第3話 追放されたら評判悪い
ヴァルムがパーティーを募集してから二日目ほどの頃。冒険者ギルドの酒場では、冒険者たちが飲んだくれていた。
男たちは木のグラスで乾杯した後にワインを飲み干すと。
「なあ『実質ソロ』のヴァルムがパーティーを追放されたらしいぜ。それで今は入れてくれるパーティーを探してるらしい」
「まじかよ。ヴァルムのいない『漆黒の牙』なんてゴミじゃん。薬草採りも無理なんじゃないか? なんで追放なんてしたんだよ」
「分からん。だがだからこそ噂になってるんだ。実はヴァルムはかなり酷い性格なんじゃないかってな」
「どういうことだ?」
冒険者たちはツマミの乾燥スライムを食べながら、さらに話に興じていく。
「お前の言った通りだよ。ヴァルムのいない漆黒の牙なんて、もはや漆黒の牙から漆黒の牙を除いたようなもんだ」
「なんも残ってないじゃん」
「というか思ったんだけどさ。漆黒の牙ってようは黒い歯だろ? それただの虫歯じゃねえか!」
酔っ払いどもはゲラゲラと下らない話をし続ける。
「本題に戻るぞ。ヴァルムが抜けたら漆黒の牙は何も残らねえ。そうなるのはバカでも分かる。だから普通は追放なんてあり得ない。つまりヴァルムに追放されるほどの問題があるんじゃないかってな。だから皆、ヴァルムはパーティーに誘わないそうだ」
「冒険の途中で裏切られたら困るもんな。あいつ強いからこそ問題児だったら危険だし。せっかく優秀だけどもリスクがあるんじゃな」
ヴァルムの優秀さは多くの人間が知るところだった。
ヴァルムが『漆黒の牙』のメインアタッカー兼メインタンク兼メインヒーラーであり、その能力には文句の付け所がないことも。
というかむしろ他のメンバーはなにをしていた? という疑問まであったくらいだ。もうヴァルムだけでいいじゃんと。
だからこそヴァルムが追放されたことに問題を感じてしまう。そんな優秀な人間なら普通は追放されるわけがないと。
いくらなんでも他のパーティーメンバーもそこまで馬鹿じゃない。馬や鹿でも優秀な群れの長を追放なんてしないのだから。
「冒険者の間じゃ持ち切りの噂だぜ。ヴァルムは実は三人くらい殺してて、逃げまわってる犯罪者だってな」
「ん? 俺は人妻を三人くらい姦通したクズって聞いてるが」
当然だがこれらの噂は嘘だ。しかしヴァルムが優秀過ぎるのに追放されたことで、この嘘にいくばくかの真実味が生まれてしまっている。
「俺はそっちは初耳だな。まあともかくヴァルムは強いが、パーティーに入れるには危険な奴ってことだ」
「了解。俺の知り合いにも検討してる奴がいたから広めておくか」
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そうしてパーティーを募集してから一か月後。ヴァルムはギルドの受付嬢に詰め寄っていた。
「な、なんでですか!? どうして誰もパーティーに入れてくれないんですか!?」
「え、ええと。やはり追放されたというのは外聞が悪くて、皆さん敬遠しがちになってるというか」
「そんな!? 報告した通り、俺は悪いことをした覚えはないんです! 他のメンバーがいきなり背中を刺してきて! だから正当防衛で半殺しにしただけで!」
「言うほど正当防衛かは議論のしどころだと思いますけどね」
受付嬢はヴァルムの対応をしながらかなり困っていた。
(弱ったなあ……ヴァルムさんが追放されたことは、冒険者たちの間で悪い噂になってるのですよね)
メインアタッカー兼メインタンク兼メインヒーラーが追放された。それは普通のパーティー脱退とはわけが違う。
パーティーの要である優秀な人間が、なんの理由もなく追放されるわけがない。実際はともかくとして、周囲の人間は間違いなくそう判断するからだ。
人は理解できないことには理由をつける。今回の場合ならばヴァルムがかなりヤバイ人間と、他の冒険者たちに思われているのだ。
確かにヴァルムは間違いなく優秀で、この都市でもトップクラスの冒険者である。だが優秀でも問題児であれば、大抵のパーティーは仲間に誘わないのだ。
(冒険者の仕事は命がけです。強かろうがリスクのある人間は誘いませんからね。強いけどパーティーの和を乱す人間より、多少弱くても連携してくれる人を選びます)
優秀な人間であろうと人格に問題があれば誘われない。そして冒険者は向こう見ずな人間と思われがちだが実際は違う。
むしろ危険な仕事だからこそ、なるべくリスクを減らす傾向がある。危険な工事現場ではより安全確認をするように。
「俺は決して問題を起こす人間じゃないですよ!?」
「ヴァルムさんは善人かはともかくとして、決して問題児まではいきません。それは私も知ってます」
「ですよね!? ……ん? なんか最初の方で妙な事を言われたような」
