第7話 ダンジョンに向かおう
ギガボアオークを討伐した翌日の朝。
俺たちはダンジョンへと潜るために街道を歩いていた。
「結局、ダンジョンってどんなところなんですの?」
イリアお嬢様はあいかわらずドレス姿に日傘をさしている。
街道で歩くお嬢様の違和感が凄い。普通なら優雅に馬車に乗るだろうから。
「少なくともそんな恰好で潜るところではないですね……」
「申し訳ありません。こういった服しか持ってないもので」
「今回の稼ぎでちゃんとした装備を買った方がいいですね。それでダンジョンですよね。『強力な魔物が出没する摩訶不思議な地下洞窟』と考えてもらったら」
ダンジョン。それは摩訶不思議な場所だ。
例えば地下にある洞窟のはずなのに、地上のように太陽の日が照っていることがある。地上に比べてはるかに強力な魔物が出現する。宝具と呼ばれるお宝が眠っている、などなど。
ダンジョンではなにが起こるか分からないと言われてるので、ぶっちゃけると俺たちもそんなに分かってないのが事実だ。
それをイリアさんに説明すると。
「そんな不思議な場所に潜るのですね。ワタクシ程度の力で大丈夫でしょうか。癒すだけしか出来ないのですが」
「貴女がダメなら大半の奴は通用しないと思いますよ……」
ギガボアオークはダンジョン内でも強い側の魔物なんだよなあ……。
「ふっふっふ! ボクの力をもってすればダンジョンなど楽勝! ここにラクシア伝説が始まる!」
「おいラクシア。ダンジョンを舐めるなよ? 地上とは魔物の質が段違いだし、理不尽なことが起きることもある。ダンジョンには意思があると言われてるくらいだからな」
「意思があるってどういうこと?」
「メイン火力が炎の魔法使いパーティーに、狙いすましたかのように炎無効の魔物が大挙して襲ってきたとか。剣士メインのパーティーに対して、斬撃無効の魔物が大量出現したとかだな」
「イジメかな?」
ダンジョンには意思、主に冒険者への殺意があると言われている。
優秀な冒険者パーティーだったのに弱点を攻められて壊滅、なんてのはありふれた話なのだ。
その弱点の突き方が辛辣かつ的確過ぎて、『ダンジョンには意思があるのでは?』と言われている。
以前に最強と言われてた絶対無敵の男冒険者パーティーが、サキュバスのハニトラで壊滅したという話もあるくらいだ。ようは無敵で負けてないのに壊滅したと。
少し不安そうな顔になるイリアさん。よしここは慰めておこう。
「まあ俺たちなら心配ないですよ。それに今日は第一層を軽く潜るだけですから」
「そ、そうなんですね。やはりまずは慣れてから、ということですね? 流石はダンジョンに慣れているヴァルムさんです」
イリアさんから少し尊敬された視線が向けられるのだが、ものすごく悲しいお知らせがある。
……金欠で食料とか用意できなかっただけなんだよな。干し肉とかワインとか案外高いから……。
ギガボアオークの討伐報酬? 少しだけパーティー用に残して、後は分配したから残っていない!
普通ならパーティー用の資金として多く残しておくべきだが、追放されてからみんな金欠だったろうから仕方ない。
まあほらダンジョンへの慣れも必要だしな。そうして街道を歩き続けてしばらくすると洞窟の入り口へとたどり着いた。
「ここは『一角獣の巣窟』と呼ばれるダンジョンです。聖獣系の魔物が多く出て来るのでそう呼ばれてます」
俺はイリアさんに向けて説明する。ダンジョンにはそれぞれ特色がある。
例えば火山にあるダンジョンなら火属性の魔物が多く出るし、海の近くなら海産物系といったばかりにだ。
ここは光属性の魔物が多いため、光属性で代表的なユニコーンを出して『一角獣の巣窟』と呼ばれている。
「うっ……洞窟の中から濃厚な光の力を感じるんだけど!?」
ラクシアが悲鳴をあげて、洞窟から離れるようにジリジリと後ろに下がり始める。
「『一角獣の巣窟』なんだからそりゃそうだろ」
「こんなところじゃなくて『死体の墓場』とかないの!?」
「それはただの墓荒らしだろうが! ここが街から一番近いダンジョンだから、今後もここに潜ることになるぞ」
「こんなおぞましい地獄みたいな場所に!?」
「地獄でも天国でもどっちでもいいがさっさと入るぞ。今日は日が暮れるまでに街に帰るんだから」
本来ならダンジョンに潜るなら数日はかけるのが当たり前だ。
だがこの面子でいきなりダンジョンに潜って、そこらで野宿とかは無理だろう。
まずイリアさんが絶対耐えられない。次に男女比率が1:3であることが大問題過ぎる。
信頼関係を築けていない以上、野宿という選択肢は取るべきじゃない。
誤解を招く可能性のあるシチュは避けるべきだ。俺はもう裏切られたくない。いきなり背中から不意打ちを受けたくないんだ。
「ほら入った入った。グダグダ言ったら置いていくからな」
「わかりましたわ」
「うう……色々と浄化されて洗浄されそう……」
「け、警戒は任せてください!」
イリアさん、ラクシア、リーンちゃんが洞窟に入っていく。ちなみにリーンちゃんは今日初めて喋った。
いくらなんでも喋らなさすぎでは? と思っていると、そんな彼女は俺の横を通り過ぎる時に。
「後ろから盗賊が二十人ほどついてきてます。おそらくですが私たちがダンジョンに入ってから襲撃してくるかと」
などと俺にだけ聞こえる声で告げてきた。
「……盗賊? ダンジョンに潜る前の冒険者を狙うとは思えないが」
盗賊が冒険者を狙うことは少ない。なにせ冒険者は大して金を持っていない上に、武装をしている者ばかりだからだ。
盗賊からしても商人などを襲う方が危険も少ないし、金を多く持ってるのだからお得である。
ようは盗賊から見れば、商人は生肉が服を着て歩いているような感じだ。そりゃ狙う。
ちなみに冒険者が仮に襲撃されるとしたらダンジョンの帰り道だ。冒険の後で疲れている上に、魔物の素材などを持ち帰ってる可能性があるから。
だが俺たちはダンジョンに向かっているわけであり、わざわざ狙ってくるメリットがない。
「ええと。それは……」
リーンちゃんはチラリとイリアさんに視線を向ける。
……あー、わかった。そういうことか。簡単に言うとだ。
「お嬢様が街道を歩いてるのって、生肉がドレスを着て歩いてるレベルか」
「ドレス汚れそうですね……」
盗賊からすればこれほど極上の獲物は存在しないだろう。服は高価だし金を持っていそうで女と捨てるところなしだ。
俺が盗賊だったなら間違いなく襲ってただろう。いや怪しすぎて囮とか疑うレベルかもしれない。
それにラクシアやリーンちゃんも見目だけはかなりいいからな。盗賊からすれば垂涎の獲物なのだろう。
「それで……どうします?」
「そりゃ決まってるだろ」
俺は洞窟に入りながらにこりと笑った。
「俺の背中を狙う奴は誰だろうと許さねえ。絶対に嬲り殺す……!」
「追いかけて来るのも背中を狙う判定になるんですね……」
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