第15話 感謝される
俺はハザードベアを切り伏せた後、五人の冒険者に近づいた。
「おい。大丈夫か?」
彼らの装備はズタボロだ。金属鎧にまでハザードベアの爪痕がついている。
相当な深手を負ったはずなので、回復魔法でも癒しきれないのではなかろうか。
「だ、大丈夫です! さっきまで死にかけていた仲間も、今は落ち着いてますので……」
意識を失った仲間を解放しながら、リーダーらしき男が答えて来る。
無理している様子もないのでおそらく全快しているようだ。
ちなみにそこらのヒーラーならばこんなことは不可能である。死にかけた人間ひとりを治しきるのも無理だろう。
ましてや五人を全快させるなど異常と言うしかない。
イリアさん、普通に回復魔法使えたんだ……いや聖女だから使えて当たり前なんだけど、今までずっと敵を破裂させてただけだから……。
「無事ならいいんだ。それでどうする? 自力で街まで戻れる?」
「……正直に言うとあまり自信はないです。なにせ武器がこの通りで」
リーダーらしき男が見せびらかしてきた剣は、刀身が半ばからへし折れていた。
ハザードベアにかみ砕かれたか、体当たりでへし折られたか。なんにしても武器がない状態では厳しいだろうな。
さてどうしようか。彼らを街まで送るのは可能だが、そうすると俺達もダンジョンから出なければならない。
そうなるとまたダンジョンをロクに潜らずに、街へと戻ることになってしまう。
「三人ともどうする? 彼らを街まで送り届けるか、それともダンジョン内の探索を続けるか」
「街まで送り届けるべきですわ。見捨てるのは流石によろしくないかと」
「だよねー。ボクも見捨てるのはどうかと思う」
「わ、私もです」
ということで満場一致でどうするか決まった。
なんだかんだでこのパーティー、考えることはけっこう一致するんだよな。これはかなりいいことだ。
以前の『漆黒の牙』の時は、他の三人と意見が全く合わなかったからな……。あいつらならこんな時、見捨てるか救出料として大金をせしめようとしていた。
流石に弱みに付け込むのはどうかと思ったので、俺が多数決ならぬ多力決(拳)でやめさせていたが。
「あ、ありがとうございます! 本当に助かります! 俺たちはパーティー『光の剣』で、俺はタータと言います!」
パーティー名は聞いたことがないな。
俺はパーティーにそこまで詳しい方ではないが、有名どころなら一通り走っている。その俺が知らないということは、あまり強いパーティーではなさそうだ。
「あ、あの! ハザードベアすら瞬殺した皆さんは、有名なパーティーですよね!? お名前は……?」
タータは尊敬のまなざしを向けて来るが、俺たちは返答に困って黙り込んでしまった。
……そういえばパーティー名、決めてなかったな。ひとまず臨時で組んだからと忘れていた。
…………よし、誤魔化そう!
「俺たちのパーティー名よりも、仲間のことを心配したほうがいいんじゃないか? 気絶している奴もいるんだし、優先順位を間違えたらダメだ」
なるべくカッコよく聞こえるように告げる。頼む、これで話の流れが変わってくれ!
すると俺の祈りが通じたのか、タータは勢いよく立ち上がると。
「はっ!? た、確かにそうですね! ありがとうございます!」
と言って他のメンバーを介抱し始めた。うん、チョロくてよかった。
しかしパーティー名か……基本的にはカッコイイ名前をつけるのが定番だが、パッとは思いつかないな。まあいいか。
そうして俺たちは『光の剣』の五人を護衛して、ダンジョンを出て街へと戻ることにした。
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俺たちは無事に『光の剣』を連れて、街の冒険者ギルド本部へと戻ることが出来た。
「ありがとうございます! おかげで無事に戻ることが出来ました……! なんとお礼を申し上げたらいいか……」
「いえいえ困った時はお互い様ですわ!」
タータが頭を下げて来るのを、イリアさんが手で制した。
帰り道で魔物などに襲われなかったのは幸いだったな。
「お、おいタータ! こっちに来い!」
「お? どうしたんだよ?」
すると三人の冒険者たちが、少し雑にタータを引っ張っていく。
彼らは俺たちをチラリと見てきたが、明らかに好印象は抱いてなさそうだった。
そんな彼らは部屋の隅に行くと、コソコソと話をし始めた。
「タータ! あいつらは最近噂の追放者パーティーだぞ! 近づかないほうがいい!」
「そうだ! あいつらはヤバイって有名だ! 全部虫歯で婚約詐欺で知り合っただけでゾンビにされるとか聞いたぞ!」
「噂によると何人も殺している極悪人だ! さっさと逃げた方がいい! お前まで仲間とみなされて捕まるぞ!」
俺は少し耳がいいので、彼らのコソコソ話が聞こえてきてしまった。
全部虫歯で婚約詐欺でゾンビってなんだよ!?
……どうやら俺たちの評判は全然上がってないようだ。誰かに悪評でもばら撒かれているんじゃないか? と思えるほどに。
「……なんでここまで嫌われてるのでしょうか。私たち、悪いことしてないですよね……」
リーンちゃんが少し悲しそうにつぶやいた。どうやら彼女も聞こえていたようだ。
タータは俺たちの方を一瞥してきた。どうやらあいつも噂を信じて、俺達を悪く言うのだろう。
はー、やってられない。恩を着せるために助けたわけではないが、助けた結果悪く言われるとか……。
俺たちがいくら頑張っても、永遠に悪評がつきまとうんじゃ……。
「待ってくれ。俺はあの人たちが悪い人とは思えないんだ」
だがタータが繰り出したのは思わぬ一言だった。
他の冒険者たちも予想外だったのか、慌ててタータに詰めよる。
「お、おいタータ! なにを言ってるんだよ!? あいつらはヤバイって話をよく聞くだろう!?」
「確かに色々と聞いてる。でも全部噂だろ? 俺は張本人たちと話したが、とても噂通りの人物とは思えなかった」
「だ、だけどよ!? あれだけ優秀で追放されたなんて、絶対にヤバイ奴に決まってるだろ!?」
だがタータは首を横に振った。
「なにか特別な事情があったのかもしれない。それにあの人たちは危険な魔物であるギアボアオークや、盗賊団を討伐してくれたんだぞ? 本当に噂通りの悪人なら、むしろ放置して誰かが襲われるのを待つと思うんだ」
「それはそうかもしれないが……」
「俺はあの人たちが悪人じゃないと信じるよ。噂よりも自分の目で見たことをね。というか……少なくともあの人たちに虫歯はないだろ?」
「「「確かに」」」
ずっと理不尽な悪評のせいで気が参っていた。
でも俺たちが頑張れば悪評は消えていくようだ。
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