第8話 盗賊退治
洞窟内は細長い、五人くらいが歩ける幅だ。俺たちは少しだけ歩いてその後に立ち止まった。
ちなみに洞窟内の壁には松明がついているので、薄暗くはあるが周囲も普通に見える。ダンジョンは何故か人が入れるような環境になっているのだ。
そして耳をすませば後ろの方から人の足音がいくつも聞こえてくる。どうやら盗賊は俺たちを追ってきてるらしいな。
このまま歩いて魔物に遭遇した時に、背後から攻められたら面倒というか許せん。
「イリアさん、ラクシア。後ろからたぶん盗賊が追ってきてるからここで迎撃するぞ。出来ればひとり残らず倒したい。すーはー」
俺は二人の耳元で小さくささやいた後、軽く深呼吸をした。
「盗賊ですか? それなら衛兵に……あ、いませんでしたね」
「ふっふっふ。ならボクが逃げられない呪いをかけてあげるよ! ちょうど新しい呪いを試したかったし!」
「待て待て。本当に盗賊かを確認してからだ。もし普通の冒険者だったら困るからな」
まあ俺たちを追ってきてるなら十中八九、盗賊なのだろうけど。
盗賊相手なら手加減の必要はないからな。命を狙われたのならば、こちらも反撃する資格は当然あるわけで。
「ヴァルムさん? さっきから深呼吸してどうされたのですか?」
「ちょっとね。三人は後ろに離れておいてほしい。あ、かなり遠くで頼むな? 大股で十歩くらいは離れてくれ」
「離れすぎじゃないですか……?」
俺の後ろにつくのだからそれくらいは当然だ。
そうして少し立ち止まっていると、後ろからズラズラと小汚い恰好の男どもが歩いてきた。合計で二十人くらいいるせいで、洞窟の通路がギッシリと埋まってしまっている。
奴らは俺たちを見て少しだけ怪訝な顔をした後、誤魔化す様に笑い出した。せっかくだから挨拶してやろう。
「おやおや。ダンジョンにこんな大人数で入るとは妙ですね。どうされたのですか?」
盗賊たちはまだ正体がバレてないと判断したのか、誤魔化す様に俺に返事をしてくる。
「いや俺たちは腕に自信がないものでね。数で勝負しようかと」
「なるほど。ですがこれほど人数がいると分け前も大変でしょう。さぞかし豪華な獲物を狙っているのでしょうね。例えば何故かダンジョンに入った貴族令嬢とか」
他よりも少し上等な装備の奴が舌打ちした。
たぶんあいつがこの盗賊の頭なんだろう。
「……チッ。おいてめえら、この男は殺せ。他の女はなるべく傷つけずに捕えろ! 理由は分かるな?」
他の盗賊たちは下卑た笑みでイリアさんたちを見つめる。
よし。これでこいつらは盗賊確定なのでなぎ倒しても問題ないが。
「少し聞きたい。なんで真面目に働かないんだ? このご時世なら人に迷惑かけなくても、冒険者として生計を立てられるはずだろ?」
彼らも何らかの悲しい理由で盗賊やってるのかもしれない。
それなら同情の余地はあるし説得するというのも手で……。
「そんなもん決まってるだろ! 馬鹿みたいに真面目に稼ぐよりも奪う方が楽だからだよ! 昨日も二十年商人やってたって奴から、一日で全てを奪ってやったぜ! ご苦労さんってなぁ!」
「女だって好きに出来るしな! 娼婦と違っていくら乱暴に扱っても、壊したって構わねえんだ!」
「襲われた奴の生殺与奪の権利を握るのがたまらねえんだよなあ! 助けてー、っていう奴を許すフリして殺すのとかよお!」
どうやらクズな奴ら確定か。こりゃダメだ。
俺は腰の鞘から剣を抜いて盗賊に向けた。
「いちおう警告だけしておくぞ。今のうちに降伏するなら痛い目見ずに済むがどうする?」
「はっ! こっちは二十人いるんだぞ! てめぇこそ抵抗しなけりゃ優しく殺してやるよ!」
盗賊の頭は斧を構えて俺に襲い掛かってきた。
だが明らかに遅い。これなら負ける要素はなさそうだが、下手に盗賊の頭を倒すと他の盗賊は逃げ出しそうだな。
逃亡阻止のための細工はしているのだが、もう少し時間が必要そうだ。
仕方がないので盗賊頭の振るった斧を、持っていた剣で受け止めて、
「ふー」
盗賊の顔に息を吹きかけた。
「てめぇ舐めてるのかゴラァ! なにしやがる!」
「舐めてねえよ。吹いたんだよ」
「殺す!」
すると盗賊の頭は斧を力任せに振り回し始めた。
ちなみにだが別に煽りでやったわけではない。俺にオッサン相手に息を吹きかける趣味はないからな。
例えばラクシアの『死霊闇呪術師』がそうだ。たぶんイリアさんの聖女の力も
そして俺も持っている。その力の発動のために息をかけただけだ。
「てめぇら援護しろ!」
「「「へい!」」」
すると他の盗賊たちも動き始めた。さてどうしようかね、こうなるとイリアさんたちも狙われてしまうかもしれない。
出来れば避けたかったのだけどなあ。だってそうなってしまうと。
「ヴァルム様、回復魔法で援護しますわ! えっとまだ怪我されてないから、盗賊の方を爆発させればいいですわよね?」
「ふっふっふ! ボクの呪いの力でゾンビにしてあげるよ!」
……後ろの危険人物二人がメチャクチャやるに決まってるからなあ。
俺は他の盗賊たちを睨みながら叫ぶことにした。
「おいお前らに忠告してやる! あの三人は狙わない方がいいぞ。危険だからな」
「はっ! 後ろに遠ざけておいてなにが危険だよ! てめぇら、あの女どもを捕らえて人質にしろ!」
盗賊の何人かが俺の横を通り抜けていってしまわれたが、
「生命の傷を癒したまえ! オーバーヒール!」
「ひいっ!? か、身体が膨らんっ……!? うわあああぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「我が意に従え! カースコントロール! じゃあ壁に頭を打ち付けてね」
「あ、あー……あー……」
盗賊たちは膨らんで破裂したり、狂って壁に頭を強打し始めたけど知らん。俺は止めたからな?
というかヒールって言ってて殺傷性あるのヤバイな。詐欺みたいなもんじゃん。
しかも回復呪文って基本的に回避不能なんだよな。炎飛ばすとかじゃなくて、相手の身体に直接影響を与えるから。
もはや癒しとうそぶいた殺意の塊の魔法だよ。死ぬことが癒しですみたいな。
「なっ、なっ……!? なにが起きやがった!?」
ひたすらに困惑する盗賊たち。
まあ彼らの気持ちは分かる。知ってる俺ですらドン引きだし。
「運が悪かったな。でも俺は優しいから安心しろ。じゃあお疲れ様」
俺は指をパチンと鳴らす。すると盗賊たちは急に苦しみ始めて、泡を吹いて地面に倒れる。
「ご、げっ……な、んだこれっ……!」
盗賊の頭だけはまだ意識はあるようだ。と言っても地面に膝をついていて、かろうじて意識が残っている程度だが。斧も持ってられないようで落としている。
「毒でも吸ってたんじゃないか?」
「ど、く……? てめぇ、まさかさっきの息は!?」
「ご想像に任せるよ。まあ死にはしないから安心しろ。次に起きたら牢屋の中だろうけどな」
「く、そが……」
盗賊の頭も気絶したので、これで盗賊たちは全滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます