ヌシの真相、そして・・・・・・
いきなりやって来た少女に、ギルド職員も少し困惑した様子で受け答える。
ダンたちのところからもその職員の姿が見えるが、どうやら羊の獣人のようだった。
「えっと・・・・・・すみませんが、オジョーさんはどういった方で・・・・・・?」
「それは・・・・・・えっと、ただの・・・・・・学生です・・・・・・」
獣人の言葉に、少女は少し言葉に詰まる。
もちろん、一端の学生にはギルドを動かすような影響力はない。
少女はそれも分かっているようだが、しかしそれ以上に慌てた様子だった。
まるで他にもう手が無いというように。
「なんですかね、あの子?」
シュルームも、少女のただならぬ様子に首を傾げる。
毎日色々な人が訪れるギルドとはいえ、この少女のような人物は稀だった。
獣人は管理人こそ呼ばないが、一応はといった様子で少女に説明を求める。
「そんなに慌てていったいどうしたんですか? 菌糸の森ということは・・・・・・例のヌシに関することデショーか?」
「違います! 第一、あの森にヌシなんて居ませんよ。それよりもっと、緊急で対処が必要なんです! 今ならまだ間に合うかも・・・・・・」
「ま、まぁまぁ・・・・・・落ち着いて・・・・・・」
獣人の言葉に、少女は苛立たしげな表情を一瞬浮かべる。
しかしすぐに観念したように息を吐いて、仕方なく獣人のペースに合わせた。
「それで・・・・・・ヌシじゃないならいったいなんなんです? いや待って・・・・・・ヌシなんて居ない!? それってどういうことなんですか!?」
したい話までの道のりが長そうなのを感じてか、少女の足が忙しなく床を叩く。
足踏みするように、焦りを表現する。
しかしそれは受付越しの獣人には伝わらなかった。
「ヌシなんて魔物は存在しないってことですよ」
それでも少女はこれを必要な手間と解釈したのか、脚を揺すりながらもヌシについての説明を始める。
「まずヌシの特徴ですが、いくつか記録を漁ってみたところ取り留めがなさすぎました。新しい情報になるにつれ、ある程度の一貫性は出てきましたが、存在が確認され始めたばかりの頃は特徴がバラバラです」
「いや、それはそうなんですけど・・・・・・キメラかもしれないって説もありますし・・・・・・。何より実害や痕跡がありますから、存在しないっていうのは・・・・・・」
菌糸の森のヌシ。
それはこの街で都市伝説のような扱いではあったが、どの見解も何かが存在するというのは間違いないとしていた。
それを見慣れない、それも学生の少女が存在しないと語るのだから・・・・・・当然にわかには信じがたい。
少女の早口な説明は続く。
「確かに多数の痕跡があります。しかしその痕跡の中にも、やっぱり不自然なものがあります。現在、ヌシは大型の魔物だと推測されているようですが・・・・・・そのヌシの残した被害には性被害もあります。そんな大型の生物が人体を破壊せず陵辱できるとは考えられません」
「だ、だったら・・・・・・キメラだったとしたら、それって別に筋は通りますよね?」
「・・・・・・ヘンに食い下がらないでくれますかね・・・・・・」
少女は苛立ちを隠しもせずにため息を吐く。
しかし相手となっている獣人は大真面目にそういった疑問を投げかけているようで、だから少女も取りあうしかなかった。
「いいですか? キメラを作るのってそんな簡単じゃないです。違う生き物同士を継ぎ接ぎして全く違う何かを生み出すんですから。そうなったとき、小さな体の生物を生み出すのはかなりの技術を要するでしょう。真理の庭の見解では中型以下のサイズのキメラを生み出すことは、現在の技術では不可能です」
「・・・・・・じゃ、じゃあ・・・・・・いったいヌシってなんなんですか・・・・・・?」
獣人がおずおずと、その真相について尋ねる。
「結局そこが知りたかったなら、最初にそれを聞いてくださいよ・・・・・・」
会話の中で引っかかったところから詰めていった獣人に悪態をつく少女。
メガネの位置を直しながら、少女は結論を語った。
「キノコですよ。元々私がここに訪れたのも、ヌシとされている魔物と、後ここ最近この地域のプラヌラ活性が上がっていたのでそれら調査のためです。ヌシの正体はキノコ。酩酊や幻覚の作用がある胞子を飛ばす・・・・・・新種のキノコでした。被害や痕跡を残したのは、理性を失った人間で、大型の魔物っていうのもヌシの噂が幻視する像に反映された結果ですよ」
唖然とする獣人。
一方シュルームは「キノコ・・・・・・?」と、少女の言葉に関心を寄せていた。
しばらく雷にでも打たれたように硬直していた獣人が、やっと持ち直して少女に問い直す。
「あの、オジョーさん・・・・・・ほんとにただの学生・・・・・・?」
「学生ですよ。それより、今はヌシなんてどうでもいいですから・・・・・・まずは行き先が菌糸の森の依頼を一旦全て取り下げてください」
「なっ、そんなことっ・・・・・・!?」
「お願いです。そしたらギルドの管理人が魔導通信機を持ってるはずなので、真理の庭に繋いでください」
散々無駄話をさせられたせいか、少女は獣人の言葉に構わずに言葉を羅列する。
「いったい・・・・・・いったいなんだっていうんですか・・・・・・!?」
気がつけば、獣人の周りに他の職員たちも集まってきている。
人がまばらな時間帯に騒ぎを起こしたのだから、当然と言えば当然だ。
その中にギルド管理人の男も居たようで、困惑する獣人の後ろから少女の前に顔を出す。
そしてその目を丸くした。
「君は・・・・・・!」
「このギルドの管理人、ですね? 菌糸の森に異常プラヌラに侵された巨大な繭が見つかりました。危険ですから、菌糸の森に近づかないよう周知してください。そして、二級以上のパーティに招集をかけて、直ちに真理の庭にも支援を仰いでください」
管理人の男は、少女の言葉を値踏みするように、いや・・・・・・少女自身を見極めるように、鋭い眼差しを少女に送る。
そしてしばらくして・・・・・・。
「分かった。君の言うことを信じよう」
真剣な表情で、深く頷いた。
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