第5話 追放されたお試しパーティー
太陽が真上に登るころ。俺たちは冒険者ギルドを出て、近くの森へとやってきていた。
もちろんピクニックに来たわけではなく、魔物を狩りにやってきたわけだが。
ちなみに俺は他の人に後ろを取られないように歩いている。いや先日の一件からというものの、後ろに誰か立たれるのがあまりに嫌で……。
「ええと。だんじょん? に潜るのではなかったのですか?」
ドレス姿のご令嬢ごとイリアさんが日傘をさしている。
イリアさんだけ優雅にピクニック気分にしか見えない。信じられるか? 魔物を狩りに行くって言ったのにこの服装で来たんだぞ。
「こんな寄せ集めパーティーですよ? いきなりダンジョンに潜るのはリスクが高すぎますよ」
ダンジョンは魔物が大量に出現するし、迷路のように入り組んだ場所だ。
全員が初顔合わせの追放パーティーでは危険すぎる。俺ならひとりでも潜れるけど、他の面子が足手まといになりかねないし。
無理やりダンジョンに潜った結果、俺以外の誰かが死んだら嫌だしな。
「そういうものなのですか? だんじょんに潜るのが楽しみだったのですが……」
イリアさんは少しがっかりした様子で日傘をクルクルと回す。
物見遊山気分でダンジョンに潜るとは、なんというかいかにもお嬢様と言った感じだ。
ちなみにここに来るまでに互いになにが出来るかは話している。イリアさんは聖女だけあって聖魔法だ。浄化と回復だけで攻撃魔法は使えないそうだ。
ロリ娘闇魔法使いのラクシアは闇魔法全般。攻撃、呪い、アンデッド生成など色々出来ると。
そして雑用係のリーンちゃんは基本雑用。いちおうはナイフを使えるが戦力としては期待しないでほしいと。
まあ問題ない。ぶっちゃけ他の三人がカカシでもいいんだ。四人パーティーと認められて、魔物討伐依頼さえ受けられれば。
俺がアタッカーとタンクとヒーラーを全部やればいいだけだ。以前のパーティーとなにも変わらない。
するとロリっ娘闇魔法使いのラクシアが、地面に落ちてた死骸の骨を拾い始めた。
「あ、この骨いいね。魔物に生きながらにして食われたヤギだし、恨みが骨身に染みてて濃厚な呪いがとれそう!」
いい出汁が取れそうみたいなノリで言わないでほしい。
するとイリアさんはラクシアに近づいていく。
「呪いが籠っている骨ですね。浄化いたしますよ」
「ダメだよ!? そんなことしたら呪いが消えちゃうじゃない!? この骨は煮込んで呪物にするの!」
「???」
お嬢様と笑いながら困惑している。どうやら頭が理解を拒むようだ。
今さらなんだけど聖女と闇魔法使いって相性悪すぎないか? 水と油どころか光と闇じゃん。どちらかしか存在したらダメなレベルじゃん。
追放者集めましたとかいう衝撃で気づかなかった。
……まあなんとかなるだろ。例え聖女だろうと闇女だろうと、背中から斬られなければなんでもいい。
「二人とも喧嘩はやめろ。今から魔物を討伐するんだから骨ならいくらでも手に入るよ」
「普通の骨だと意味がないんだよ! これだから素人は!」
うるせえ邪教徒。
「あのー……」
すると盗賊娘のリーンちゃんが俺の側に駆け寄ってきた。
正直少しの間、存在を忘却していたのは内緒だ。違うんだ、他の二人の存在感とかが濃すぎて……。
「リーンちゃん、どうしたんだい?」
「少し先にギガボアオークが三体います。どうしますか?」
リーンちゃんが指さした先に目を凝らす。すると森の少し開けたところで、巨大な人型の猪が三頭ほど休んでいる。
ギガボアオークは猪譲りの突進力を持つ上に、毛皮は鉄のように硬いので下手な攻撃では傷もつかない。新人冒険者なら百人いても無意味と言われている。
つまりかなり厄介な魔物だ。人の集落で発見されたら即座に討伐隊が組まれるくらいには。
「ギガボアオークって討伐等級はどれくらいだったっけ」
「
魔物には強さに応じて討伐等級がつけられている。
ちなみに
つまりギガボアオークを発見した場合、即座に逃げ帰って冒険者ギルドに報告しなければならない。
――ただしそれは普通の冒険者の話だ。
「じゃあ倒そうか。放っておいたら誰かが襲われるかもだし、早めに討伐しておいたほうがいい」
「えっ? 相手は
リーンちゃんが困惑した声をあげる。だが俺はそんな彼女に笑いかけた。
「大丈夫。三体相手だと苦戦はするかもだけど俺なら勝てるよ」
「む、無茶ですよ!?」
「無茶ってほどではないよ。それにギガボアオークは放置したら危険な魔物だ。近くの村を襲うかもしれない」
俺は腰につけた鞘から剣を抜いて、ギガボアオークに向かって歩いていく。
すると俺に並ぶようにイリアさんとラクシアがついてきた。
「二人ともなにやってるんだよ。危ないから下がっててくれ」
「ワタクシなら大丈夫ですわ」
「むしろ君の方が邪魔だよ。ボクの力を見せる絶好の機会なんだから!」
闇魔法ロリは百歩譲っていいとしてもイリアさんは流石に無茶では?
