第18話 救助依頼②


 俺は向かってくるオーガどもを睨みながら、腰につけた鞘から剣を引き抜く。


 まずはあいつらの狙いを俺にしないとな。冒険者たちを狙われたら面倒だ。


「さて鬼ども。お前らの好きなのはこれだろ?」


 俺は液状相転移リキッドトランスの力を使って、自分の流す汗や息の水分を酒へと変える。そして冒険者たちから離れていく。


 すると酒の匂いが周囲に漂っていき、


「「「グオオオオオオオォォォォォ!!!!」」」


 オーガたちは目の色を変えて俺に突進してくる。あれなら冒険者たちは安全だろう。


 俺はオーガたちに肉薄すると二体ほどの首を跳ね飛ばす。


 するとオーガたちは立ち止まって身構えて警戒し始めた。これがあるから魔物の数が多いと厄介なんだよな。仲間がやられると警戒してくるからやりづらくなる。


 正直俺からすればギガボアオーク三体の方がやりやすかった。速攻で決めることが出来たからな。


「ヴァルム! もっと酒の濃度を強くして!」


 俺から少し離れた場所からラクシアが叫んでくる。


 なんで酒を強くするんだ? ……まさか。


「……酔って気持ちよくなりたいのか? 今は戦闘中だぞ? 後にしろ」

「人の体液で作った酒で酔いたいわけないでしょ!? そうじゃなくてオーガをもっと酔っぱらわせてって言ってるの!? 君の頭が酔ってるんじゃないよね!?」

「失礼な、素面だよ。了解だ」


 俺は自分の息や汗を、今まで飲んだ中で一番キツかった酒である『鬼殺し酒』へと変えた。


 あれヤバかった。五口くらいしか飲んでないのに酔っぱらって、翌日も頭痛に襲われたからな。


 するとオーガたちも少し千鳥足になり始めて、警戒心が薄れているじゃあないか!


「グオオオオオ!」

「グハハハハ!」

「今だ、死ねぇ!」

「「グオオオオオォォォォォ!?」」


 俺はさらにオーガの二体ほどの首を跳ね飛ばした。


 鬼は酒に弱いのは知っていたが純粋に酔いやすいからなのか。他の魔物だとこんなにアッサリ泥酔しないし、酒なんておびき寄せるエサぐらいにしか思ってなかった。


「ラクシア、なかなかやるじゃないか。敵を酔わせて弱体化させるのは考えてなか……」

「カース・フレンドリィ! ほらみんな争って! 殺し合えー!」


 ラクシアがそう告げた瞬間、オーガたち同士が殴り合って殺し合いを始めてしまった。まるで酔っ払い同士の喧嘩のようだが殺意が違う。


 互いに渾身の拳で顔面を狙うので、すでに何体かが顔を陥没させて死んでいる。


「ふっふっふ! 普通なら殺し合いの呪文は効かないけど、酔ってれば精神耐性が下がってて効くもんね!」


 もうあいつの前で酒飲むのやめようかな。


「ねえヴァルム! ボクたちの力って相性いいよね! ほら見てよ! オーガたちがボクたちの力で殺し合ってるよ!」

「グオオオオォォォ!!!」

「グガアアアアァァァァ!!!」

「いやこれは百二十パーセントお前の力だ。お前は天才闇呪術師だ。なので頼むから俺を巻き込まないでくれ。頼むから、本当に頼むから」


 そう言ってる間にオーガたちは殺し合っていき、立っているのは最後に一匹になってしまった。


 そいつは空に向けて右手を掲げて、優勝したかのように勝利ポーズを取っている。


 なのでズバッと首を切り落として獲らせて頂いた。優勝おめでとう、お疲れ様でした。


 死屍累々に倒れている十七体のオーガたちを見る。


 信じられるか? このうち手を下したのは五体だけなんだぜ? 後は勝手に自滅したんだぜ?


 剣を鞘に仕舞おうとしたのだが、何故かそこはかとない違和を感じた。


 なんだろうこの違和感…………ん? なんか微妙にオーガの数が足りなくない?


「た、助けてぇ!?」


 悲鳴の聞こえる方に視線を向けると、オーガが三体ほど冒険者に向けて襲い掛かっている!?


