第6話 理不尽な評判
俺たちはギガボアオークを討伐した後、冒険者ギルドの建物へと戻っていた。
そしてカウンターにいた受付嬢さんに報告をしたところ。
「はあ!? ギガボアオークがこの近くの森に出現したんですか!? しかも三体ですって!?
と悲鳴をあげてしまった。ギガボアオークは軍を率いて討伐する魔物だからな、本来なら。
「大丈夫ですよ、もう討伐しましたから。ほらリーンちゃん、お願い」
「は、はい……よいしょ」
リーンちゃんはリュックに入れていた、ギガボアオークの首×2を床へと置く。
けっこう重いはずだが普通に運べていたので、リーンちゃんは思ったより力が強いようだ。
「ほ、本当にギガボアオークじゃないですか!? しかも二体もなんて……あれ? 三体いたって言ってませんでしたか?」
「三体目は首が残らなかったんですよ。爆発して木っ端みじんの肉片になり果てまして……」
正直、あの肉爆発は忘れたい。たぶんしばらく夢に出そう。
「ギガボアオークは鋼鉄のように硬い毛皮で、肉も岩くらいの強度を持つんですよ!? いったいどんな破壊力の魔法を使ったら、木っ端みじんの肉片になるんですか!?」
「本人曰く回復魔法だそうです」
「???」
困惑する受付嬢さん。気持ちは凄く分かる。
受付嬢さんは落ち着くためか少し深呼吸をした後に。
「ええと。確認しますがギガボアオークは三体しかいなくて、全て討伐したということでよろしいですか?」
「はい。周囲を捜索しましたが特に見つかりませんでした。普通のオークなら何体かいましたが」
ちなみに普通のオークも
……まあ戦えないから派手さはないのだけれど。
「わかりました。ただ我々の方でも念のために調査隊は出しますね。もしギガボアオークが一体でも残っていたら極めて危険ですので」
「もちろんです。よろしくお願いします」
「はあ……
受付嬢さんはホッと息をなでおろした。
強い魔物は基本的にダンジョンという魔物の巣窟に出現する。ダンジョン外に現れる魔物は本来なら
なのに
というか俺としてもこのパーティーがここまで強いとは計算外だ。
まさかイリアさんやラクシアが、ギガボアオークをソロ討伐できる腕前とは思わなかった。特に聖女と呼ばれてたイリアさんにまさか攻撃能力があったとは。
……なんでここまで強いのに追放されたんだよ、この二人は。
受付嬢さんはカウンターの奥に入った後、しばらくしてから出てきた。
「すみません! 今日はギルドマスターが不在なんです。報酬は明日でもいいですか? 緊急だった上に大金なので私の一存では無理で。あ、代わりに酒場や宿屋の代金は無料でいいですから!」
受付嬢さんは併設された酒場を指さす。この建物は冒険者ギルドと酒場と宿屋を兼ねているので、こういったことも出来るらしい。
「わかりました。明日お願いしますね。じゃあ無料だし酒を飲みに行こうか」
俺たちは受付嬢さんに挨拶してカウンターから離れると、さっそく併設された酒場の席に座った。もちろん俺は壁を背にしている。
俺の後ろは誰にも取らせねえ。誰にもだ。
そして給仕がテーブルに置いたワイン入りグラスを手に取って。
「じゃあひとまずお疲れ様ということで。乾杯!」
「お疲れ様です」
貴族令嬢のイリアさんは自分のグラスを、俺のグラスに当ててくれたのだが。
「乾杯反対! お酒に入った呪いや悪魔が逃げちゃうもの!」
乾杯を反対するやつ初めて見たよ。
ロリ闇魔法使いのラクシアは、グラスに入った飲み物をグビッと飲み干してしまった。ちなみにさも酒のように語っているが、奴のグラスに入ってるのはミルクである。
どちらかというと入ってるの天使の類じゃないかな。ミルクなら。
「お酒、飲まないようにしてるので……酔ったら警戒とか鈍りますし……」
そしてリーンちゃんは水をちびちび飲んでいる。
酒を飲まないようにしているとは殊勝な心掛けだなあ。街で警戒する必要はないと思うのだけれど。
すると他の客からチラチラと見られているのを感じる。
「なにか見られてませんか?」
「どうやら注目を集めてしまっているようだな。まあギガボアオークを討伐したんだから当然だろうさ」
さっそく耳を澄まして他の奴らの話を聞いてみる。ふふふ、さぞかし俺たちを賞賛する会話なのだろう。
「おい見ろよ。あいつら噂の追放者パーティーじゃねえか。あれが『全身虫歯』のヴァルムだぞ。やっぱり性格悪そうだな。優秀なのに追放された奴だ。面構えが違う」
「あそこのドレス女は元聖女様らしいぞ。それが俺たちと同じ酒場で飲み食いとは、落ちぶれたもんだねえ。金払ったら股を開いてくれるかねえ」
「あのロリっ娘、アホな闇魔法使いだそうだ。話も通じないそうだ」
「あの
罵詈雑言の会話じゃねえか! ふざけんな誰が『全身虫歯』だよ!?
