第14話 お助けするぞ


 俺たちは今日は何事もなくダンジョンへと潜って、今は洞窟を奥に向かって進んでいる。

 

 また盗賊が出てきたら面倒だなと思っていたが、流石に連日現れるということはなかったようだ。


「あの。少し先に魔物がいます……」


 リーンちゃんが俺に警告してくれる。


 彼女は盗賊シーフなのだが、そこらの奴よりもかなり優秀だ。ギガボアオークや盗賊も最初に気づいてくれたしな。


 索敵能力の高さはパーティーの生存力に直結する。敵からの不意打ちを避けられるし、戦闘を避ける選択肢だって生まれるのだから。


「というわけで魔物がいるみたいだけどどうする?」

「一本道ですし戦う以外に道はないかと」

「素材が欲しいから戦うべきだと思う!」


 イリアさんが指を立てて、ラクシアが身の丈ほどの杖を振るう。


 この二人、けっこう意見が合うよな。聖女と死霊闇呪術師なんて水と油より相性悪そうなのに。


「……あれ? 他にも人がいるみたいです」


 するとリーンちゃんが目を細めて、洞窟の奥のほうを睨んでいる。


 だが洞窟が薄暗いのもあって俺にはなにも見えない。


「よく見えますわね。ワタクシにはなにも見えませんわ」

「ボクも無理! 夜目なら効くけど視力が足りない!」


 イリアさんとラクシアにも見えないようだ。やはりリーンちゃんの目がずば抜けていいのだろう。


「他に人がいるってことは魔物と戦っているのかな。それならしばらく待った方がいいな」

「どうしてですの?」

「他の人が戦っている最中に横やりを入れると、魔物素材の分け前とかで問題になるんですよ。なので基本的に邪魔しないのが冒険者の鉄則です」


 魔物の死体の権利は討伐した者が手に入れる。


 そのためすでに他のパーティーが戦っている魔物に、横やりを入れるとややこしいことになるのだ。


 冒険者は武器を持っているため揉め事は死につながる。だから他の冒険者が戦っていたら乱入してはいけない。


「そういうわけでしばらく待ちましょうか。近づいた結果、魔物がこちらを襲ってきたら面倒ですから」


 俺がそう言った瞬間だった。リーンちゃんが申し訳なさそうに告げて来る。


「あ、あの。実は戦ってる人たち、魔物に負けそうです……」

「あー、一番最悪なケースに当たってしまったか……」

「なんで最悪なんですの?」

「判断が難しいからです。下手に助けて怪我した挙句に、邪魔をされたとか文句言ってくる奴もいるんですよ」


 冒険者は性格が悪い人間でもなれるから、助けた奴に後ろ足で砂をかけてくる奴もそれなりにいる。


 まあ冒険者はいつ死ぬか分からない職業なので、稼げる間に稼ぎたいとかの思惑もあるのだろう。


 それに常に死地にいるので気が立っているのもある。なのでなるべく他パーティーとは接触もしたくない。したくないのだが……。


「ただまあ。見捨てるのはちょっと寝覚めが悪いから、助けに行こうと思うがどうだ?」

「いいと思いますわ。助けられる人を見捨てる趣味はありませんもの」

「ボクも賛成! 恩を売っておいて損はないからね!」

「い、いいと思います」


 全員が賛成してくれたので俺たちは走り始めた。


 ちなみに俺が先頭を走っていて、他の三人はかなり離れている。いや正確に言うと離したと言う方が正しいか。


 身体能力の関係もあって俺が断トツで足が速いからな。


 そうすると魔物と戦っている冒険者たちの姿が見えてきたのだった。彼ら彼女らは五人パーティーのようだが、すでに二人は血を流して地面に倒れている。


 他の三人も剣や杖を折られていて、それを血のように赤い毛皮を纏ったクマ三頭が嬲るように包囲していた。


 あのクマは確か……なんだったかな? 魔物って種類が多すぎるから知らないやつが多いんだよな。


 三人は俺の姿を見るとすがるように悲鳴をあげてくる。


「た、助けてくれっ! 頼む!」

「お願い! よりにもよって将軍ジェネラル級のハザードベアに囲まれてっ!」

「助けてぇ!」


 なるほど。あの赤いクマは将軍ジェネラル級か。


 三頭となると少し厄介ではあるが勝てそうだな。


「任せろ! よしかかってこいクマ公! ほらよってこいよ!」


 俺がそう叫ぶと同時に周囲に甘い香りが漂った。するとクマたちは嬲っていた冒険者たちを見向きもせず、俺の方へと猛突撃してくる。


「なっ!? 血に飢えたハザードベアたちが俺らを放置した!?」

「いったいなにをしたの!?」


 クマに包囲されていた冒険者たちが悲鳴をあげるが、俺のしたことはすごく単純なことだ。


 ――汗をハチミツにして、匂いでクマをおびき寄せただけのこと!


 ハザードベアと言っても所詮はクマ公! 血よりもハチミツの方が好きに決まっている!


 俺の自我技能である液状相転移リキッドトランスを舐めるなよ!


「「「ベアアアアアアァァァァァ!!!」」」

「オラァ!」


 俺は吐いたツバをハチミツに変えて、ハザードベアたちの気を逸らす。


 その瞬間にハザードベアの一頭の頭蓋を、剣で思いっきりぶっ叩いた!


 両断こそ出来なかったものの頭蓋を陥没したので、ハザードベアは地面に倒れた。


 ……硬いなー。これ何度も繰り返したら剣がへし折れそうだ。

  

「追いつきましたわ! 怪我人がいるのですね! いま癒します!」

「むむっ! クマの魔物か! ところでなんかハチミツの匂いが……まあいいか! カースフィアー!」


 すると追いついてきたイリアさんたちも魔法を放つ。


 イリアさんの回復魔法が五人の冒険者の傷を瞬時に癒し、ラクシアの魔法によってクマ共は銅像のように動かなくなる。


 ……合ってるよな? 実はラクシアが回復魔法を使ってて、イリアさんが呪い撃ってるわけじゃないよな?


「う、嘘だろ!? あれだけの傷が一瞬で!?」

「し、信じられない……! こんな回復魔法見たことないわよ!?」

「それにサラッとやってるがハザードベアを一振りで倒したり、魔法で動きを止めるのも異常だろ!? あのハザードベアだぞ!?」


 冒険者たちは俺たちの活躍に驚いているようだ。


 ふふん。褒められるのは悪い気がしないからもっと褒めろ。


「あ、あれはハザードベアです! 強靭な身体は剣すら弾きますが、お腹の部分は柔らかいです!」


 リーンちゃんが教えてくれたので、俺はさっそくクマ公の急所を狙うことにした。


「ラクシア! そのまま動きを止めておけよ!」

「なんならクマたちを二本足で立たせて、腹を出させてもいいよ?」

「そこまでしなくてもいい! 動きを止めてるだけで十分、だっ!」


 俺はクマたちの腹を切り裂く。先ほどの頭蓋に比べてビックリするくらい柔らかかった。


 そしてクマたちは崩れ落ちたのだった。


 

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