第11話 盗賊運搬完了!


「え、えーと。ヴァルムさん、その大勢のお連れの方たちは……?」

「生きた盗賊ゾンビです。襲ってきたのでぶちのめて、生け捕りにして連れて帰ってきました」


 俺たちは冒険者ギルドの建物へと戻って、さっそくカウンターにいる受付さんへと報告していた。


 もちろん呪術で実質ゾンビ化した盗賊たちも連れて来てだ。彼らを連れて街道を帰ってきたせいで、もう外は暗くなってしまっていた。


 併設された酒場ではすでに飲み始めている奴らも多い。俺も盗賊たちを処理したら飲みに行こうかな。


 俺たちから少し離れた場所では、生きたゾンビたちがなにやら小さく吠えている。


「アー、アー、アー」

「ブオー」

「コロシテ……コロシテ……」

「あ、ひとり洗脳が解けかけてる。ダメだよー、ちゃんとボクの言うこと聞いてねー。ダークコントロール!」

「オオオオオ……」


 ラクシアが盗賊にもう一度呪術をかけて、洗脳をかけ直したようだ。


 受付嬢さんは引きつった顔で俺の方を見て来る。


「え、ええと。生きてるんですよね?」

「たぶん生物学上は」


 心臓も動いてるし身体も動くから生き物だろう。たぶん。


 それにラクシアが洗脳を解除すれば元に戻るらしいし。


「あの。もうちょっと穏便な連行方法はなかったんですか?」

「むしろ穏便を尽くした結果ですよ」

「穏便の意味を本で調べてはいかがですか?」

「いやいや冷静に考えてくださいよ。俺たち四人で二十人近くを連れ帰るなんて、まともな手段じゃ無理ですし」


 盗賊たちが俺たちと同じ人数くらいなら、ロープで縛って連行する手段もあった。


 だが四倍以上の数となると無理だから仕方ない。そうなると殺すと首だけ持って帰るか、こうやって連れ帰るかしかなかった。


 そこで後者を選んだのは穏便だろう。ぶっちゃけ生首を十九個も持って帰るの嫌だったのも大きいけど。


「それでこの盗賊たち、懸賞金かかってませんか? そしたら報酬が増えて嬉しいのですが」

「そういえばそうですね。ちょっと確認しますね。」


 受付嬢さんは机から人相書きの紙束を取り出して、盗賊の頭の顔と一枚ずつ見比べていくと。


「ああっ!? この盗賊たち、闇夜の死霊ダーク・スピリットですよ!?」

闇夜の死霊ダーク・スピリット?」

「隣領を派手に荒らして、国中に指名手配されてる盗賊団です! 本来なら軍を差し向けるくらいの強さですよ! 助かります!」


 どうやらそれなりに大物だったようだ。これなら報酬は期待できそうだな!


 などと考えているとラクシアがひょっこりと寄ってきた。


闇夜の死霊ダーク・スピリットって名前いいなぁ。もう壊滅したからボクがもらってもいいよね?」


 盗賊団を壊滅させて財宝とかを奪うなら分かるが、名前を盗る奴は初めて聞いたな。


 著作権とか著名権とかどうなるんだろうか? 