「誰が虫歯だよ!」
「なっなっなっ……! ワタクシ、そんな軽い女ではありませんわ!」
「誰がアホだって!? 出てこい! 君の頭をもっとアホにしてあげるよ!」
俺たちは思わず立ち上がると、他の奴らは目を逸らして酒を飲み始める。
ぐっ……! なんてひどい悪評だ! こんなの事実無根過ぎるだろ!
とりあえず怒りに任せてワインを飲み干して、俺は他の三人に視線を向けた。
「そういえば三人はなんでこのパーティーに入ったんだ? 俺は金が足りなかったのと、こういった悪評を消し飛ばしたいからだ。あとは追放した奴らに目にモノ見せたい」
この三人の能力や追放された背景は知ってるが、パーティーに入った動機は聞いていない。せっかくなのでこの場で聞いてしまおう。
するとイリアさんが小さく手をあげた。
「ワタクシも同じようなものですね。真実の愛とやらで婚約破棄されて、しかも家まで追放されたのが悔しいので見返したいのですわ! どうしてワタクシを婚約破棄したのかと後悔させたいのです!」
「それなら聖女……かはともかくとして。怪我人を治癒したほうがいいのでは?」
さっきの破裂ギガボアオークが頭にちらついてしまった。去れ!
「聖女として働くのは嫌です。あの男を思い出しますわ」
どうやらイリアさんは婚約破棄がトラウマになってるようだ。当たり前か。
「ボクもイリアと同じだよ! すごく有名になって偉くなって、死霊闇呪術師ってだけで理不尽に追い出したお父様を後悔させたい!」
むしろ理を尽くした追い出しでは? と思ったが、酒と一緒に飲み込んでおくことにした。
「あ、それと『とある魔物』の死体が欲しい! そいつはダンジョンに出る魔物だから、冒険者パーティーに入ってないと倒せないし!」
「どんな魔物だよ」
「それは秘密。君と同じようにボクにも言えないことはあるからね」
ラクシアは口の前に指を立てた。
こいつが欲しがるならどうせ呪い関係だから、たぶんヤバイタイプの魔物だろう。
というか死体を欲しがるってかなりヤバイよな。もう慣れた感あるけど。
「わ、私は……お金がなかったからです」
「普通だね」
「普通ですわね」
「普通だなあ」
「むしろ皆さんの目的が濃いんですよ!?」
リーンちゃんは普通の理由だった。うんうん、俺もそうだから気持ちは分かるよ。
でも少し気になることがあるので聞いてみよう。
「リーンちゃんってダンジョン内で置き去りにされたんだよね?」
「は、はい……」
「なのに他のパーティーメンバーを恨んでないの?」
ダンジョン内で置き去りにされたというのは、ようは殺されたのと同義である。
そんな奴らに対して恨みを抱かないというのはおかしい。俺は以前のパーティーメンバーを見かけたら、何度でもぶん殴るつもりだし。
「ええと。恨んでないです……」
「本当に? よく思い出してみてよ。いきなり理不尽に裏切られたんだよ? いや理不尽じゃなくても、俺たちには恨む権利があるはずだ!」
イリアさんやラクシアも真剣な顔で頷く。
そう、俺たちは追放してきた奴らを恨む権利がある。殴られたら殴り返す権利があるのと同じように。
するとリーンちゃんはモジモジと小さな声で。
「……そ、その。まったく恨んでないかと言われると」
「言われると?」
「…………少し悔しいとは思ってます」
少し本音を漏らしたようだがまだ足りない。まだリーンちゃんは自分のことを分かっていない。
「少しでいいのかい? リーンちゃんは本来なら死んでいてもおかしくなかったんだ。それを悔しい程度で終わらせていいのか? 奴らを、許してもいいのか!」
「ッ!?」
リーンちゃんは僅かに逡巡した後、先ほどよりも強い目で俺を見てくる。
「わ、私だって悔しいです……! あの人たちに後悔させたいです……!」
「「「よし!」」」
俺とイリアさんとラクシアの声が重なった。リーンちゃんも恨みがあるようでよかったよかった。
いまここに俺たちの心はひとつになった!
「よし! じゃあ俺たちパーティーの目的はひとつだ! 追放してきた奴らを後悔させること!」
「異議なしですわ!」
「ボクも!」
「わ、わかりました!」
これで今後のパーティー指針が決まったな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます