第12話 目標決定!


 盗賊たちを連行した翌日。


 俺たち四人は冒険者ギルドの二階に泊まって、酒場で朝食を取っていた。


 ちなみに今日は俺たちの姿を見て逃げる奴はいない。昨日がちょっとアレだっただけで普段は多少距離を離されるくらいだ。


 ……ちくしょう。俺は真面目に冒険者やってるだけなのに。


「そういえばイリアさんって眠れてます? ここの宿は悪い部屋ではないですけど、元々のお屋敷に比べると流石に劣るのでは?」

「大丈夫です。元々聖女として活動していましたので、教会などで寝泊まりすることもありましたから」


 イリアさんはパンをスープにつけながら噛んでいる。この人、初見の印象より百倍はたくましいよな。


 服はいつもの高級令嬢ドレスだけど、精神と身体の頑強さはむしろ俺たちに近い。


 するとラクシアが俺に笑いかけてきた。


「ボクも元貴族のお嬢様だから心配して?」

「お前なら墓場の土でも寝れるだろ」

「失礼な!? いくらなんでも墓場でなんて寝れないよ! あそこは死者の魂がウルサイから!」

「騒音の問題かよ」


 ちなみにイリアさんとラクシアでは、残念ながら貴族としての格が違い過ぎる。公爵と男爵には越えられない壁があるのだ。


「あ、あのー……今日はどうする予定なんですか?」


 このパーティーの癒し枠のリーンちゃんが、小さい口でパンをかじりながら聞いてきた。


「ああそれなんだけどさ。今日というか今後の目標になるんだけど、ドラゴン討伐を目指そうと思うんだ」

「ドラゴンですか!? そうそう出てこない珍しい魔物ですよ!? それに恐ろしく強いです。トップクラスのパーティーでも討伐は難しいかと……」


 リーンちゃんが驚いた声を上げる。


 ドラゴン。それはダンジョンの魔物の中でもトップクラスの強さを持つ。


 討伐ランクは最弱の個体でも将軍ジェネラル級最上位だ。


 強い個体なら大将アドミラル級、もしくはそれ以上すらありえる。少なくとも以前に倒したギガボアオークとは雲泥の差だ。


 それをこんな寄せ集め闇鍋パーティーで倒すのは、かなり無理難題と言わざるを得ない。だが。


「分かってるよ。でもさ……ちょっと耳を澄ましてみなよ」


 俺が少しだけ黙ると、他に朝食を食べてる奴らのひそひそ声が聞こえてくる。


「見ろよ。追放された奴らの集まりだぜ」

「マジでなにをやらかしたんだろうな、あいつら」

「強いのに追放されるんだから、ヤバイ奴らに決まってるもんな」


 そう。ドラゴンは絶対に倒したい。何故ならば、


「ドラゴンくらい倒さないと、俺たちの悪評は消えないと思うんだ……」

「「「うん……」」」


 本当に理不尽極まりない! 俺たちは大半が理不尽に追放されたのに、周囲から悪人だとみなされているのだ!


 するとリーンちゃんがオドオドしながら口を開いた。


「あ、あの……いっそ他の街に出てやり直すとかは……?」


 もっともな意見だ。確かに理屈だけで物事を考えるならばそうするべきだろう。


 だが人間は理性の生き物である。つまりは。


「なんで理不尽に追放された俺たちが、さらに追い出されなきゃいけないんだよ!」

「そうですわ! あんなクズ男のせいで、何度も追い出されるなんて嫌ですわ!」

「ボクも嫌だし、逃げたみたいで悔しいもの!」


 感情がそれを許さないのだ!


 なんで俺達が罪人みたいに逃げないといけないんだよ! 


 そりゃ俺だって自分が完全に正しい人間だとは思ってないけど、殺されかけて追放されるほど酷いことはしてないぞ!


「そういうわけだから他の場所に行くのはなしだ。俺たちはこの街で名誉を挽回するんだ! だがそのためには派手に凄いことをする必要がある! すなわちドラゴン退治だ!」


 竜を殺すということは偉業なのだ。


 凄まじい強さを持つ竜を殺せば、大勢の人間がその偉業を賞賛する。 


 そうすれば俺達の悪評も揉み消されて、『追放者ども』から『竜殺しの英雄たち』へと昇格できるはず!


 仮に追放者がとれなくても『竜殺しの追放者ども』でもいい! 


 すげぇな竜殺し! 続きの文字がなんでもだいたいカッコよくなるぞ! なににつけてもだいたい美味しい塩みたいだ!


 すると食べ終わったラクシアが元気よく叫んだ。


「いいんじゃないかな。ボクは賛成! ドラゴンゾンビ作ってみたいし! それにダンジョンコアを手に入れるみたいな雲をつかむ話でもないしね!」

「だんじょんこあ、とはなんですの?」


 イリアさんが首をかしげながら聞いてくる。


「ダンジョンコアはダンジョンの核とも言われるものです。凄まじい魔力を生み続ける代物で、各ダンジョンの最深部に眠っているんです。と言っても今までで回収されたコアは二つだけですけどね」


 ダンジョンコア。それは摩訶不思議なダンジョンの核であり、魔力を無尽蔵に生み出す発生装置だ。


 ダンジョンは世界にいくつもあれど、これまでにコアが回収できたダンジョンは二つだけ。極めて貴重なモノなのだ。


 ダンジョンコアを回収した後、そのダンジョンは魔物を生み出さなくなる。つまり文字通り、ダンジョンの心臓部である。


 このダンジョンコアを手に入れた者は、世界に響く名声と使いきれない大金を手に入れられる。何故ならば。


「ダンジョンコアは魔空船の動力源と言われてるんです。ほら二大国が所有してるやつです」


 魔空船とは空を飛ぶ巨大な船だ。この船ひとつあれば小国を滅ぼせるというほどに凄まじい兵器である。


 この世界に現存するには二つのみで、二大国と言われる世界の二大国家がそれぞれ所有している。


 この魔空船を飛ばすには凄まじい魔力が必要で、それを補えるのはダンジョンコアのみなのだ。


 故にダンジョンコアは極めて貴重であり、ひとつ回収されたら世界の軍事バランスを壊しかねない……と噂されている。


「魔空船の話は知っていましたが、ダンジョンコアで動いていたのですわね」

「そうなんですよ。まあ以前に回収されたのは数十年前ですし、本当かどうかも怪しい話なんですが」


 この魔空船がダンジョンコアで作られたと言うのは数十年前の話だ。なので本当かは分からない。


 つまりは眉唾話というわけだ。


「なので本当かどうかも分からない話よりも、ドラゴンを退治して名声を稼ごうというわけだ! どうだ?」


 三人の顔を流し見ると、それぞれが小さく頷いた。


「いいですわね! 真実の愛がドラゴンを怯えさせるならば、ワタクシは偽りの愛で退治してみせますわ!」


 偽りの愛で退治とはなんなのだろう。考えるのはよそう。


「ボクの死霊闇呪術師の力は正しいのだと、ドラゴンを倒すことで世界に証明してみせる!」


 正しくはないだろ。間違っているべき力だろ。


「が、頑張ります……」


 そしてひとりだけ普通な言動のリーンちゃん。


 まあともかく全員の意見が合致したので、このままの勢いで決めてしまおう。


「じゃあ今後はドラゴン退治を目標にするぞ!」

「「「おおっ!!」」」


 そうして俺たちは朝食を取って、街から出てダンジョンへと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る