来訪者
コーラルたちが菌糸の森に立ち入った頃、ダンたちはギルドにやって来ていた。
プルームがなかなか姿を見せなかったため、他のパーティと比べると少し出遅れたことになる。
この街は中央に走る大通りを境に東西に二分される。
どちらにしても生活の質はそんなに変わらないが、強いて言うならば西側の方が商業施設が多く賑わっていた。
その大きな括りに倣うように、ギルドも東西に一つずつある。
ダンたちは街の西側に住んでおり、そのため普段は西側のギルドに通っていた・・・・・・のだが、今回は東側のギルドにやって来ていた。
理由は単純明快、プルームがコーラルの姿を見つけたのが東側のギルドだったからである。
「居ないですね、りぃだぁ・・・・・・。ま、ダメ元でしたけど・・・・・・」
その言葉通り大して期待はしていなかったシュルーム。
しかしかと言って気落ちしないわけではない。
シュルームは疲れた瞳で、細く息を吐いた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ダンとプルームは何も言わない。
お互い精神的に疲弊しているということもあるし、コーラルが居なくなってから二人の間柄は気まずいものになっていた。
パーティ昇格の喜びも束の間、すっかり心は離れてしまう。
たった一人の少女が欠けただけで。
一番の責任はダンにある。
それはダン自身がよく分かっていて、シュルームとプルームも擁護のしようがない。
だが、その二人もまたダンを糾弾できる立場ではないのだ。
コーラルが家を発って数日、やっとそれぞれがそれぞれの失敗と向き合い始めた。
だからこうして、彼らはなんとか形だけでもパーティの姿を取り戻している。
三人はやはり言葉は交わさぬままに、依頼掲示板に向かう。
ここ数日活動できていなかったから、それなりに報酬の美味しい・・・・・・つまり難易度の高い依頼を引き受けなければならないだろう。
ただ、今のこのパーティのコンディションでそういった依頼がきちんと達成できるかはまた別の話だ。
「りぃだぁ、どうします? 一応パーティの等級は上がったし・・・・・・そこそこ難しい依頼も受けられますけど・・・・・・。あ、でも人数制限・・・・・・」
すっかり意気消沈してしまっている男二人に変わってシュルームが依頼に目を走らせる。
しかしそこで少し問題となってくるのが、パーティの人数制限だった。
一応形式的には三人でパーティとしてみなされるが、しかし多くの依頼は四人以上を前提としている。
本当はコーラルが前線から退くのと一緒に四人目のメンバーに誰か呼び込む予定だったが、そんな予定は当然今のダンパーティには履行できなかった。
シュルームがそうやって真面目に二人に問いかけても、やはり二人は答えない。
シュルームだってコーラルが去ってしまったことから立ち直ったわけではないが、それでも二人は尚酷い。
日が経つにつれこの手の傷は癒えていくものだが、今は二人の痛みは深まるばかりだった。
「はぁ・・・・・・今日も、やめときますか? 死んじゃったら、元も子もないですしね」
「いや・・・・・・」
シュルームの言葉に、やっとダンが応じる。
その後、誰にも届かないくらいの声量で「すまない」と言ってからシュルームの隣に並んでクエストボードを覗いた。
そのような小さな声でも、シュルームは聞き逃さなかった。
「ほら、プルームも。やるんだったら・・・・・・みんなで選ばないと。みんなで行くクエストなんですから・・・・・・」
「・・・・・・みんな・・・・・・」
プルームはシュルームの「みんな」という言葉に、俯く。
しかし、いつまでもこうしていていい時ではないとプルーム自身分かっているので、ダンと同じようにクエストボードに歩み寄った。
そうして三人で依頼を眺めていると、またもう一人ギルドの中に入ってくる者がある。
通常のパーティとしては不自然な時間、さらには一人ときて、自然ダンたちの視線は来訪者に向かう。
幼稚なまでの幻想、期待。
もしかしたらコーラルかもしれないと、やって来た人影に視線が集まる。
しかし、当然と言えば当然か・・・・・・現れたのはコーラルではなかった。
細いフレームの丸メガネをかけた、大人しそうな風貌の少女。
何かの制服なのか、妙に堅い印象のある白い服に身を包んでいた。
見ない顔。
もっともダンたちは普段東側に来ないのだから、見慣れない人物が居るのは当たり前なのだが・・・・・・今回はそういうわけでもない。
少女の雰囲気が、この街と違うのだ。
明らかな異邦の者。
生活の匂いが薄く、どこかこの街に馴染まない。
少女は真っ直ぐにギルドの受付窓口に向かい、その口を開く。
「すみません。緊急で・・・・・・菌糸の森について話があります。この街のギルドの管理人の方は?」
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