「気のせいでしょう。ともかく今の状態ですと、募集をかけても誘ってくれるパーティーはいなさそうですね。酷い噂も出回ってますし」
「どんな噂なんですか?」
「ええと。『子供百人殺して逃げてきた男』とか『人妻百人姦通』とか『虫歯だらけ』とか……」
「どれも大嘘なんですけど!? というか虫歯ってなんですか!?」
ヴァルムの噂には尾ひれがついてしまっていた。
受付嬢自身はヴァルムの人柄を知っていて、多少の問題はあれど悪い人間ではないと知っている。
他にもヴァルムのことを知っている者もいて、彼らはこんな噂を信じてはいない。いないが……。
(もし私がパーティーのリーダーなら、ヴァルムさんは誘わないでしょうね。外聞もあるし噂を聞いた他のメンバーが嫌がるだろうから。たぶん他も同じでしょう)
もはやヴァルムが冒険者パーティーに誘われるのは、極めて困難なことになっている。本人の実力も性格も関係ない。
ヴァルムは少し黙り込んだ後に。
「……分かりました。ならもうギルドでの募集はやめて、知り合いのパーティーに入れてもらえるように直訴します。俺ならひとりでもダンジョンに潜れるので、加入さえしてしまえばいいんですから」
「それはダメです! ギルドマスターが禁じたんです! ヴァルムさんがそんなことしたら半分脅しになると!」
ヴァルムは今まで加入活動を、ギルドを通してしか行っていない。それは彼が怠慢だったのではなく、ギルドからきつく止められていたからだ。
その理由はヴァルムが強すぎるから。そこらの冒険者パーティーにヴァルムがお願いした場合、もはや脅しに近くなってしまう。
言い寄られたパーティーの立場からすれば厄介な話だ。下手に断って恨みを買うのも困るが、問題児をパーティーには入れたくないのだから。
ヴァルムはギルドの言うことには従うので今までは自重していた。だが我慢にも限界がある。
「なら早くパーティーを紹介してくださいよ! もう生活費が残ってないんですよ! それに最近はいろんな奴が俺を見て、『クズ』とか『追放された』とか言ってくるんですよ!?」
「そ、それはお気の毒ですね……」
「昨日も知らない奴に馬鹿にされて、喧嘩まで売られたんです! なのでダンジョンで活躍することで名誉挽回したいんです!」
ヴァルムからすればギルドに不満を言うのは当然だ。なにせ自分でのパーティー加入活動は禁じるくせに、パーティー紹介をしてくれていない。
このままでは生活が出来ないのだから、ここで文句も言わない方がおかしい。
「分かってます。もう少しだけ待ってください……」
「…………わかりました」
明らかに不満アリアリと言った様子で帰っていくヴァルム。
そうして業務が終わった後、受付嬢はギルド内の執務机でうなだれていた。
「うう……! ヴァルムさんの言い分も分かりますけどね!? 私だってギルドの受付嬢でしかないんですよ!? 文句言われてもどうにもならないじゃないですかっ! そうですよね! ギルドマスター!」
「う、うむ。そうだねえ」
ギルドマスターと呼ばれた温和そうな老人は、受付嬢に対してなだめるように告げる。
なおヴァルムにパーティー加入活動を禁じたのはこの老人であった。そんな彼は手をポンと叩くと。
「そうだ。ここはヴァルム君を他国の冒険者ギルドに移すのは……」
「ああもう! こうなったら仕方ありません! ちょっと耳を貸してください!」
だが受付嬢は勢いよく立ち上がり、ギルドマスターへと耳打ちをした。
するとギルドマスターは目を細めて困惑している。
「はあ!? なにを言ってるんだ君は!? ヴァルム君は他国へと送り出し……」
「簡単にそんなこと言ったらダメですよ! 私の案の方がいいですって! どうせヴァルムさんは汚名まみれなんですから! 汚物と汚物が混ざっても変わりませんよ!」
「君の方がダメなことを言ってると思うがね!? というか正気か君は!?」
青ざめるギルドマスターに対して、受付嬢は目を見開いて笑い始めた。
「木を隠すなら森の中! 汚名を隠すなら掃きだめの中です!」
「やめなさい!? そんなことをしたら危険だ!」
「大丈夫です! 危険同士が組み合わさったら案外安全です! マイナスとマイナスはプラスなんです!」
「そんな計算式みたいな考えはやめないか!? いや本当にやめなさい! それは組み合わせてはいけない禁忌だ!」
「ギルドマスター。実は私、以前にマスターがギルドの金を着服したのを見て……」
「いやはや!? 君の言うことも一理あるかもね!? ははははは!?」
「じゃあ早速ですが他のギルド支部と、後は神殿にもお手紙を出しますね!」
そうして受付嬢の恐ろしい計画が実行されようとしていた。
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