第4話 追放された者たち、集結


 ヴァルムは受付嬢さんに呼び出されて、冒険者ギルドの二階の応接間に案内された。


 椅子に座るのを勧められたので言われるがままに従うと。


「あの。用事ってなんですか? 俺を入れてくれるパーティーが見つかったんですよね?」


 すでに我慢と金銭の限界だ。このままだと俺は明日の食事代すら不足してしまう。


「いえ。残念ながらパーティーは見つかりませんでした!」

「わかりました。じゃあもうゴブリンを三体連れてダンジョンに潜ります」


 俺はさっさと部屋を出ていこうとすると、受付嬢さんが俺の腕を引っ張ってきた。


「待ってください!? 話を最後まで聞いてください!」

「明日の食事代もないのにそんな時間ありませんよ! すぐにでも冒険者として活動しないと死ぬんですよこっちは!」

「わかってます! わかってますから! 皆さん入ってきてください!」


 受付嬢さんが叫ぶ。すると俺が入ってきたのとは別の扉から、三人の少女たちが入室してきた。


「こちらが最後の方ですか?」


 明らかに豪華なドレスを着た、いかにも貴族令嬢な女性が俺を見てくる。


 綺麗な水色の髪を腰まで伸ばしていて、すごく気品を感じられる美少女だ。年齢は十五歳くらいだろうか。お嬢様だな。


「この天才死霊闇呪術師たるボクを待たせるとはいい度胸だね! 闇に沈めてあげようか!」


 黒いローブを着こんだロリ気味の少女が高らかに叫んだ。死霊闇呪術師とかよく噛まずに言えるなあ。


 綺麗な白髪や白肌に黒い服装が絶妙にマッチしていて、見た目だけなら幻想的というかミステリアスな雰囲気だ。病持ち美少女みたいに思えてしまうが、第一声が幻想を全て吹き飛ばすくらいミスマッチ極まりない。


 ロリ闇魔法使いちゃんだな、うん。


「…………」


 そして最後の少女は気まずそうに俺から目を逸らしてしまった。


 この娘は皮鎧の軽装だ。動きやすさを重視していて、身軽な装備を選んでいるのだろう。あとは胸が平たい。


 おそらくだが盗賊シーフ職だろう。盗賊娘ちゃんだな。


 妙に個性的な女の子たちだな、というのが三人の共通点だ。


「ええと。受付さん? この人たちはいったいどなたですか?」

「この人たちはですね。ヴァルムさんと同じ境遇の人たちです」

「はい?」

「ようは元いた場所を追放されて、ここにやってきた人たちなんです」

「は、はあ……」


 追放ってそんなにされるモノだったかなあ。普通はされないと思うのだけれど。


 すると他の三人も何も聞かされていなかったのか、驚いたような様子を見せる。


「えっ? 私以外にも婚約破棄された人がいるんですか?」

「なんと! 追放とは凡人には理解出来ぬ選ばれし者、つまりボクの専売特許だと思ってたのに!?」

「すごく嫌な共通点ですね……」


 俺たち四人が困惑する中、受付嬢さんはニコニコと笑い始めると。


「皆さんは追放された方々です。はっきり言いますが冒険者たちにとって、追い出された人というのは外聞が悪いです。つまりこのままですと皆さんは行き場がないです」

「「「「うっ……」」」」


 ニコニコ笑いながらなんて痛いところを突く人だ。背中を刺された時と同じくらいキツイので少しは手加減して欲しい。


 俺以外の三人も同じようで嫌そうな顔をしている。だがそんなこと知らぬとばかりに満面の笑みを浮かべる受付嬢さん。


「なので私は考えました! 皆さんをくっ付けてしまえばいいと!」

「「「「くっ付ける?」」」」

「はい! ようはこの四人でパーティーを組むんです! 大丈夫です! 皆さん優秀な人ですから!」


 俺は他の三人に視線を移す。


 ……えっ? この三人とパーティーを? 流石に色々な意味で無茶だろ!?


「いやあの。いくらなんでも寄せ集めすぎますよ! 闇鍋作るみたいに言わないでください!」


 俺以外の三人も同意見のようで頷いている。だがそれを制するように受付嬢さんが口を開いた。


「皆さん、選り好みが出来る状況じゃないですよね? 各々事情が違うとは言えども、全員が共通して名誉を欲しているはずです! ならお試しでパーティーを組んでみてください! 皆さんが優秀なことは保証しますから!」


 その『だけ』ってところがすごく気になるんだよなあ……。


 とは言えども受付嬢さんの言うことは事実だ。俺は明日にも食費がなくなるので、もはや選り好み出来る状況じゃない。


 というか別にこの三人が役立たずでもいいか。とりあえずの数合わせになれば冒険者として活動できるしな。


 他の三人も同じなのか黙りこんでいた。


「よし決まりですね! じゃあ後は追放された者同士ということで! 自己紹介とかしてくださいね!」


 なんて嫌な同士だろうか。


「じゃあ失礼しますっ!」


 逃げるように部屋から出ていく受付嬢さん。


 そうして残された俺たちはしばらく無言で空気が重い。よしここは俺が会話の突破口を開こう。


「えーと。俺はヴァルムです。以前のパーティーではメインアタッカー兼メインタンク兼メインヒーラーやってました。ただいきなり他のメンバーが狂って、俺を殺そうとして来たんだ」

「ねえ。君が全部やってたなら他の人間いらなくない?」


 ロリ闇魔法使い(自称)が手をあげた。


「いやいや必要だったよ。他の面子は主に雑用係とかやってもらってたし……」

「いやおかしいでしょ。四人パーティーで三人が雑用係って、それもうゴミ拾いパーティーじゃない?」

「ご、ゴミ拾いパーティーちゃうわ! ちゃんと優秀なパーティーとして活躍してたし!?」


 くっ! このロリ少女、かなり毒舌な気がしてきたぞ! 


「ええと。では次はワタクシですね」


 お嬢様はスカートのすそを手で持って、礼儀正しくお辞儀をしてきた。


「ワタクシはイリア・ルイ・レルティアと申します」

「えっ!? レルティアって公爵家の……!? それにイリアって聖女って呼ばれてる人じゃ……!?」


 盗賊娘ちゃんが驚きの声を上げた。


 俺もレルティア公爵家のことは知っている。このエグザイル王国の大貴族にして、王家の次に権力を持っていると言われる家だ。


 そしてその三女は聖女と呼ばれていて、最近王太子との婚約破棄をしたと噂が流れていることも。


「その通りです。私はレルティア公爵家の三女で、世間からは聖女と呼ばれていました」

「そ、そんな貴族令嬢がどうしてこんな場所に?」


 俺は思わずそう呟いた。するとイリアさんは涙目になると。


「ぐすっ……真実の愛を見つけたって言われて、一方的に婚約破棄されましたの! それで両親からも、婚約破棄された娘などいらないと追い出されて……私の治療待ちの人もいたのに」


 イリアさんは泣きながら叫ぶ。なんだろう、お嬢様だったのにいきなり可哀そうな人に見えてきた。


 そしてイリアさんも貴族流の追放をされたようだ。追放と縁のなさそうな人でもこんなことがあるんだなあ。


 ……ところで王太子と公爵令嬢が婚約破棄するって、問題とか起きないのだろうか? まあいいか、下々の俺たちには関係ないし。


 するとロリ黒魔法使いちゃんがまた手をあげた。


「それ治療されずに放置された人たちはどうなるの?」

「知りません! 本当は治したかったですが、半ば無理やり追放されましたから! 他の人が治療するでしょう! だって真実の愛の前では、どんな困難も打ち倒せるそうですから!!!」


 真実の愛は回復魔法かなにか?


 イリアさんはまだ収まりつかないようでさらに叫び続ける。


「だって真実の愛の前では! ドラゴンすら怯えて、悪魔すら消え失せるって言ったんですよあの人! 私との偽りの愛ではゴブリンすら倒せないって!?」

「真実の愛で人を殺せそうですね」


 思わず声に出してしまった。するとロリ黒魔法使いちゃんと盗賊娘ちゃんも口を開く。


「ラブラブパワーでなんか出るんだよたぶん。ほら光線とか」

「チート武器だったりするのかもですね……。ほら勇者の剣ならぬ真実の愛みたいな……」

 

 まじかよ真実の愛すげーな。


 するとイリアさんの話が終わったようで、今度は闇魔法使いちゃんがまた叫び出した。


「なら次はボクだね! ボクはラクシア! 死霊闇呪術師として覚醒したのに、父親に外れスキル持ちは不要と追放されたんだ! 死体をゾンビにして操ったり、生命が生理的に嫌がる激臭を出して魔物を追い払っていたのに! 理由もなく追放されたんだ!」

「むしろ理由があり過ぎるだろ」

「自分で答えを言ってると思いますの」

「生理的に嫌がるってことは、人間も嫌ってことですよね……」


 俺とイリアさんと盗賊娘ちゃんの声が被った。そりゃ追放されるに決まってるだろ! いいかげんにしろ!


「なあっ!? このボクの闇魔法が嫌がられるわけないでしょ!?」

「俺たちと一緒の時にそれやるの禁止な」

「そんな殺生な!?」

「ゾンビを操る奴に殺生を語る権利があると思うな」


 そして俺たちは最後に残ったひとり。つまりは盗賊娘ちゃんに目を向けた。


「ええと……私はリーンです。その、追放された理由も言わないとダメですか……?」

「そうだね。みんな言ったんだからさ」

「ここまで来たら教えて頂きたいですわね」

「ボクより不当な理由ではないだろうけどね!」

「わ、わかりました」


 リーンちゃんは軽く息を整えると、


「私は盗賊シーフです。雑用しか出来ないのはいらないと、ダンジョン内で置き去りにされました。あまり強くないですが雑用ならそれなりに出来ると思ってます……あの、皆さんどうかされましたか?」


 リーンちゃんの話を聞いて、俺たちは微妙な顔をしていた。


 何故かというとちょっと申し訳ないのだが……。

 

「追放される理由が妥当というか。正当っぽい理由で不当に追放されたというか。他と比べるとインパクトが弱いというか」

「申し訳ないのですがありそうな話ですね、と」

「ボク戦えないなら追放されてもやむなしと思っちゃった」

「追放にインパクトを求めないでください!? むしろなんで皆さんは追放されたんですか!?」

「「「うっ」」」


 そしてまた空気が固まってしばらくした後、俺は意を決して口を開いた。


「……えっと。とりあえずこの面子でパーティー組んでみる?」


 するとイリアお嬢様は小さく頷いた。


「そうですわね。ダメなら解散すればいいわけですし。それに怪我人や死人が出た方が好都……ああいえ。私なら癒しの力で治せますわ!」


 ……んん? なんか不穏な単語がなかったか? いや気のせいだろう。


「ボクは天才だから仲間を選ばないよ! 仲間なんていなくてもゾンビとか使役すればいいし!」


 闇魔法使いことラクシアは元気よく叫ぶ。


「よろしくお願いします。私は雑用メインになりますが」


 そして雑用係追放のリーンちゃんがペコリと頭を下げてきた。


 パーティー追放者の俺、追放令嬢のイリア、外れスキル持ちのラクシア、雑用係のリーン。


 そんな追放仲間の俺たちは、パーティーを組むことになったのだ。



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