第16話 次はなんの依頼を受ける?
タータたちを助けた翌日。
俺たちは冒険者ギルドの酒場で飲んだくれていた。
「ハザードベアの素材がわりと高く売れたから、各自に金を分配するぞー! 無駄遣いしないようにな!」
「わーい! ボク、そのお金で魔物の骨でも買いに行こうかな!」
「無駄づかいするなと言ったばかりなんだが???」
貨幣袋から八割ほどの金貨を出して机の上に広げて、四つに分配してそれぞれに渡す。
ちなみに残りの二割はパーティー内資金だ。干し肉とかの消耗品を購入するために取っておく。全てを配ると全部使ってしまう愚か者が多いからな。
「あの。ワタクシは別にお金は不要ですわ。家から持ってきていますので皆さんで分けてくださいまし」
だがイリアさんは金貨を取ろうとしない。流石は元貴族と言うべきか
「わーい! じゃあボクもらうね!」
ラクシアはさっそく金貨をもらおうとする。流石はエセ貴族と言うべきか。
「こらラクシア。仮にも自称元貴族令嬢だろお前」
「自称じゃないけど!? 普通に元男爵家の令嬢だけど!?」
「なら貴族らしい振る舞いをしろ。金にがめついぞ」
「知らないんだね! 貴族だからってみんながお金持ちとは限らないんだよ! うちなんてそこらの商人よりお金持ってないもの! 食費も不足してるから名誉だけで食ってる家だもの!」
「酷い話だなあ……」
ラクシアは貴族令嬢とは名ばかりで、金銭感覚などは平民基準っぽいな。同じお嬢様のイリアさんと同じに考えてはいけないようだ。
するとリーンちゃんも申し訳なさそうに手をあげる。
「あ、あの。私もこんなにもらうわけには……戦ってませんし。以前のパーティーでも私の分け前は他の人の二割以下でしたし……」
「いやいや。リーンちゃんも働いてるから大丈夫だよ。そしてイリアさんの分け前はイリアさんのだ。お金の問題はな、パーティーが解散する一番の原因なんだ」
金銭問題というのは大体の場所でトラブルの元だが、冒険者だと特に難しい問題だ。
例えばリーンちゃんの分け前に関してだが、彼女みたいな雑用係は他のメンバーより少なくされる傾向がある。
雑用係は敵を攻撃しないのもあって、パーティーに対する貢献度が低いとみなされることが多いのだ。なので分け前も低くされてしまう。
俺はリーンちゃんが優秀なのが分かるので、他の面子と同じ評価にする。だが無能な奴ならリーンちゃんの仕事ぶりを評価できないだろう。地味だし。
「イリアさんがお金を持っていたとしても、ちゃんと受け取ってください。それをどう使うかはお任せしますが」
ようは金の分配はクリーンにした方がいいのだ。
後は同じ分け前でも戦い方によって、装備などにかかる金額が違うというのもある。例えば剣士なら剣が折れなければいくらでも使えるが、弓使いなら矢は消耗品だから冒険するごとに経費がかかる。
この時に剣士と弓使いの分け前を同じにすると、弓使いが不満を持つことが多いのだ。かといって弓使いを多くすると、今度は剣士が不平に思うこともある。
でもって剣士の剣がもし折れたら、今度は剣士の方に大金が必要になるという。
なので色々とゴチャゴチャ考えるよりは、平等に分配したほうがいい。
その上で消耗品などの特別に必要な金銭に関しては、パーティーの運用費用として賄うべきだ。
「わかりましたわ。では受け取って教会に寄付しようと思います」
「ボクに寄付してくれてもいいよ? ほらボクも信徒だし」
「黙れ邪教徒」
そうしてイリアさんとリーンちゃんも金を受け取ってくれた。
俺としてはこのパーティーは気に入ってるので、下らない理由で解散はしたくないからよかった。
「それでですね。今日からしばらく救助依頼を受けませんか?」
「「救助依頼?」」
イリアさんとラクシアの冒険初心者コンビの声が重なった。
「冒険者が冒険に出て数日で戻ってこなかったら、冒険者ギルドが救助依頼を出すんですよ。その依頼を受けて戻ってこない人を探索しに行くんです」
ギルドは冒険者のことを常に把握している。
何故なら冒険者が依頼を受ける時は、必ず冒険者ギルドに報告するからだ。そうじゃないと依頼は受けられないし、ダンジョンに入ることも許可されないからだ。
依頼を受けずに外の魔物を退治しても大した金額にならない。それにダンジョンに勝手に入れば違法なので犯罪者になってしまう。
つまり盗賊などの脛にキズを持つ奴以外は、冒険する時はギルドに報告せざるを得なくなる。
「ははぁー、ボクには分かったよ! 以前に人助けした時に感謝されたから、成功体験を繰り返そうというわけだね! さては味を占めたな!」
ラクシアが俺の心を見透かしてくる。
「その通りだ。今まで魔物や盗賊を退治しても悪評になっていたが、人助けをしたら少しだけだが認められたからな」
俺たちの目的は名誉を回復することだ。
ならばこういった地道な活動を繰り返すことも大事と思われる。
「ドラゴン退治はどうするのですの?」
「もちろん並行して狙いますよ。ただドラゴンはいつ出るかも不明ですし、パーティー内の連携なども強化していきたいですから」
ドラゴンがそう簡単に退治できないのが、まずあまり見つからないというのがある。
そのためドラゴンを倒すまで常にダンジョンに潜る、というのは現実的ではない。
「ドラゴンがダンジョンで発見されたら必ず話題になります。その時に討伐しに行くのでいいかなと。なにか反対意見があれば聞くけど」
「特にありませんわね。人助けになりますし」
「ボクも別にいいよ」
「特に問題ありません……」
「じゃあしばらくは救助依頼だな。ちょっと受付さんに聞いてくるよ」
俺は席から立ち上がると、冒険者ギルド受付に向かう。
「すみません。救助依頼って出てますか?」
そしていつものように仕事している受付嬢さんに話しかけた。
「救助依頼ですか? ちょうど出ているのがありますね。ただ問題があって……」
受付嬢さんは少し言いづらそうにしている。
問題? なにかあるのだろうか
「なんですか? まさか追放された俺たちは救助依頼からも追放とか……」
「いえいえ!? そういう意味じゃないですよ!? むしろ皆さんに受けて頂きたいくらいです! ただあのですね。実は救助依頼の場所がですね……」
受付嬢さんが俺に耳打ちしてきた。あー、それは確かに微妙だな。
「あー……それは微妙ですねぇ……当人に受けていいか相談してから決めます」
流石にこれは俺の一存では決められないな。相談してみるか……。
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