昨日まで普通の追放聖女令嬢だった人だよな? いや普通じゃないな!
まあでも冒険者じゃなかったので荒事にはなれないはずだ。そもそも慣れていたとしてもギガボアオークでは相手が悪すぎる。
「いやあのイリアさんは流石に危ないので……」
俺がイリアさんを止めようとした直後。リーンちゃんの悲鳴が響いた。
「ギガボアオークがこちらに気づきましたよ!? 突進してきます!」
おっといけない。イリアさんたちに気を取られてる間に、ギガボアオークたちに気づかれてしまったようだ。
奴らは三体とも俺たちに向けて突撃してくる。間にある森の木々を枝葉のように吹き飛ばしながら。
「はあ……仕方ない。二人ともそこから動くなよ」
俺もまたギガントボアに相対するように突進する。
そして瞬時に肉薄。そのままギガボアオークのうちの一体を、剣で真っ二つに切り裂いた。
こいつは厄介な魔物ではある。だが俺からすればソロで倒せるレベルだ。
俺は残りの二体も剣で斬ろうとしたが、
「ダークカース!」
ラクシアが杖を振り上げると同時に、二体のギガボアオークに異変が起きる。
「グオオオオオオォォォォォォォォ!?!?!?」
ギガボアオークのうちの一体は、全身がブツブツの泡のように膨れ上がってしまった。俺はものすごく嫌な予感がして即座に距離を取る。
するとギガボアオークはバァン! と大きな音で破裂して、俺に飛び散った肉片が襲い掛かって来る!?
「うおおおおおぉぉぉぉ!? 当たってたまるかああああああ!!!」
俺は地面に飛び込むように倒れて、迫りくる肉の雨をなんとか避ける!
あ、危なかった……これほどの恐怖を感じたことはないぞ!?
「おいラクシア! お前なにしてくれてるんだよ!? 危うく血まみれ肉まみれになるところだったろうが!」
怒りのあまりラクシアに向かって叫ぶ。するとラクシアは困惑した顔で周囲を見ていた。
「え、いやボクじゃないんだけど……。ボクのダークカースは相手の動きを止めるだけで、あんなグロイ魔法じゃないんだけど……」
「お前以外に誰がやるんだよ!? そんなウソを……」
よく見るとラクシアの顔は引きつっていて、周囲の惨状にけっこう引いているように思える。惨状を引き起こした本人とは思えない。
「え、でもそれだと誰がこんなことを」
「あ、ワタクシです」
粛々と手を挙げるイリアさん。
「……は? え? 聖女様ですよね? 回復魔法とか浄化魔法しか使えないって……」
冗談では? と思ったがイリアさんは淡々と告げて来る。
「はい。回復魔法を過剰にかけたら、身体が回復しすぎて爆発するみたいなんです」
「回復しすぎて爆発する」
「以前から多くの人を癒してきて、たまに過剰に癒してしまったことがありました。すると少しだけ肌が膨れたりしてたんです! なので魔物相手になら試していいかなと思ったのですわ!」
破裂したオークの跡地を、恍惚とした表情のイリアさんが踏み荒らす。
「…………なるほど。回復魔法を過剰にかけて、肉体を暴走させて破裂させたと……いや怖いよ!? あんたほんとに聖女か!?」
「周囲が勝手に聖女と呼んでるだけで、ワタクシは自分で名乗った覚えはないですわ! というか自分で聖女と名乗る人間も傲慢では? そんな人間は聖女じゃないのでは?」
「まあそれは確かに……」
聖女と自称したら聖女ではなくなる。確かにその通りかもしれない。
「ふふっ。過剰に回復させるの気持ちよかったですわ……こんな楽しいことがあったなんて」
小さな声でボソッと呟いて恍惚な笑みを浮かべているイリアさん。
もうこの人は間違いなく聖女じゃない。他人を癒す前に自分の心を治療すべきではないだろうか。
そして残り一体のギガボアオークにも異常が起きていた。
なんと奴は近くにあった川にダイブして、そのまま浮き上がってこない。
「ちょっと予想外だったけど、これなら新鮮な死体が手に入りそうだね。このまま溺死したら綺麗な死体として回収してあげるからね。ちゃんと骨も肉も使うからね。安心してボクを呪ってくれていいからね。その呪いまで使ってあげるから」
ニコニコと笑っているラクシア。
うん。このパーティー、わりと面子がヤバいな?
追放される奴にはだいたい理由があるもんな。俺みたいな特別なケースを除いて。
「とりあえず素材を回収しますね……」
そんな中でリーンちゃんはすでにオークの死体を捌いて、血抜きなどを始めている。
リーンちゃんはさっきも最初にギガボアオークを発見したし、優秀な
とりあえずギガボアオークを討伐できたので、俺たちはいったん街へと戻ることにした。
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