第2話 追放追放アンド追放


 ヴァルムが追放されたのとほぼ同日。とある事件が複数の場所で起きていた。


 そのうちのひとつは王城の広間で行われているパーティーでだった。


 着飾った金髪の少年が、とある貴族令嬢に向けて大声で宣言する。


「イリア・ルイ・レルティア! お前との婚約を破棄する! 私は『真実の愛』を見つけたのだ!」

「なっ……!? ジーザス様!? いったいなにを仰るのですか!?」


 イリアと呼ばれた少女は驚きの声を上げた。


 いきなりの婚約破棄という単語に、周囲のパーティー参加者から怪訝な目が集まる。


 だが発言者であるジーザス・フォン・ゼウルスは威風堂々としていて、周囲からはイリアが粗相をしたかのように見えてしまっていた。


「お前は最後まで余を理解しない女だな。私はお前との婚約を破棄して、ラトネを正妻として迎え入れる! 故に貴様は不要だ!」


 ジーザスはラトネと呼んだ少女の肩を抱いている。


 王太子であろう男が王城のパーティーで、婚約者に見せつけるように他の女の肩を抱く。明らかにイリアへの当てつけだった。


「ジーザス様! ラトネは男爵の娘です! 側室にするならいざしらず正妻など! それに婚約破棄なんて貴方の一存で決めてよいことでは……!」

「黙るがいい! 余は王太子にして次期国王だ! この程度の些事を決める権利はある!」

「いいえ黙りません! 伯爵家の娘である私と、王太子である貴方が婚約破棄などすれば大問題になりますわ!」

「その貴様の正論がうっとうしいと言っておるのだ! 聖女と言われていつも正しいことばかりなところが、余がもっとも嫌うところだ!」

「……っ」


 イリアは強力な聖魔法の使い手であり、聖女と呼ばれている。


 彼女は次期王妃としてそのよび名に相応しくなろうと、常に正しくあらんとしていた。つまりイリアの生きざまに等しいところが、婚約者に嫌いとまで言われてしまったのだ。


 それはもはや彼女にとっては自分の全てを否定されたに等しかった。


「私とラトネの真実の愛の前では、ドラゴンすら怯えて悪魔すら消え失せる! いかなる困難とて乗り越えられるのだ! だが貴様との愛ではゴブリンすら追い払えぬわ! 正しきことしか言わぬ貴様とではな!」

「わ、ワタクシは貴方に相応しくなるために……」


 イリアは膝から崩れ落ちて両手で顔を覆い隠した。


「二度と余の前に姿を現すな! 正論しか言えぬ聖女が!」


 そしてまた新たな追放者が誕生した。


 


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 イリアが追放されたのとほぼ同日同時刻。とある貴族の屋敷の一室。


「ラクシア! 貴様を我がベイロン男爵家から追放する!」


 椅子に座った老人は、ラクシアと呼んだ少女に向けて宣言する。


「そ、そんな……!? どうしてですか!? お父様!?」


 ラクシアの叫びに対して老人の目は冷ややかだった。


「知れたことよ! 貴様があろうことか『死霊闇呪術師』などという自我能力ユニークスキルに目覚めたからだ! そんな者を我が家に置いておくわけにはいかぬ!」

「そんな!? 死霊闇呪術師の力は有用です! 今だって領地に魔物が寄り付かないのは私の力で……」

「だまらっしゃい!」


 老人は怒りに任せて立ち上がると、ラクシアの頬を平手打ちした。


 この世界では急に不思議な力を会得することがある。今までの生きざまや生まれ持った才能などが、目覚めるからと言われているが定かではない。


 ただしひとつだけだけ断言できるのは、目覚める力は選べないということだけだ。


「有用かで話しているのではない! 男爵家としての外聞の問題だ! 死霊闇呪じゅちゅ……!」


 死霊闇呪術師はものすごく言いづらい。老人はそのため噛んでしまった。


 彼はそのことにさらに激怒して、顔を真っ赤にして咆哮する。


「ええい! こんな言うことすらはばかられる力に目覚めた者など、我が家に置いておくわけにはいかぬ! このベイロン男爵家に貴様のような娘はおらん! 失せるがいい!」

「そ、そんな……それはお父様の活舌が悪いだけです!」

「去ね! もはや貴様は我が娘ではない!」


 そしてまた新たな追放者が誕生した。





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 さらに前の二人とほぼ同日同時刻。


 とあるダンジョンの洞窟の中で四人の冒険者たちが逃げていた。三人の男に一人だけ少女の組み合わせだ。


 そんな彼らの少し後ろからは巨大なカエルの群れが迫ってきている。


「リーダー! どうするんだよ!? このままだと追いつかれるぞ!?」

「だ、大丈夫だ! 俺に策がある! リーン、こっちにこい!」

「は、はい! なんでしょうか!?」


 リーンと呼ばれた少女は、リーダーの男に近づいていく。


「なあリーン。お前はテイマー兼雑用係だよな? 戦闘以外はなんでもやるのが仕事だよな?」

「は、はい……」

「じゃあこれもお前の仕事だよなぁ!」


 男はリーンを足で引っ掛けて転ばしてしまった。


「……えっ?」


 リーンは地面に右膝を打ち付けてしまった。全力で走っていたため衝撃も相当なもので、膝は出血してしまっている。


 リーンはなんとか立ち上がるが、痛みでうまく走れていない。


「リーン、お前はこのパーティーから追放だ! よし、リーンがカエルたちに食われている間に逃げるぞ!」

「ああもったいねえ……見た目は悪くないから、今度襲おうと思ってたのに!」

「命のほうが大事だろうが! それにあいつは戦力にならないし、代わりならいくらでもいる! 雑用しかできない奴はいらないんだよ! 胸もペチャンコだしな! ほら逃げるぞ!」


 男たちは必死に逃げていく。リーンも彼らに追いつこうとするが、右足がうまく動かず歩く程度のスピードしか出ない。


 後ろからは自分よりも大きなカエルが、数十匹ほど迫ってきていた。


「ま、待って……! 待ってください……!?」


 リーンは涙目になりながら叫ぶが、すでに他の三人は見えなくなってしまっていた。


「「「「ゲコッ!!!」」」」


 そしてカエルの群れはリーンに追いつくと、彼女を逃がさないように包囲してしまった。


「ひっ……!? あ、あの、皆さんは待たないでいいですよ……? ど、どうぞお先に……」

「「「「ゲコッ!!!」」」

「ひいっ!?」


 恐怖のあまり尻もちをつくリーン。


 カエルたちは値踏みするかのように、リーンをジッと見つめ続ける。そして口を開いて長く大きな舌を伸ばした。


 そしてまた新たな追放者が誕生した。


 この日、四人が奇跡的にほぼ同時刻に追放された。 まるでなにかの糸でつながっているかのように。




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死霊闇呪術師って十回言ってみてください。私は噛みました。

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