「知らん、俺に聞くな。こういう質問は百戦錬磨だろう受付さんに聞いてくれ」

「こんな変な質問は一戦たりとも受けたことありませんが? 私に押し付けないでくださいません?」

「じゃあ仕方ないから本人たちに聞くね。ねーねー、ボクに闇夜の死霊ダーク・スピリットの名前ちょうだい?」

「「「アー、アー」」」


 ラクシアのおねだりに対してゾンビたちは頷いた。


 いやあいつがゾンビたちをコントロール中だから頷かせたの間違いか。自分の手で操る人形に話しかけて、自分で返事しているようなもんだ。


「わーい、ありがと! 交渉成立したからもう返さないからね!」


 酷い交渉を見た。でも盗賊相手だからまあいいか。これまで散々盗ってきたんだから、盗られる側になるのも一興だろう。


「それでこいつらどうすればいいですか? 一晩くらいここに置いててもいいですか?」

「アーアー」

「コロシテ、コロシテ」

「こんなの置いて帰るのやめてください!? 牢屋に連れて行ってください!」


 受付さんが悲鳴をあげてしまわれた。まあここに置いて帰ったら怖いよな。


 もし洗脳が解けたら危ないし牢獄に入れておくべきだろう。


「おいラクシア。牢屋に連れて行ってだってさ。場所分かるか?」

「大丈夫だよ。じゃあボクはこの子たちを連れていくから。はいみんなこっちだよー」

「「「「オオオオオ」」」」


 ゾンビたちは羊のように連れられて、外へと出て行った。


 ところですでに外は夜なのだが、牢屋までゾンビの群れは街中を歩いていくのか。まあいいか。


「話は終わりましたの? そろそろお腹が空いてきたのですけど」

「わ、私も……」


 イリアさんとリーンちゃんが俺の方へと歩いてくる。


 彼女らは俺たちが受付している間、少し待ってもらっていた。三人以上いると話が進まない未来が見えたからだ。


「もう特に問題ないですよね? 報酬はまた明日もらえればいいです。じゃあ俺たちはこれで……」

「あ、すみません。もうひとついいですか?」


 酒場の方に向かおうとすると、受付嬢さんに呼び止められてしまった。


 まだなにかあるのあるのだろうか? 


闇夜の死霊ダーク・スピリットって二十人の盗賊団なんですよ。でもあのゾンビたちだとひとり足りないのです。見ませんでしたか?」

「そいつなら破裂して肉片になりましたよ」

「に、肉片!?」


 それはもう見事なまでに膨らんで、パァンと周囲に散りました。


 あんなの人の死に方じゃないと思う。盗賊とは言えども同情してしまいそうなほどだった。


「は、破裂? そんな魔法を使える人って、ヴァルムさんたちの中にいましたっけ……? イリアさんは聖女だからあり得ないし、リーンさんも魔法は使えないはずですし」


 今まで聖女の肩書きなんて意味ないと思ってたけど、こうして聞くと便利だな。

 

 エグイ殺人を犯しても他の人に罪を擦り付けられるらしい。


「……あ、ラクシアさんが使えたんですね!」

「違います。目の前にいる聖女様ですよ」

「そうですわ。ワタクシです」

「ヴァルムさんやイリアさんは冗談が下手ですね。聖女であるイリアさんが、人を破裂させる魔法なんて使うわけないじゃないですかー。どう考えてもラクシアさんしかいないですよ!」


 悲報。ラクシア、無辜の罪を押し付けられる。


 というかラクシアは不憫だな。これから事あるごとにあいつが疑われることが多発するだろう。


 だって聖女と死霊闇呪術師だぞ? 傍から見たらどう考えても後者の方が怪しいだろう。殺人現場に天使と死神がいたら、死神を疑うに決まっている。


 なんなら目の前で聖女が人殺ししても、死霊闇呪術師の方が疑われそうなレベルだ。なんでこいつら同じパーティーに入ってるんだ?

 

「ラクシアさんには今度注意しておきますね。人を魔法で破裂させてはいけませんと」


 目の前の聖女の方に注意するべきなんだよなあ……。


 まあいい。俺たちは危険な盗賊を退治したのだ。


 ならば少しは周囲からの評価も上がっただろうし、これを続けていれば俺たちの悪評も消えていくはずだ!


 そうして俺たちは受付嬢さんとの話を終えると、ちょうどラクシアが戻ってきた。


 うまく合流できた俺たちは併設された酒場の、空いている席に座る。


「あ、用事思い出したわ!? 帰る!?」

「おおっと! そういえば今日は禁酒日だったな!? 忘れてた!」

「あらやだいけない! 宿に忘れ物したかも!?」


 ……すると他の酒場の客が全員席から立ち上がって、逃げるように去ってしまった。


「「「「…………」」」」


 俺たちは無言のまま顔を見合わせる。


 すると給仕の人が俺たちの方へと寄ってきた。だが彼女も渇いた笑いを浮かべていて、


「あ、あの。実はさっきのやり取り、全部ここまで聞こえてまして……皆さんが強くて少し怖い人だと思ってしまわれたみたいで……」


 なるほど。ゾンビとかも全部見られていて、避けられてしまったわけと……。


「……営業妨害しちゃってすみません!?」

「ああ、いえ!? 闇夜の死霊ダーク・スピリットを退治してくださったわけですし!? 街への物資が襲われたらコトでしたから気にしないでください!」


 給仕の人のやさしさが心にしみるよ……もう少し他人の視線を顧みないとダメかもなあ。無理そう。


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