「バカな!? なんで酒に釣られてないんだよ!?」

「下戸だったんじゃないの?」

「鬼のくせに下戸ってんじゃねーよ!?」


 俺は急いで冒険者の元へと走る。だがオーガたちはすでに冒険者たちに肉薄していて、渾身の蹴りを繰り出そうとしていた。


 鬼の蹴りを人間がまともに受ければ、半身が消し飛んでしまう。つまり即死だぞ!? だが俺はまだオーガと数十歩ほどの距離がある。


 ダメだ、間に合わない……!?


 そう思った瞬間だった。オーガたちの全身が泡のように膨れ上がった。


 あ、これヤバイ。俺は即座に無理やり足を止めて、逆に少しでも距離を取ろうと逃げた。


 そしてパァンとオーガたちは破裂して、周囲を鬼の血肉の雨が襲い掛かる。


 俺はなんとか血肉雨の射程範囲から逃れたが……。


 至近距離で血肉爆発を受けた冒険者たちは、全身が血まみれになって肉片もこびりついている。


「あ、ああ……あう……」


 ガクリと意識を失って気絶してしまった。可哀そうに……たぶん数日は夢に出るだろうなあ。


 そんな冒険者たちにイリアさんが近づいていき。

 

「なんとか間に合いましたわね。無事に助かってなによりですわ」


 無事かどうかは議論のしどころさんである。まあ蹴られて死ぬことに比べれば無傷ではあろうが。


「イリアさん。もう少し大人しい攻撃方法ってありませんか……?」

「なにを言っているのですか? 攻撃魔法じゃなくて治癒魔法ですわよ?」


 そういやそうだったわ。あの破裂魔法、治癒だったわ。


 自称攻撃魔法が使えない人だったわこの人。


「えーとどうしようか。ラクシア、近くに池とかないか? 流石にこの惨状の彼らを放置するのは気が咎めるのだけど……」


 せめて水洗いくらいしてやらないと街に戻れないだろ。


「あるよ。せっかく気絶してるんだし、死霊魔法で操って自分で洗わせるね」

「罪のない生きてる人間を死霊魔法で操るのはダメじゃね?」

「じゃあこの血と肉にまみれた人を運ぶの?」


 俺は倒れている冒険者たちを見つめる。彼らはもはや全身くまなくワインより真っ赤であった。


 しかもなんか肉とかついてるし……ボコボコ鳴ってるし。


「……まだ周囲に魔物がいるかもしれないなー。俺たちは彼らを守らないとダメだから運ぶ余裕はないなー。あー、他に手段もないから仕方ないなー!」

「ワタクシは運んでもいいですわよ?」

「周囲に魔物はいなさそうで……」

「まだ周囲に魔物はいるかもしれないし、俺達が運んだら危険だ。いいな?」

「「アッハイ」」

 

 そうして四人の生霊ゾンビを連れて、俺たちは池の方へと歩いていく。


 少し歩くと池へとたどり着いた。


 ゾンビたちは一体ずつ水浴びを始めていく。どうやらひとりずつ入るようで他は順番待ちのようだ。


 土色に濁っていた池が、アッと言う間に血色へと染まっていく……。


「この池って泥池って名前なんだよね」

「今後は血の池地獄になりそうだなあ」


 ラクシアの豆知識を聞きながらそんなことを想うのだった。


「ゲコッ……」


 見ろよ。カエルが池の前で呆然としているじゃないか。というかなんか大きいカエルだな、人の手くらいあるけど。


 そんなこと考えているとリーンちゃんが俺に近づいてくる。


「あ、あの。少し遠くから兵士らしい人たちがやってきます……」


 彼女の指さした先には、確かに大勢の百人くらいの軍がいた。


 全員の装備が統一されているのでおそらく正規兵だ。こんなところでいったいなにをしているのだろうか?


 すると軍の指揮官らしき老人が、馬に乗ってこちらへと近づいてくる。


「おい薄汚れた冒険者ども! すぐにここから立ち去れ! これよりここら周囲で魔物狩りを……」


 老人は偉そうに馬に乗ったまま、俺たちをいかにも見下した態度で叫ぶ。


 だが急に言葉を止めてしまった。いかがなされたのだろうか?


 老人の視線の先を見ると、そこにいたのは……。


「なぜ貴様がここにいる! 貴様はもう追放したはずだぞ! この元バカ娘がっ!」


 老人はラクシアを見て睨んでいた。



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優勝おめでとう! 優勝賞金はお前の首だっ!

(入れたかったけどテンポの関係で省いたネタ)


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