺しても効かないのは分かる。だが怪力で動きも遅くないというのは普通ではない。


 さらにベムは言葉を続ける。


「俺達の騎士団長は単独で将軍ジェネラル級を倒せる人だったが、奴らのうちの一体に軽く捻られてしまって……」

「どんなふうに捻られたんだ? 殴られたとか?」

「いや言った通り、雑巾みたいに捻り殺されたんだが……」


 想像したらグロイ件について。軽く捻るって比喩表現じゃないのかよ。


 しかしそんなことが出来るなら相当な怪力だな。


 リーンちゃんはベムの話を聞いて少し考え込むが、思い当たる節がないのかさらに問いただす。


「ええと。肌の色はどうでしたか?」

「普通の肌色だった」

「……なら飢えた悪魔、スターヴデーモンかも知れません」

「「スターヴデーモン?」」


 イリアさんとラクシアの声が重なった。どうやら二人はスターヴデーモンのことを知らないようだ。


「スターヴデーモンは人に化ける能力を持つ悪魔です。悪の心を持つ人間が死んだとき、その身体を依り代にスターヴデーモンが生まれると言われています」

「スターヴデーモンは大将ジェネラル級だぞ。それが三体となると厄介だな……」

「アンデッドとは違いますの?」

「アンデッドと違って聖魔法が弱点じゃないんだ。それに動きも速いし身体も腐ってないしでアンデッドの上位互換に近い」

「アンデッドの存在価値がないですわね。消え失せればいいのに」


 流石聖女様。アンデッドへの言葉が辛辣である。


「ちなみに他に特徴はなかったか?」


 まだスターヴデーモンに確定したわけではないし、少しでも情報は欲しいところだ。


「他には性格が……いやそれは関係ないか」

「関係あるかはこっちで判断するから言ってくれ」

「でも本当に関係ないと思うぞ? ちょっと変な感じだっただけで」

「いいんだ。少しでも情報が欲しい」


 俺の言葉に対して、ベムは少し言いよどんだ後に頷くと。


「えっとな喋り方がちょっと変だったんだ」


 などと妙なことを言いだした。喋り方が変? そんな特性はスターヴデーモンにはないはずだが。


「どんな風にだ?」

「ええと。なんか三体のうちの一体が「~なんだな」と連呼して……」

「「「「あっ」」」」


 俺とイリアさんとラクシアとリーンの声が重なった。


 世界広しと言えども、そんな口調をする奴はそうそういない。まさか……。


「ねえヴァルム。ボク、その口調に聞き覚えがあるんだけど」

「やめろ。気のせいだ。よしんば気のせいじゃなかったとしても、似たような口調の人間がこの世界には八百万はいるはずだ」

「あんなのそんなにいたら嫌だよ……」


 ものすごーく帰りたくなった。


 いやまさかな? 流石に別人だろ? 別人だよな?


 世界は広いんだからそんな口調の奴がいっぱいいるだろ。いてくれ。


 そう祈りつつベイロン平野に到着した俺の前に、三人が立ちふさがった。


「来たなヴァルム!」

「今度こそお前を倒してやる!」

「覚悟するんだな!」

「もうお前ら本当にいいかげんにしろよ!?」

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